東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は5月14日、地球から約2億3000万光年の距離にある「ペルセウス座銀河団」における元素存在比のパターンが従来の理論モデルでは説明困難だったのに対して、新たな恒星および超新星モデルを開発し、同銀河団で観測された特定の化学組成と一致する結果を得ることに成功したと発表した。
-

ジェット駆動型の超新星の模式図。大質量星の中心部に形成されたコンパクト天体から放出されたエネルギーが双極方向に外向きのバーストを引き起こす。その衝撃波が、星表面に到達することでショックブレイクアウトを引き起こし、これが長時間に及ぶガンマ線バーストの発生源となる可能性がある。非球形の爆発現象は、極めて複雑な構造の物質の噴出と、それに伴う元素合成を引き起こすという。(c)Image created by Shing-Chi Leung and Google Gemini Nano Banana Pro(出所:Kavli IPMU Webサイト)
同成果は、Kavli IPMUの野本憲一客員上級科学研究員、米・ニューヨーク州立大学のShing-Chi Leung助教(Kavli IPMU 客員准科学研究員)、オランダ宇宙研究所のAurora Simionescu教授(Kavli IPMU 客員科学研究員)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の学術誌「The Astrophysical Journal」に3本の論文として掲載された(論文1本目・論文2本目・論文3本目)。
超新星爆発による化学組成形成の100億年以上の歴史を再構築
宇宙には網目状に銀河が集まった大規模構造が存在し、多くの銀河は重力的に束縛し合って存在している。現時点では明確な定義はなされていないが、銀河の数がおよそ2桁の集団は「銀河群」、100個以上の大集団は「銀河団」と呼ばれている。
史上初のブラックホール・シャドウの観測が行われたM87銀河が中心に位置する「おとめ座銀河団」と、天の川銀河を含む「局所銀河群」のように、複数の銀河団や銀河群が重力的に結びついた、銀河団の上の構造物である「超銀河団」も存在する。しかし、超銀河団規模になると、重力結合による接近速度よりも宇宙膨張による後退速度の方が大きくなるため、将来的には離散してしまう。実際、局所銀河群は約5500万~6000万光年彼方のおとめ座銀河団の方に高速度で落下しているが、それをはるかに上回る宇宙膨張により遠ざかりつつあるため、遠い将来は重力的な結びつきが失われると考えられている。
そのため、「宇宙膨張に打ち勝って重力的に結びついた」という条件であれば、銀河団が宇宙最大の構造といえる。ただしその規模は多様であり、中には1000個以上の銀河が集まっているものも存在する。ペルセウス座銀河団もその1つで、既知の銀河団の中では最大級の天体である。
ペルセウス座銀河団は、「銀河団内物質」と呼ばれる超高温ガスの中に銀河が集合している。このガスは、極めて高温のためにX線で激しく輝いており、ペルセウス座銀河団は全天で最もX線で明るい。このガスには、数十億年の間に銀河団内で発生した数100億回に及ぶ超新星爆発が残した化学的な痕跡が含まれていると見積もられている。
JAXAが2016年2月に打ち上げた日本の6番目のX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」は、姿勢異常により約1か月という短命で終わってしまったが、その短い活動期間の中で、ペルセウス座銀河団を観測。5000万℃という高温プラズマから世界で初めて高分解能の鉄の輝線スペクトルを得ることに成功した。その結果、従来の理論モデルでは、ペルセウス座銀河団の元素存在比のパターンを説明することは困難であり、修正が必要であることが示された。
「ひとみ」による観測結果では、シリコン、硫黄、アルゴン、カルシウムの組成比が、これまでの理論予測と大きく異なっており、この不一致は恒星進化のモデルを根本から再構築する必要性があることを示唆していた。これを受けて研究チームは今回、同衛星で観測されたペルセウス座銀河団の化学組成についての研究を進めたという。
研究は段階的に進められ、まず大質量星および超新星爆発の新しいモデルを開発し、最終的にペルセウス座銀河団で観測された主要な元素(シリコン、硫黄、アルゴン、カルシウム)の組成比と一致する結果を得るに至ったとした。
-

ペルセウス座銀河団の化学組成と新モデルによって得られた化学組成の比較図。今回の研究成果と従来モデルに基づく超新星発生率が用いられている。改良型の星の進化モデルによれば、シリコンと硫黄の過剰生成は減り、ペルセウス座銀河団で観測された範囲内に収まる。同時に、アルゴンとカルシウムの生成不足も解消される。しかしこの比較は、Ia型超新星爆発と密接に関係しているマンガンの不足やニッケルの過剰生成といった、新たな課題も示している。(c)Leung et al. Paper II(出所:Kavli IPMU Webサイト)
さらに、この研究成果の拡張が行われた。太陽質量の15~60倍に及ぶ広範囲の質量と、星の形成年代指標となる「金属量」(初期の化学組成)を網羅する大規模な星モデルカタログが作成された。このカタログを銀河の化学進化解析のためのデータパイプラインで処理することで、超新星爆発が今日の化学組成をどのように形成してきたかという100億年以上の歴史を再構築することに成功したとする。
そして3編目の論文では、超新星が双極方向にジェットを吹き出す形で爆発するという極端なケースが検討された。これは恒星が回転している場合に発生し、その結果として高速回転するブラックホール「コラプサー」や中性子星が中心部に形成される。中心でコンパクト天体となった残骸の周囲に形成された降着円盤は、磁気回転不安定性の作用により、恒星外層に向かって極めて高いエネルギーのジェットを噴出するという。
ジェットがどのようにして原子核反応を急激に増加させ、その後に続く爆発である「ショックブレイクアウト(アウトブレイク)」を引き起こしたのかを追跡するため、次に多次元シミュレーションが実施された。その結果、ジェットによる亜鉛の顕著な生成が、過去の宇宙でこうした極端な事象が発生した割合を決定する強力な証拠となり得ることが明らかにされた。
-

ジェット駆動型超新星の新モデルが、銀河規模での亜鉛生成における重要性を示した図。同超新星が存在しない宇宙では、亜鉛生成量は天の川銀河の恒星における存在量を説明するにははるかに不十分であり、天の川銀河におけるパターンを説明するには同超新星が存在していた必要がある。例えば、亜鉛に富む超金属欠乏星「HE1327-2326」を説明するには、局所的環境でほぼ100%同超新星爆発が起きたというシナリオが必要になるとした。(c)Leung et al. Paper III(出所:Kavli IPMU Webサイト)
研究チームは現在、これらのモデルが宇宙の歴史を通じて天の川銀河の化学的進化にどのような影響を与えるかについての研究にも着手しており、超新星爆発の発生率や恒星の化学組成の成り立ちについてさらに詳細に解明していく方針だ。また、現在運用中の日本の最新のX線天文衛星「XRISM」によって公開される、今後のさまざまな銀河団に関するデータにも関心を寄せており、それらの解析による研究の進展も期待されるとしている。