プロダクション・アイジーは20日、劇場用長編アニメーション作品『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の製作を発表した。原作は森博嗣の小説『スカイ・クロラ』。監督は『イノセンス』などで国内外に熱狂的なファンを持つ押井守が務める。配給はワーナー・ブラザース映画で、公開は2008年の予定。

発表となった『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』のポスター。作中の具体的なビジュアルは公開されなかったが、原作小説のイメージを濃厚に反映していることがうかがえる

『スカイ・クロラ』は『すべてがFになる』『女王の百年密室』など、推理小説を中心に幅広い分野で活躍を続ける森博嗣の作品。これまでに4作のシリーズ作品が中央公論新社より刊行されており、戦闘機乗りの若者を描いた透明感のある物語が読者の共感を呼んでいる。

この『スカイ・クロラ』を原作とした映画版の舞台は、ありえたかも知れないもうひとつの現代。主人公は思春期の姿のまま、永遠に生きることを宿命づけられた"キルドレ"と呼ばれる子供たちで、大人たちが作った「ショーとしての戦争」を戦うキルドレたちが常に死を意識しつつも、今目の前にある現実を受け容れ、日々を精一杯生きる姿が描かれる。

こちらが原作小説の『スカイ・クロラ』(中央公論新社)。大空の鮮烈なイメージが美しい。推理小説やエッセイとも異なる、森氏の叙情性が堪能できるシリーズ

シリーズ5冊目の最新刊『クレイドゥ・ザ・スカイ』は、6月25日に発売予定。今夏からはWEB上で外伝の連載も予定されている

近年の押井作品では、押井監督自身が脚本を手がけてきたが、本作では脚本に映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の伊藤ちひろを起用。押井監督は『スカイ・クロラ』の発表において恋愛映画の要素を強調しており、男性ファンが多いとされてきた押井作品に、今回の伊藤氏とのコンビネーションがどういった新風を吹き込むのか注目が高まるところ。もう一方のアピールポイントとして、戦闘機の空中戦は3Dアニメーションで描くことも発表されており、こちらも軍事に造詣の深い押井監督が指揮を執るだけあって、見応えのあるものとなりそうだ。

このほかのメインスタッフには、演出に西久保利彦(『イノセンス』『お伽草子』ほか)、キャラクターデザイナー・作画監督に西尾鉄也(『イノセンス』『NARUTO』ほか)、メカニックデザイナーに竹内敦志(『イノセンス』『アップルシード』ほか)、音楽に川井憲次(『DEATH NOTE』『墨攻』ほか)と押井作品の常連が揃う、鉄壁の布陣が組まれている。

公開予定の2008年は、宮崎駿監督による『崖の上のポニョ』も控えており、しかも両作品とも日本テレビの提携作品。奇しくもこれは押井監督の『イノセンス』と宮崎監督の『ハウルの動く城』が続けて公開された2004年の再現と言える。日本を代表するアニメ監督の揃い踏みに早くも期待が高まるところだ。

押井守(監督)コメント/発表資料より抜粋
私は昨年の夏、55歳になりました。
 映画監督としては、若くも、年寄りでもない。まだまだ、やりたいことは山ほどあるのですが、世間一般で言えば、壮年と言われる齢を生きている事を、自覚するようになりました。いつの間にか、周りが若いスタッフばかりになり、大人になったひとり娘と向き合うことが多くなった事が、その理由かもしれません。
 今、映画監督として何を作るべきか。私は、今を生きる若い人たちに向けて、何かを言ってあげたいという思いを、強く抱くようになりました。
 彼らの生きるこの国には、飢餓も、革命も、戦争もありません。衣食住に困らず、多くの人が、天寿を全うするまで生きてゆける社会を、我々は手に入れました。しかし、裏を返せば、それはとても辛いことなのではないか──と思うのです。
(中略)
僕はこの映画を通して、今を生きる若者達に、声高に叫ぶ空虚な正義や、紋切り型の励ましではなく、静かだけれど確かな「真実の希望」を伝えたいのです。その為に私は、近年培ってきた演出手法を封じ、「イノセンス」とはまったく違うシナリオ・演出法をもって、この映画を、若い人へ向けたエンターテインメント作品として作ろうと決意を新たにしています。勿論、勝算はあります。
この映画に、多くの方々が賛同し、共に汗を流して下さる事を願ってやみません。
森博嗣(原作)コメント/発表資料より
「スカイ・クロラ」のアニメ化のオファーがあったのは、もう3年以上前のこと、2作目を書いた頃でした。僕はいつも「映像化できないものを書こう」と意識しています。そんな中でも、この「スカイ・クロラ」は、最も映像化が難しいだろう、と自分では考えていました。少々マイナーなうえ、誤解されそうなテーマです。映像化すれば、まったく別のものになるのでは、という心配もありました。しかし、飛行機が綺麗な空を飛び回る映像だけでも是非見てみたいものだ、と思い、話を進めていただくことを決心しました。
 その後に、監督が押井守氏だと聞いて、とても驚きました。同時に、「ああ、押井守ならば大丈夫だろう」と安心したしだいです。彼の作品をほとんど見てきましたし、特に「アヴァロン」の映像美には感銘を受け、「この人は美を知っている」と感じていたからです。
 今は一人の押井ファンとして、楽しみに完成を待ちたいと思います。

(C)森 博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会