マツダの業績が絶好調だ。以前マツダは危機的な状態にあったが、そのときにフォードの傘下に納まった。今では業績不振の親会社フォードを支えるほどマツダは好調だが、その重要なマツダ変革ポイントを作ったのはフォード主導の時期。最初は難解だったが「Zoom-Zoom」という基本コンセプトを造りだし、走りを重視する現在のマツダブランドが再構築できたわけだ。

先代とはコンセプトを大きく変え、スポーティコンパクトとして生まれ変わった。マツダらしい躍動美のあるデザインでなかなか美しい

リヤのデザイン的な特徴はウインドー下端がVラインで処理されている点。躍動感を表現するのと同時に後方視界を確保する狙いもある。バンパーのデザインはクロスオーバー的な雰囲気を狙っているようにも見える

新時代のマツダは飛躍できるか? 第一弾が新型デミオだ

今回フルモデルチェンジしたデミオはそのZoom-Zoomを進化させた「サステイナブルZoom-Zoom宣言」に合わせた商品の第一弾ということで、単なるコンパクトカーのフルモデルチェンジとは違った、マツダにとって重要な意味が込められている。今後は07年3月に発表した「サステイナブルZoom-Zoom宣言」に合わせた、Zoom-Zoomの進化系のクルマが続々と登場する。デミオはマツダの近未来を占う上で重要なクルマであるわけだ。

新コンセプトに合わせて開発された新型デミオはドラスティックに変身していた。従来のハイト系ワゴン的なコンパクトカーデザインから、スタイルを重視する魅力的なエクステリアデザインになった。日常での使いやすさを売りにしていた先代とは大きく路線を変えている。実はスタイル自体はすでに海外のモーターショーで発表されていたので見慣れてしまっていたが、RX-8などと共通する彫りの深いフェンダーラインやキックアップしたサイドのキャラクターラインはマツダらしい造形。素直に美しいと思え、今までのデミオとは違うコンセプトであることが、誰にもわかるはずだ。

注目のミラーサイクルエンジン。熱効率を追求しているため低回転トルクは不足気味になりやすいが、変速比が大きいCVTを組み合わせることでスムーズな走りを実現している

ラゲッジスペースには割り切りが感じられる。スペースは標準的でリヤシートを倒したときにできる段差も残されたまま。積載性を求めるニーズは少ないと割りきったわけだ

3代目デミオがスポーティさを全面に押し出したコンパクトハッチとなったのにはわけがある。ヨーロッパで勝負できるキャラクターがどうしても欲しかったのだ。使いやすいハイトワゴンというだけでは、ヨーロッパ車に強敵が多い。マツダはブランドの特徴である走る楽しさを追求した"Zoom-Zoom"のデザインに変えることで、ヨーロッパのコンパクトカー市場に切り込もうという作戦だ。アテンザ(ヨーロッパ名マツダ6)やアクセラ(マツダ3)で築き上げた、マツダ車の走りの認知度は高い。日本では新車販売が低迷しているため、日本市場だけにフォーカスしたクルマ造りができない環境になってきていることも路線を変更した一因と言っていいだろう。

新型デミオのスポーティ化はデザインだけではない。コンパクトハッチで取ったスポーティ化のための手法は、なんとスポーツカーであるロードスター開発時と同様の「グラム作戦」。1グラムでも多く車重を削り取るというもの。つまり軽量化だ。燃費の向上はもちろん、運動性能を高め、同時に動力性能も有利にする軽量化がもっとも大切だということは、マツダのエンジニアはよく理解している。スポーツカーを作り慣れたエンジニアならではの発想なのだ。新型は先代と比較するとなんと約100kgもの軽量化に成功している。元々軽量なコンパクトカーにもかかわらず、これほどの減量は素晴らしい。スポーツカーも軽量化は難しいが、それ以上に開発は困難だったようだ。

またエンジンにも大きな注目点がある。新開発の自然吸気MZR1.3L「ミラーサイクル」エンジンだ。過去にマツダはIHIのスーパーチャージャーを使ったV6エンジンでミラーサイクルを実現していたが、今回はコンパクトな直4のNAで実現させた。熱効率を高めたこのエンジンはCVTと組み合わせることで、クラストップレベルの10・15モード燃費23.0km/Lを記録している。環境性能面でも大きく進化したのが新型デミオだ。

メーターはシンプルなデザインで13C-Vにはタコメーターが装備されない。スポーティモデルではないためその必要性はあまり感じないが、オプションで装着することが可能

インパネシフトのデザインだが、ここが出っ張っているため前席左右のウオークスルーができない。これはヨーロッパでの販売を考えたもので、国内市場でのニーズが切り捨てられた部分だ

走りのいいミラーサイクルが新型デミオのお薦めグレード

注目のミラーサイクルエンジンを搭載する13C-Vの出来はなかなかいい。同排気量で通常の吸排気バルブ制御をする13Cに比べ最高出力は1馬力低い90PSだが、最大トルク値は0.4kgm小さいうえに発生は回転数が500回転高い4000回転になっている。ミラーサイクル化することで燃費向上を狙っているが、その代償として低回転側のトルクが削られているわけだ。だが走らせるとCVTを組み合わせているおかげで13Cと変わらない動力性能なのだ。CVTが低速トルクの低くなったエンジンを補っている。さらに市街地ではCVTならではの無段変速のスムーズな加速感に加え、エンジン回転を低く押さえて加速させているため室内の静粛性が高い。

試乗車にはタコメーターが装備されていなかった(タコメーターはメーカーオプション)ため正確なエンジン回転数はわからないが、15Cと似た制御だろうから60km/h程度までの加速ならば2200回転ほどしか回していないはず。回転を上げずに加速するため静粛性がよく、燃費にも効果をもたらしているはずだ。また、アイドリング時の振動や室内騒音は13Cや同じCVTを採用する15Cよりも13C-Vのほうが静かで振動が少ない。マツダはミラーサイクルを1グレードのみに設定しているため、快適性を犠牲にした"燃費スペャル"と思っていたがどうやらそうではなく、これが新型デミオの本命のようだ。

13C-Vはオプションの185/55R15サイズのタイヤを履いていたため、荒れた路面ではやや当たりが硬い感じがする。乗り心地でいえば標準タイヤの175/65R14のほうがいい。ただし高速域のステアリングに伝わるしっかり感やコーナーを曲がる感じは、やはり15インチのほうがいいので、オプションの15インチを装着するかは購入時に大いに悩むところだ。もっとも費用面を別にすればタイヤは後から変更することも可能なので、まずノーマルで購入して走りに不満があれば185/55R15サイズにしてもいいだろう。

走り重視のモデルが1.5LのSPORT。サスはより固められ、タイヤは45扁平を装着しているが不快な突き上げ感はなく、コーナーリング性能が向上しているのでそれなりに楽しめる。パドルシフトを装備しているが、フロアのシフトノブでモードを変えないと操作が出来ないのが残念。それにエンジンも15Cと共通だから、コンパクトスポーツとして考えると、そのパッケージングはちょっとパンチに欠ける。

SPORTのメーターは美しいデザインで視認性もいい。スポーティグレードだが走りは平均的なもので、コンパクトスポーツらしい刺激は少ない

SPORTのステアリングはスポーティな3スポーツクタイプ。どこかで見たことがあるデザイン。そう、ロードスターと共用している

パドルシフトを装備するのもいいが制御はイマイチ。シフトでモードを変えないとパドル操作を受け付けない

新型デミオのお薦めグレードは、やはりミラーサイクルエンジンの13C-V。燃費がいいということは環境対策にもつながるわけだし、静粛性やスムーズな走りは13C、15Cよりいい。デミオは新世代のマツダ商品群の第一弾として、その役目を十分に果たせそうな出来だった。さらにスポーティさを加速させるマツダ車には今後も注目したい。もうすぐ新型アテンザもデビューする。

ボディは徹底的に軽量化された。試乗した感じではボディ剛性は十分で柔な印象はなかった。それにしてもコンパクトカーで100kgの減量とは驚く

SPORT

純正ETCユニットはバイザー裏のルーフにビルトインされているためスッキリしている。本体をプッシュすることでチルトダウンするためカードを取り出しやすい

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員