本人としては、かなり上手く振れているつもりだったが……

剣術姿へ憧れを抱きながらもあくまで体験のためジャージ姿での参加となった筆者。天然理心流の稽古は準備体操の後、30分程度素振りを練習。高鳥塾頭の指導の下、「晴眼」「平晴眼」「山陰」など様々な構えを習いながら黙々と素振りに励む。学生時代の仲間からは「運動音痴」と評され、その"称号"にかまけて運動を日ごろまったくしていないせいかほんの数分で、腕がしびれてきた。木刀を振り上げるのがやっとといった具合だ。同行者からは「畑を耕しているみたい」といわれる始末である。なお、「ちゃんと稽古に出て1、2カ月経つとちゃんと素振りができるようになる」(高鳥塾頭)とのことだ。

素振りが終わると、今度は組み太刀。組み太刀とは間合いの取り方や詰め方など実際に太刀を撃ち交わすことで覚える稽古であり、今回は組み太刀で最初に習う「序中剣」を教えていただいた。攻撃に対する受けと受けに対する返しの2役をアドバイザーと一緒に何度も練習を重ねる。手順を何度も確認しながら剣を無心に振っていると気持ちが静まっていくのが心地よい。ふと、隣で練習されている方の組み太刀を見ると、ついつい引き込まれてしまった。動きに流れがあり、2人の息がぴったりと合っている。習って1、2カ月というのだから、ただただすごいとしか言いようがない。

晴眼は、相手の上段へ真っ直ぐに剣を向ける最も基本的な構え

平晴眼は、相手の左目に剣先を付け、やや刀身を右に傾ける構え

山陰は、剣先を下に向け、体側に沿わせる攻撃的な構え

序中剣は、双方歩み寄り打ち合う。互いに引いて再度打ち合う。仕太刀が中心をとって気を持って攻める。打太刀は振りかぶりながら退る。仕太刀がすかさず前進し出頭を制する

迫真の演武

最後に、抜付の練習を行い2時間程度の稽古は終了となる。参加しているのは学生やサラリーマンなど年齢も職業も様々。もちろん女性の姿もある。「大体門弟の2~3割が女性」(高鳥塾頭)らしい。最初は新選組が好きで始めたという人が多いのも事実。ただし大塚館長は「天然理心流を後世に正しく残していくためにも、パフォーマンス的なことは一切しておりません。真面目に天然理心流を学びたい人であればいつでも門戸を広げております」と話した。また、「天然理心流の将来のためにも、出来るだけ多くの方に知っていただきたい。現在は東京消防庁昭島消防署長の職にあるので、仕事の合間を見てボランティアで教えているが、退職後は天然理心流に専念し、いずれは門弟を3,000名にまで増やすことが目標」(大塚館長)だとか。

抜付の練習

取材に行った翌日。同行したアドバイザーからメールが届いた。「今回、貴重な体験をさせていただいて、もちろん新選組ファンとしては非常に幸せなことだったが、そういった事を抜きにしても、天然理心流というものに非常に魅力を感じた自分がいた。もし、時間が許すならば入門してみたいなぁ、と思うくらいには」。メールを読みながら、私も入門したいという気持ちが高まっていたことを隠せずにいた。アドバイザーと同じく、時間が許せば、の話だが。