日本オラクルはこのほど、国産SaaS事業者の生成AI実装支援に関する説明会を開催した。同社は、AIが業務プロセスを実行する「基幹系AI」の考え方を提示。ウイングアーク1st、NSW、ソフトマックスの3社は、Oracle AIテクノロジーを活用した生成AI機能の実装事例を紹介した。

オラクルが掲げる「基幹系AI」とは

日本オラクル 執行役員 クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 吉川顕太郎氏は、AIの3つの進化のステップを示し、情報系AIと基幹系AIの間には大きなギャップがあると指摘した。

  • 日本オラクル  執行役員 クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 吉川顕太郎氏

    日本オラクル 執行役員 クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 吉川顕太郎氏

同社は、第1ステップを「AI Inference for Generation」、第2ステップを「AI Reasoning for Decision by Human」、第3ステップを「AI Reasoning for Action by AI Agent」、第1ステップと第2ステップは情報系AI、第3ステップを基幹系AIと定義している。

  • オラクルが定義するAIの進化の過程

    オラクルが定義するAIの進化の過程

第3ステップでは、AIがアクションを選択・実行し、業務プロセスそのものを担う。吉川氏は、「基幹系AIは企業のプライベートデータを活用して業務を自動化する。そのため、従来の基幹業務以上に厳しい要件を満たす必要があり、AI特有の新たな要件にも対応しなければならない」と指摘した。

基幹系AIが求められる要件としては、以下がある。

  • 迅速かつ安全なリアル・タイムの業務データへのアクセス
  • セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスに関する新たなリスク
  • システムやデータベースへの事前予測不能な負荷増大
  • 急速な技術革新に対応するためのオープンな技術の柔軟な選択

「基幹系AIとして、エージェントがダイナミックに動作するが、エージェントは間違う可能性がある。そのため、間違えないことをどう担保し、説明責任をどう果たすか。」

さらに、吉川氏は「塩漬けした瞬間、競争力が止まるので、基幹系AIにおいては、基幹系システムのタブーだった塩漬けが許されなくなる」との見解を示した。従来の基幹系システムでは安定稼働を優先して改修を避ける「塩漬け」が一般的だったが、AI時代では継続的なアップデートが競争力に直結するとの考えを示した。

SaaS事業者の生成AI実装をどう支援するか

国産SaaS事業者を対象としたOracle AI活用支援については、クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 ISVソリューション本部 部長 屋敷一雅氏が説明した。

  • 日本オラクル クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 ISVソリューション本部 部長 屋敷一雅氏

    日本オラクル クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 ISVソリューション本部 部長 屋敷一雅氏

屋敷氏は、SaaS事業者がAIを実装する上での課題として、「マルチテナント」「データ分散と整合性・監査」「最適なAIモデルと運用」「コスト最適化」を挙げ、同社がこれらの解決を支援していると述べた。

具体的には、SaaS事業者のAIサービス構築を支援する「OCI AI Use Case Assessment」を提供している。同プログラムでは、以下を実施する。

  • 生成AIのビジネス価値を共同で構築
  • SaaS向け生成AIユースケースを共同で検証
  • OCI検証環境でのAIユースケース+RAG実証

屋敷氏は、AIモデルだけでサービスの差別化を図るには限界があるとして、差別化の源泉は、データ活用と業務とガバナンスを掛け合わせることで生まれると指摘した。そして、同氏はオラクルのAIテクノロジーを活用することで、SaaS事業者はAI実装を差別化できるとアピールした。

ウイングアーク1st、ノーコードでAIエージェント活用を支援

ウイングアーク1stのBusiness Data Empowerment SBU 技術本部 dejiren開発部 部長 大畠幸男氏は、AI技術を活用して業務基盤を強化する「dejiren AI」を紹介した。

  • ウイングアーク1st Business Data Empowerment SBU 技術本部 dejiren開発部 部長 大畠幸男氏

    ウイングアーク1st Business Data Empowerment SBU 技術本部 dejiren開発部 部長 大畠幸男氏

同社は、AI活用では「経営層」「利用者」「AI推進部隊」「仕組みを作る人」の4つの立場で異なる課題が存在すると説明。特に、AI導入を推進する現場では、AIモデルへの追随やセキュリティ、利用コストへの対応に時間を取られ、本来重要な「AIを活用して何ができるか」の検討に十分な時間を割けていないとした。

「dejiren AI」では、ノーコードで業務プロセスをAIエージェント化できるほか、複数のAIモデルを適材適所で組み合わせられる点を特徴とする。Oracleの生成AIサービスとも連携し、業務データや分析基盤と組み合わせた活用を進める考えを示した。

NSW、小売・飲食向けAIサービスを展開

NSW エンタープライズソリューション事業本部 アカウントビジネス事業部 事業部長 渡邉哲也氏は、小売・飲食向けSaaSとAIを組み合わせた取り組みを紹介した。

  • NSW エンタープライズソリューション事業本部 アカウントビジネス事業部 事業部長 渡邉哲也氏

    NSW エンタープライズソリューション事業本部 アカウントビジネス事業部 事業部長 渡邉哲也氏

同社は、店舗向けソリューション「GADGET STORE」や飲食チェーン向け基幹システム「GADGET FOOD」を展開しており、AI活用の基盤としてOracle Cloud Infrastructure(OCI)を活用している。

AI活用については、「小さく始めて価値を見ながら広げる」方針を掲げ、PoC(概念実証)を重ねながら段階的にサービス化を進めているという。

事例として、販促媒体の価格チェックをAIで自動化する「Smart Promo Check AI」を紹介。OCRと自然言語処理を組み合わせ、チラシなどの内容確認を効率化するもので、飲食業界で実証実験を進めているとした。

ソフトマックス、電子カルテへの生成AI活用を推進

ソフトマックスの医療DX推進・企画部 上席執行役員部長 古瀬拓也氏は、電子カルテシステムにおける生成AI活用の取り組みを説明した。

  • ソフトマックス 医療DX推進・企画部 上席執行役員部長 古瀬拓也氏

    ソフトマックス 医療DX推進・企画部 上席執行役員部長 古瀬拓也氏

同社は、医療現場では紹介状や退院サマリなどの文書作成負荷が増大していると指摘。医師や看護師が本来業務以外に多くの時間を費やしており、働き方改革への対応も課題になっているとした。

生成AIの活用では、患者カルテから紹介状のドラフトを自動生成する機能を検証しており、作成時間を20〜30分から5〜10分程度に短縮できたという。

また、カルテ要約の自動生成や、音声認識によるカルテ入力支援の開発も進めていると説明した。

「AIなしSaaSはdead」

質疑応答では、「AIを搭載していないSaaSはdeadなのか」という質問も挙がった。

これに対し、日本オラクル側は「AIが搭載されていないSaaSはdeadだと考えている。AIが入って当たり前になる」と述べ、今後は生成AI機能の実装がSaaSの前提条件になっていくとの見方を示した。

一方、ウイングアーク1stは「AIだけで成り立つ業務はない」と述べ、AIのみではなく業務全体を支援するソリューションが重要になるとの考えを示した。