――イラストと言えば、面白い試みとしてミクシィでレビューを書いた人はメイキングページで未公開イラストが閲覧できますよね。ほかにも読者の感想を吸い上げたりとSNSを積極的に活用されています。運営方針は?
「基本姿勢は『お前らが読みたいものを書いてやるから注文しろ』(笑)。『ただウチはこういうジャンルの料理ですよ』とは断るけどね。でも、みんな本当にいろんなこと言うよ。おっぱいの揺れ方ばっかり言う人とかさ、ミステリー部分だけを読んでいる人もいれば、妖怪が好きでたまらんという人もいるし。仮に『ハルカ2』があれば、もっと前からやるかな。いま書いてる『夜鳥子3』は構想から参加してもらってるんだよ。『東北が舞台だからこんな面白い話があるな』って思いついた部品を片っ端から書いていって、そのなかで人気のあるネタをまとめて成立させるっていうやり方」
ミクシィ内の『ハルカ』コミュニティ。多くのコミュニティはファンが運営しているが、『ハルカ』や『夜鳥子』は作品が世に出る以前から桝田氏本人が管理している |
コミュニティ参加者から寄せられた感想の数々。気になる伏線や続編の希望などに対し、著者の桝田氏も参加して積極的なやり取りが交わされている。出来がよければ即採用!? |
――そうしたブレインストーミングの活かし方はゲーム制作での経験からですか?
「確かにゲームでのノウハウがあると思うよ。むしろゲームのほうがもっとそうかな。ゲームって小説よりお金をかけて作るから、そうそう失敗できないじゃない。もちろん譲れないところもあるんだけど、デコレーションは本質的なものじゃないから、僕にとっては市場や客の好みに合わせるのは全然苦じゃない。伝えたいメッセージとかもないしね。とくに『ハルカ』なんてさ、ものすごく記号性に満ち溢れている作品なわけじゃない? だけどこれに関して言えばね、ベタでいいと思うんだよ。もっと言うと斬新じゃダメなんだと思う」
――斬新じゃダメ?
「うん。これって分量のわりにかなり速く読めるでしょ。で、速く読めるわりに理解も追いつくでしょ? それはすでに知っているものが並んでいるからでもあるんだよね。知っているものでも面白いものは面白いし、根本的なネタが古くなることはないから。『俺の屍を越えてゆけ』の世代交代や『我が竜を見よ』の子育ても、実生活ではほとんどの人が体験するじゃない? 『ハルカ』のボーイ・ミーツ・ガールっていうのも、みんな学生時代に1回や2回は経験するだろうから、それは王道中の王道だよね。だけどさ、いままでの経験から言うと、僕が王道だと思って書いて王道だと言われたものはひとつもないから(笑)」
――ベタに書いても個性は出る?
「と、思うんだよね。で、自分では全然そう思わないんだけど、どうやら僕は悪趣味で、こだわるところも人とズレてるらしい(笑)。あとはね、僕って最も安直な解決方法を取るんだよ。例えば『夜鳥子』では『視点が移動しすぎてる』とか『心理描写が薄い』って指摘されたから、それを一番安直に解決する方法として『ハルカ』では一人称にしてる。一人称なら少なくともそいつの言い分は読者にわかるし」
――『天空の邪馬台国』という副題もまさにそうですね。魏志倭人伝での邪馬台国へのルートをたどると、九州でも畿内でもなく海の上になるから……。
「そうそう。『ならきっと海の上にあったんだよ』ってさ(笑)」
――冒頭の「俺は三世紀の言葉を文字にできないし、読みにくいだけだから現代語で記述する」という注意書きも面白いアイデアだと思いました。
「それはね、得意の後付け。半分以上書いたときに『なんで現代の言葉が通じるんだ?』って言われて『いまさら言うなよ!』と思ったんだけど(笑)、直すのは面倒だからあの文章を入れたんだよ。そういうのはいっぱいあるよ。『物言いがオッサンくさい』って言われたら『おじいちゃん子で物言いがオッサンくさいのが俺の特徴だ』って書いちゃう(笑)」
「いつも意識するのは疲れてる人」
「とにかく僕はものすごい面倒くさがりなんだよ。日本が舞台の作品が多いのも、単純に資料が揃いやすいのと、海外のことを調べるのが面倒くさいっていうだけ。人から『行きましょう!』って言われない限りどこにも行かない。だから、ハルカみたいな女の子が理想でさ。『やってよ!』って言われて『しょうがねえなあ……』って言って、引き受けたからにはしっかりやる。その意味でハルカは僕の奥さんには似てるよ。だって独身だったら絶対やらないことを結婚していっぱいやってるしね。例えば海外旅行とかさ。狭い飛行機に何時間も乗って言葉の通じない国に行って、ストレス溜めるのは嫌だって(笑)」
――冒険小説を書いた方とは思えないですけど(笑)。ところで『ハルカ』は『天外III』のプロットの前半部分とのことですが、続編の構想は?
「書けなくはないと思うけど、いま『夜鳥子3』をやってて、そのあとそろそろゲーム作らないとなあ、というのもあるしね。ゲームはね、昔ながらのわりと気心の知れた連中と組むんで、結構楽しみにしてる」
――ゲームの企画からスタートした『ハルカ』ですが、逆にゲームへと展開する考えはありますか?
「仮にそうなっても支障がないようにはしてるけどね。でもこれは作るのに金かかるよ?(笑)」
――できればどんな人に読んでもらいたいですか?
「ゲームでも小説でも、僕がいつも意識してるのは疲れてる人なんだよ。『ちょっと明日もがんばろうかな』とか『とりあえず生きてるだけでOKか』ぐらいのものになりゃいいなと思って書いてる。だから勢いはいつも大事にしたいし、理屈よりも先に動いちゃう人たちがいっぱい出てくるのが好きだしさ。『ハルカ』は分厚いから、入院中に読んでる人とか意外といるんだよ。だから疲れてる人たちに読んでほしいかな」
――それは桝田さんご自身も疲れているから?
「それはたぶんあると思う(笑)」