オトナが普通に乗れるバイクが少ないんじゃないか、と思った。日本でバイクといえば若い人が中心だから、オトナ向けのバイクが少ないのも仕方がない。それでももうちょっと、オトナが楽しめ、オトナの目にかなうバイクはないものかと思う。オトナのバイクについてアレコレ考えていきたいが、その第1回目としてBMWの「F800ST」を取り上げることにした。

40歳、50歳にもなると、誰でも体力が落ちてくるから、レーサーレプリカはさすがに疲れてしまう。もちろん50歳になってもレプリカをブリブリ乗り回しているのはとてもカッコイイのだけど、大人げなく見えなくもない。

ではスクーターにするか? それは「おっさんクサイ」気がする。この「クサイ」というのは頑として避けなければならない重要なもので、たとえば「貧乏」は許せるが「貧乏クサイ」はダメなのだ。誰でも歳をとれば「おっさん」になるからそれは仕方がない。しかし「おっさんクサイ」はいやだ。個人的に、おっさんクサくないスクーターはヤマハの「T-MAX」だけだと思っている。

オトナのバイクの条件をいくつか考えてみた。 1.ムダに速さを追求しないこと。しかし遅いバイクは論外 2.必要にして十分なパワー。中速域が豊かで疲れないこと 3.ハンドリングのクオリティが高いこと。レスポンスがいいこと 4.高い質感。作りだけでなく、操作などを含めて質感が高いこと 5.よく考えられた独自の機構、デザイン 6.できれば乾燥重量200kg以下。荷物も積めること

1.はレーサーレプリカをイメージしている。速さをむき出しにしたバイクに乗るには若さが必要。オトナのバイクは一歩引いたぐらいでちょうどいい。しかしスポーツ心があるからバイクに乗るわけで、遅くていいという理屈にはならない。3.のハンドリングは何もワインディングだけの話ではない。近所の交差点を曲がるだけでもハンドリングのクオリティは必要だ。

レスポンスの良さはパワーについても同様で、とても重要な要素。たとえばツーリングバイクは"ダル"なほうがいいと思っているなら、それは大きな間違いだ。長距離を走ると疲れて体の反応が遅くなるが、バイクの反応まで鈍いと修正のため、余計に疲れてしまう。少しの操作で素早く反応してくれたほうが疲れが少ないのだ。これは歳をとって体の反応が遅くなってもまったく同じことがいえる。もちろん過敏なレスポンスは論外だ。

6.は最初にするべきかもしれない。ここではバイクを"ハレ(非日常)"ではなく"ケ(日常)"として捉えている。たとえば休日に日常を忘れて走り回る"ハレ"のバイクもある。それなら「ビモータ」やクラシックバイク、カリカリのスーパースポーツでもかまわない。年齢もあまり関係ないだろう。しかし歳をとると、そのためにテンションを上げるのがたいへんで、けっこう気が重いもの。その結果、あまり乗らなくなることも多い。それはもったいないと思う。もっと日常域で使えるオトナのバイクを探したい。ツーリングはもちろん、通勤に使ってオトナらしいバイク、そんなバイクが欲しいと思う。

そうこう考えていて最初に目についたのが「BMW F800ST」だった。このところ"どうかしちゃったんじゃないか?" と思うほど多くのモデルを投入しているBMWだが、その中でもF800は比較的スタンダードなモデル。水平対向エンジンでもなくシャフトドライブでもないという普通さがいい。リーズナブルな価格であることも魅力だ。このBMW F800STに試乗することにした。

左がF800ST、右がF800S。カウルの大きさもずいぶん違う

F800STにバッグなどを装備したツーリング仕様

F800ST。スタイル的には極めてスタンダード

F800S。エンジンがむき出しになり、軽快なイメージ