劇場版『機動戦士ガンダム』制作当時の思い出

――劇場版『機動戦士ガンダム』が制作されていた当時の思い出などはありますか?

「TVシリーズが終わった後、これでやり遂げた! って思いがすごくありました。これでアムロもやっと普通の男に戻れた、よかったよかったって(笑)。で、映画でまた最初からやるって聞いたので、"うわ、辛いな"って思ったんですよ。また最初から戦争やんなきゃいけないのかと。これが劇場版が決定したときに最初に思った正直な感想ですね。でも、待てよと。せっかく、ナイーブな少年というのを自分なりにやり遂げたんだから、それを今もう一回できるということは、定着させることができるじゃないかと。自分の中に確固としたものとして。しかも、すべてのストーリーがわかったうえで計算して演じられるわけだから、まったく自分の思いでアムロを作り直してみようって。そう思って臨んだのが、今回発売の劇場版なんですよ」

――劇場版の収録で困ったことなどはありましたか?

「劇場版となると、TVと違って、口パクが大きく見えちゃうんですよ。TVの小さな画面だったらゴマカシが効くんだけど、映画館だとごまかせない。きっちりと合わせていかないと、観ている人が違和感を感じちゃうんですよ。だから、そういったところにも注意しつつ、なおかつリアルな設定のアニメーションだから、会話とかも、リアルに、アニメアニメしないよう、生きたアムロを演じようって心掛けましたね。実際、最初のTV放映のときは、視聴率1ケタで打ち切りになっているわけです、43話で。でも、その後の盛り上がりによって、映画化されたわけですけど、本当にお客さんが来てくれるのかな? って当時ちょっと不安がありましたね」

――本当にファンから受け入れられているのかが不安だったということですね

「映画初日の舞台挨拶に立って、満員の観客を見て、やっと『ああ、この作品すごいんだな、自分たちのやったことが受け入れられているんだな』って、そのときに初めて実感できて、"よかったなあ"って素直に思いました。自分がトライしてきたことは間違いじゃなかったんだって」

ファーストから劇場版、そして『Zガンダム』へ

――ファーストガンダムから劇場版と来て、そのあとアムロは『機動戦士Z(ゼータ)ガンダム』にも登場します。『Zガンダム』におけるアムロは、その延長線上として演じたのでしょうか。それとも、またキャラクターを一から作り直したのでしょうか。

「ファーストガンダムで、もうガンダムはやらないと思ってましたから、ZガンダムでTVシリーズがまた始まるって聞いたときは、正直『ウソだろう』って思いましたね。カミーユって少年が、また戦争に巻き込まれていくって聞くと、『柳の下にドジョウは2匹いないぞ』なんて思いながら(笑)。でもやっぱり気になるじゃないですか。その時点ではまだ、まさかアムロが出てくるなんて思ってなかったですから、まあ、ちょっと見守ってみようって、思ってたんですよ。けど、出てきちゃったから、『えー』と思って一生懸命に台本読んだり、設定を聞いたりして。でも、いくら調べても、よくわかんないんですよ、アムロが」

――たしかに、最初に登場した際のアムロの立ち位置って、非常にわかりにくかったですね

「そうなんですよ。なんでこんなに情けないアムロなの? って思うじゃないですか」

――一年戦争の後になにがあったのかと

「そう、どうなってるんだ一体。ニュータイプとして目覚めて、あんなに大活躍して。一応ヒーローだったのに、ねえ。なんだか軟弱になってるし、なんか厚かましい女は出てくるし(笑)。で、そのベルトーチカを好きになるじゃないですか、アムロは。なんで? わかんないんですよ、アムロの気持ちが。だから、最後まですごく戸惑いました」

――古谷さんとしては納得して演じられなかったわけですね

「はい。結局、消化不良のままに終わってしまったんですよ、Zガンダムは。そのやり切れてないというところが、自分の中でも一つの汚点として残っていたんです。アムロファンにはすごく申し訳ないという思いがずっとありました。実はそんな状態で演じてしまったことが。それが『劇場版Zガンダム三部作』っていうので、もう一回やらせてもらえることになったじゃないですか。だから、Zガンダムの劇場版に関しては、自分自身の気持ちを整理して、アムロの気持ちをしっかり理解したうえで、まずベルトーチカを好きになろうって(笑)。やっぱり、そこは年月が僕を大人にしてくれたんで、ベルトーチカも受け入れられるようになったんですよ、大人として。だから、一年戦争で何度も辛い思いをしたアムロが、別荘のようなところで豪勢な生活をして腑抜けになっているのも理解できたし、カツやフラウに叱咤されて、もう一回、戦いの中に身を置いてみようって決意したのもわかるし。ベルトーチカについても、やっぱり戦う男にとっては、やすらぎの存在が欲しいわけですよ。命がけで戦うからこそ、どんな自分でも出せる相手が欲しかったんですよ、そばに。それもすごくよくわかりました。ベルトーチカは本当にアムロのことを尊敬してたし、期待してたんですよね。そういう想いがあったからこそ近づいてきた。そのあたりをすべて受け入れたうえで、悔いのないZガンダムのアムロを演じ遂げることができたと思ってます」

――ファーストガンダムの劇場版に関しては、録り直しよりもオリジナルのほうがよかった、とおっしゃってましたが、Zガンダムに関しては、録り直したものがベストということですか?

「はい。ベストですね。自信があります」