ロバート・ロドリゲス監督が、クエンティン・タランティーノとのコラボレート企画「グラインドハウス」の1本として作ったど派手なゾンビ・アクション映画、それがこの「プラネット・テラー」だ。「グラインドハウス」とは、1970年代に米国で流行ったB級映画専門のチープな2、3本立て上映の映画館のこと。詳しくはタランティーノ監督『デス・プルーフ in グラインドハウス』のレビューを読んでね。

対ゾンビ最終兵器

本編が始まる前に、フェイクの映画予告編が流れる。タイトルは「マチェーテ」。ロドリゲス監督の『スパイ・キッズ』シリーズを見たことのある人ならピンと来るだろう。怪しげなスパイグッズを作っている叔父さんが"マチェーテ"である。この架空映画「マチェーテ」の主役も、もちろんマチェーテ叔父さん役のダニー・トレホ。この人もロドリゲス映画の常連だ。殺し屋マチェーテはある政府要人の暗殺を依頼されるが、それは罠だった。九死に一生を得たマチェーテは、自分を罠にかけた奴らに血の報復を開始する……というベタベタな話だが、このマチェーテの出で立ちが、『北斗の拳』で早々にヤラレそうな下っぱみたいな感じで相当笑えた。米国公開版ではもう2本ほど予告編がついてたらしいが、それも見たかったよ。

というわけで本編。物語はとある軍事基地から始まる。軍が密かに開発していたゾンビ化ウィルスがこの基地から漏れ出し、やがて近隣の地域にゾンビが蔓延していく騒動を描くのが本筋だが、ゾンビに襲われることで明らかになっていく人間模様がおもしろい。

ヒロインのチェリー(ローズ・マッゴーワン)はダンサーだったが、雇い主とぶつかって店を飛び出す。町はずれのグリルバーでふてくされて飲んでいるところに、昔つきあっていたがワケありで別れた男=エル・レイが偶然現れた。再会した二人は良いムードで夜道をドライブ……ってところでゾンビに襲われて、なんとチェリーは片足を食べられてしまう。

チェリーが担ぎ込まれた病院には、ほかにもあちこち食べられた人たちが運び込まれ、予想通りゾンビのレストラン状態になる。その病院に務める医者夫婦も問題を抱えていた。奥さんはDVのダンナの目を盗んで浮気相手(しかもレズ)と密会を計画。一方そのレズ相手(演じるはセクシー歌手のファーギー)は乗っていたクルマが故障して、夜道を歩くことに……こりゃ死亡フラグが立ったなと思ったら案の定でした。この相手も病院に搬送されてきたもんだから、結局浮気がバレてさあ大変!

太モモにピストルが見えますけど……エロ怖い

多彩な出演者もこの映画のひとつの見どころ。冒頭の基地シーンで、いきなり不始末をしでかした取引相手の股間の××を(以下自粛)させるのはなんとブルース・ウィリス。この人も仕事選ばないなあ。××した○○を(伏せ字だらけでスマソ)コレクションしている科学者役は……あれ? 『LOST』のイラク兵やってた人じゃん? といったように、この映画は海外ドラマファンにはお馴染みの出演者揃い。チェリー役のマッゴーワンは『チャームド~魔女3人姉妹~』のペイジ役で知られているし、お相手のアウトロー、エル・レイ役の人はどこかで見たと思ったら『シックス・フィート・アンダー』の死体修復士の人だった。この映画の役はまったく逆で「死体破壊士」だけど。そしてエル・レイに疑いをかけるベテラン保安官役にはマイケル・ビーン……老けたなあ。映画終わってクレジット見るまで誰だかわからなかったよ。『ターミネーター』で逃げ回ってた姿が懐かしい。

左手前の血まみれのヤツがエル・レイ

さて、大混乱の病院でチェリーは奇跡的にキレイに治療されて(笑)、右足がない以外はピンピンしている。落ち込んだチェリーを彼氏が慰めてるうちにいつしか…とエロいシーンになったとたん、コマが止まってフィルムに火がついた。しばらくしたら"Sorry, Lost Reel"(フィルム1巻焼失)だって。もちろん演出なのだが、オイラも昔そういう目に遭ったのを思い出したよ! 名古屋の場末のエロ映画館で。ナゼか一番良いところで止まるのよネ。

そんな思い出話はともかく、この映画の一番の見どころは、なんと言っても主人公のゾンビ退治シーンに尽きる。ヒロインが失った右足をマシンガンに変えてゾンビを撃ちまくる――この「足」の特撮がすばらしい。マッゴーワンのアクションと相まって、とても合成に見えない出来だ。最初にマシンガンを足にジャキーン! とはめ込むところでは、いきなり目の前のゾンビたちに向かって回し蹴り乱射! 噴煙とともに吹っ飛ぶゾンビ越しにうっとりする表情はまさに「カ・イ・カ・ン」……薬師丸ひろ子も納得の「一本足と機関銃」だ! ほかにも、先に話の出た女医の奥さんが注射のプロ(笑)で、ガーターベルトに銃みたいな注射器がセットされてたりと、バリエーション豊かなワザでゾンビを次々と料理する。

これがその「カ・イ・カ・ン」な表情。ほんとにウットリしてるわこの子

対するゾンビの描写も負けていない。コアなスプラッターマニアも満足の「お食事シーン」や、ドロドロの特殊メイク(これに関係したタランティーノの出演シーンが爆笑モノ)、そしてもっともらしいゾンビ出現の解釈と、ゾンビ愛の深いロドリゲス監督ならではの凝りようだ。もっとも、ロドリゲスくらいのゾンビ専門家(?)になると、この映画に出てくるようなのは正式にはゾンビとは呼ばず、ウィルスにかかった感染者(シッコ)というらしい。なーんだ、やたらセリフでシッコシッコ言ってるものだから、オイラはてっきり……(ソーリー、以下リール消失)。

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『プラネット・テラー in グラインドハウス』は9月22日よりロードショー。配給はブロードメディア・スタジオ