これまでディスプレイ技術は、LCD(液晶)か、OLED(有機EL)か、QD(量子ドット)か、Micro LED(マイクロLED)か、と言った表示方式で議論されてきた。

SID/Display Week 2026のテクニカルシンポジウムのセッションも概ねこの表示方式ごとにプログラムが組まれ、そのデバイス構造や製造プロセスでの多くの発表が行われていた。

一方、今年のイベント全体のトピックスは、既報で紹介したように、XRとAIがトップに掲げられ、続いてEmissive Materialが3番目に挙げられている。

SID/Display Week 2026では、発光材料は単なる部材ではなく、ディスプレイの価値を決める中核技術として位置付けられた。OLEDでは青色材料とタンデム化、QDでは色域拡大から波長設計プラットフォームへの進化、ペロブスカイトでは次世代発光・色変換材料としての可能性、Micro LEDでは高輝度・高信頼性用途での材料・プロセス統合が焦点となった。ディスプレイ産業は「表示方式の競争」から「光をどう設計するか」の競争へ移行している。

ディスプレイ産業の重心移動を映し出すDIA展示

SID/Display Week 2026では、Display Industry Awards(DIA)展示が設けられていた(図1)。DIAは1995年から続く賞であり、Display of the Year、Display Application of the Year、Display Component of the Yearの3分類で、その年の優れた技術・製品を表彰してきた。2026年の会場では、これまでの32年間にわたるすべての受賞技術・製品が掲示されていた。これは単なる年表ではなく、ディスプレイ産業の重心移動を示す産業史である。

  • SID/Display Week 2026会場に設置されたDisplay Industry Awards展示

    図1:SID/Display Week 2026会場に設置されたDisplay Industry Awards展示。1995年~2026年の32年分の受賞技術・製品がすべて掲載されている。これらを俯瞰すると、ディスプレイ技術の変遷を読み取ることが出来る。2026年のDisplay Component of the Yearでは、出光興産の青色OLED発光材料が受賞した(写真の左側)

1990年代後半から2000年代前半にかけては、TFT-LCDの大型化、高精細化、視野角改善、バックライト、カラーフィルター、電子ペーパーなどが中心であった。2010年代に入るとOLEDがスマートフォン、テレビ、ウェアラブル、VRへ広がり、2020年代にはQD-OLED、Micro OLED、Micro LED、AR光学、Mini LEDバックライト、車載、空中映像表示が目立つようになる。

DIA受賞品をLCD関連、OLED関連、QD関連、Micro LED関連、ペロブスカイトの切り口で分けると、LCD関連が最多であり、ディスプレイ発展の歴史そのものがLCD産業の拡大と成熟を反映していることが判る(表1)。一方で、2014年以降はOLED関連の受賞が急増し、2023年にはQD-OLED、マイクロディスプレイ(Micro OLED)、そして2026年には青色OLED材料が受賞した。発光材料と光変換材料が、部材ではなく表示価値そのものを決める段階に入ったと言える。

  • DIA受賞技術に見る主要表示技術の変遷

    表1:DIA受賞技術に見る主要表示技術の変遷。1995〜2026年のDIA受賞品を筆者が技術分野別に概算分類。複数技術にまたがる製品は重複計上した。件数そのものよりも「産業の重心変化」を読むとるために分類・カウントした

多様化する発光材料

発光材料としては、これまでLCDのバックライト光源であるLEDとOLED材料が主であったが、最近はMicro LEDも注目されており、さらには蛍光材料、QD、ペロブスカイトがPhotoluminescence(フォトルミネセンス)およびElectroluminescence(エレクトロルミネセンス)材料として用いられ、かつこれらの発光材料が組み合わせて使われるケースも出てきている。すなわち、ディスプレイの映像表示を「どの方式で表示するか」から「HMIとしての効果的な映像を作り出すために、光をどう制御するか」に軸足が移行しつつある(表2)。

  • 発光材料・光変換材料の分類

    表2:発光材料・光変換材料の分類(SID/Display Week 2026の発表や展示内容から筆者が整理)

成熟に向かうOLED材料の焦点は「青」と「タンデム」

LCDがディスプレイ産業を牽引し、現在でも主要な表示技術である一方、2000年以降に立ち上がってきたOLEDはスマートフォンや高級TVではすでに主要技術として定着したが、IT、車載、XRへ展開するには、さらなる高輝度化、低消費電力化、長寿命化が求められる。その焦点が青色発光材料とタンデム構造である。赤と緑では高効率なリン光材料が広く使われてきたが、青は高効率、長寿命、高色純度の同時達成が難しい。OLEDパネルの消費電力、焼き付き、寿命、高輝度化は、最終的に青色材料に戻ってくる。

2026年のDIAで、出光興産の青色OLED発光材料が Display Component of the Yearに選ばれたことは象徴的である。2層の発光層を用い、BH1が青色蛍光を直接発光し、BH2が三重項励起子を回収してTriplet-Triplet Fusionで追加の発光に変換する構成が紹介された。これは、OLEDの次の競争軸がパネル構造だけでなく、発光層の励起子利用効率へ深く入り込んでいることを示す。

もう1つの焦点はタンデムOLEDである。LG Displayは第3世代タンデムOLEDを前面に出し、高輝度化、低消費電力化、長寿命化を訴求した。タンデム化は単に輝度を上げる技術ではなく、同じ輝度をより低い電流密度で出すことで寿命と電力を改善する手段である。IT、車載、XRでは、ピーク輝度と持続輝度、寿命、消費電力の同時達成が求められるため、タンデムOLEDは今後の中核技術になり得る。

QDはLCD延命材料から「波長設計プラットフォーム」へ

今回、最も強調すべき材料はQDである。QDは長くLCDの色域を広げる色変換材料として理解されてきた。しかしSID/Display Week 2026では、QDは単なるLCD補強材ではなく、光の波長を精密に設計するプラットフォーム材料として再定義されつつある、ということが見えた。

昭栄化学工業(Nanosys)がSQD(Super-QD)を用いたLCDを、RGBミニLEDバックライト方式と比較するデモをプライベート展示で行った(図2)。RGB LED方式では色ごとの発光位置やゾーンがずれることで色にじみやクロストークが生じやすいのに対し、青色LED+QDシートを組み合わせた方式では、LCDを通過する光を白色光として制御することができるため、色変換とローカルディミングを設計しやすいという点である。RGB Mini LEDが話題化するなかで、QD陣営は「広色域」だけでなく「色の空間制御」まで含めた価値を訴求し始めている。

  • ディスプレイカラー表示におけるBT2020カバー率の比較

    図2:ディスプレイカラー表示におけるBT2020カバー率の比較。左側のTVはRGBミニLEDバックライト方式LCD、右側のTVはS-QD(Super QD)シート搭載のLCD。左下に重ねたグラフはBT2020の測定値。G(緑)ピークの半値幅をパラメータにしており、G(緑)ピークの半値幅が狭いほどBT2020カバー率は広くなる。S-QD(Super QD)-LCDがRGBミニLED方式の-LCDよりも高い値を示している(TVの比較は、昭栄化学工業(Nanosys)のプライベート展示、グラフは同社がBusiness Conferenceで示した図)

Micro LEDとの組み合わせでもQDの役割は大きい。Micro LEDはRGBチップを個別に作り転写する方式では、赤色LEDの微細化効率とRGB転写歩留まりがボトルネックになる。このため、青色Micro LEDを高密度に形成し、赤・緑をQDで色変換する方式が有力な選択肢となる。ここではQDの耐光性、耐熱性、厚膜パターニング、色変換効率、画素間クロストーク抑制が勝負になる。

さらに重要なのは自発光型のQD-ELである。Samsung DisplayはEL-QDを展示し、量子ドット画素を電気信号で直接発光させる次世代技術として展示。OLEDを使わず、QD自体をRGBの発光体とするため、理論的には高色純度、低消費電力、印刷プロセス、大面積化への可能性がある。一方で、寿命、効率、青色QD、電荷輸送層、均一成膜、量産歩留まりは未解決である。QD-ELは、QD-OLEDの延長ではなく、OLED発光層そのものを置き換える可能性を持つ技術である。ただし、現段階では“次世代自発光の有力候補”であり、“量産目前の技術”と見るのは早い(表3)。

  • QDの役割変化

    表3:QDの役割変化。LCDの色域改善材料からディスプレイの波長設計材料へ進化しつつある。世代の呼び方は筆者による分類

ペロブスカイトとMicro LED、評価軸は「信頼性」へ

ペロブスカイトは、今回のSID/Display Week 2026でSpecial Topicとして位置付けられた。OLED、QD、Micro LEDの既存ロードマップの外側にある次世代発光材料として、高効率EL、研究室から量産へのスケーラブル形成、鉛フリー派生材料が議論された。ペロブスカイトは狭スペクトル、高色純度、低温プロセス、波長制御性に強みを持つ。一方で、耐湿性、耐熱性、光安定性、鉛問題、量産プロセスは依然として大きな課題である。

ディスプレイ材料では、短時間の最高効率よりも、実使用条件での寿命と再現性が重要である。特に車載、XR、透明表示、屋外サイネージでは、高輝度・高温・高湿の複合ストレスを受ける。ペロブスカイトは「すぐ量産される本命材料」と見るより、QDやMicro LEDの弱点を補完する次世代候補として、信頼性データを追う段階にある。

Micro LEDは、超高輝度、長寿命、高信頼性という点で、ARや透明表示、車載、大型直視型に強い。Micro LEDにおける材料課題は、単にGaN系LEDチップの高効率化にとどまらない。赤色Micro LEDの微細化効率、青色Micro LEDとQD色変換層の組み合わせ、封止材料、光取り出し構造、熱拡散材料まで含めた総合設計が必要になる。さらに、技術の難所は材料単体ではなく、チップ製造、転写、検査、修復、駆動、光取り出し、熱設計の総合問題である。Micro LEDの詳細は別の記事で整理したい。

発光材料はAI時代のHMIを支える「光の半導体」

LCD、OLED、Mini LED、Micro LED、Micro OLED、AR向けマイクロディスプレイは、方式だけを見れば別々の技術に見えるが、本質は共通している。電気信号を、人間が知覚できる高品質な光へ変換する技術である。高輝度、低消費電力、広色域、長寿命、透明化、XR対応、高信頼性といった要求は、最終的に発光材料と光制御材料の性能に行き着く。発光材料が「個別の材料開発」ではなく、光学、駆動、実装、アプリケーションを含むシステム設計の中心に入ってきた。

SID/Display Week 2026の発光材料テーマから見える結論は明確である。ディスプレイ産業は、単なるパネル量産する産業から、光を設計する産業へ移行している。LCD時代は、TFT、液晶、カラーフィルター、バックライト、偏光板を組み合わせて表示品質を作ってきた。OLED時代には、発光材料そのものが画質と消費電力を決めるようになった。そして現在は、QD、Micro LED、ペロブスカイト、光学素子、導波路、センサーが組み合わされ、表示は「光のシステム」になりつつある。

現在の半導体ブームの中では、AI演算、GPU、HBM、先端パッケージが注目される。しかしAIが生成した情報を人間が受け取る最後の接点は、依然としてディスプレイである。空間コンピューティング、車載HMI、XR、ロボット、医療、教育では、光の質が体験の質を左右する。Display Week 2026の発光材料トレンドは、「どの表示方式が勝つか」ではなく、「どの材料との組み合わせが最もよく光を設計できるか」という競争へ移行したことを示している。発光材料は、AI時代のHMIを支える「光の半導体」と言ってよい。