道場の場所についていろいろ調べていると、天然理心流の公式サイト内に以下のことが書かれていた。

入門希望者は、メールにてご連絡ください。ただ見てみたいといった興味本位の見学はお断りしておりますが、入門を前提とした見学は可能です。特に入門資格はありませんが、中学生以下のお子様や現在他流の古武術に在籍中の方、また新選組の扮装をする等のパフォーマンスを期待されている方は不可とします。剣道等の経験は必要ありませんが、心身ともに稽古に支障のない状態であること。お教えするのは心武館に伝承された技なので、心武館に入門していただき、宗家道統に登録する形になります。

よく考えてみれば当たり前のことである。あくまで天然理心流は武術の1つであり、真剣に習っている門弟の方からすれば興味本位や単なるコスプレ好きな新選組ファンは、稽古の邪魔でしかない。その点をしっかりと胸に刻み、純粋な気持ちでの取材であることを文面にしたため、メールを送信。するとすぐに返事が返ってきた。結果だけ言えば、取材はOK。ただ場所はセキュリティ等の問題から公開しないでほしいという条件付きだ。

その条件を飲んだことを伝えると道場の場所がメールで送られてきた。やっと道場に行けるのだ。期待に胸が膨らむ。

とうとう、道場内に潜入。場所は新宿区内のとある体育館だ

木刀、実は太くありません

取材当日。カメラマンとアドバイザーとして体験稽古に参加してもらった女性(27)と筆者の3人で道場へと向かった。指定された体育館内に入ると、剣術姿の男女がちらほら。「ここでよかったんだ」とひとまず安心したところで、高鳥塾頭に天然理心流について話を伺った。

最も興味深かったのは新選組局長、近藤勇が四代目宗家であった天然理心流は、現在も新選組ファンから根強く支持されている一方、誤った情報がWebサイトなどで流出しているこということ。たとえば「稽古で使われている木刀は野球のバットくらいの太さである」といったもの。「普通の木刀を使っております。江戸時代に当流の稽古に使われていた木刀が多数現存する中でそのような木刀は一振しか残されていないのです。何故そのような誤解が生じたかというと、天然理心流奉納額に飾りとしてデフォルメされた木刀が掛けられているのですが、それが極端に太く短かったことから来たのでしょう」(高鳥塾頭)。

稽古で使われている木刀。全く太くありません

また小説による誤った解釈も少なくない。ただし「沖田総司の三段突きという技は天然理心流に存在しませんが、畳み掛けるような連続技として三段どころか四段、五段というものもありうる」のだという。

「天然理心流とは自然にさからわず、天に象り、地に法り、剣理を極めるという意味」であるという解釈も誤り。「本質は指南免許を授かってから初めて分かるもの」(大塚館長)らしいが、分かる範囲で教えていただいたところ「剣術というものは天然理心流に限らず実戦を想定しているが、天然理心流は絶対に勝つために技一つひとつが研究しつくされている」のだとか。また、現代において天然理心流を学ぶ価値について大塚館長は「伝統文化、体育としての価値、武術の真髄の3点を学ぶ上で価値がある」。また高鳥塾頭は「130本もの技があり、それぞれの技が良くできています。技として優れていることはもちろんのこと、教える上で教育カリキュラムとしてよく出来ています」と話す。教育カリキュラムとしてよく出来ているということについて大塚館長も「最初に習ったことが軸となっていることが、学べば学ぶほど分かるように作られています」とし、習えば習うほど面白さが実感できる武術であることが窺えた。

取材後は筆者も稽古に参加することに。