電気通信大学(電通大)は5月13日、次世代太陽電池材料として注目される「コロイド量子ドットインク」において、「超低温フォトルミネッセンス(PL)・マッピング」技術を用いて薄膜の形態欠陥に由来する発光を直接観測することに成功し、製造コスト削減と大面積化に伴う効率低下という2つの主要課題を同時に克服する革新的なインク技術を開発したと発表した。
同成果は、電通大 基盤理工学専攻の沈青教授、同・Shi Guozheng客員研究員(研究当時)、東京大学 先端科学技術研究センターの久保貴哉特任教授、同・瀬川浩司シニアリサーチフェロー(研究当時:東大大学院 総合文化研究科 教授)、中国・蘇州大学のMa Wanli教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエネルギー分野を扱う学術誌「Nature Energy」に掲載された。
次世代太陽電池の“印刷”を可能にする新技術とは?
現在主流のシリコン太陽電池は重厚で柔軟性に欠けるため、設置場所が限られていることが課題だ。一方、コロイド量子ドットは、インクのように“塗装する”だけで製造できるため、軽量かつフレキシブルな太陽電池として期待されている。なお、同じように軽量かつフレキシブルな次世代太陽電池としてはペロブスカイト太陽電池が先行しているが、これとは材料や構造が異なるものである。
コロイド量子ドット太陽電池はこれまで、「性能を上げようとするとコストがかかり、コストを下げようとするとインクが不安定で大きなパネルを製造できない」というジレンマを抱えていた。さらに、量子ドットインクの塗布過程における欠陥形成メカニズムも十分には解明されていなかったとする。そこで研究チームは今回、量子ドット「硫化鉛」を用いた安価なインク製造法である「直接合成法」に改良を加えたという。
具体的には、溶媒中にヨウ素を豊富に含ませる独自の「溶液化学エンジニアリング」が開発された。これによって、量子ドットの表面にマイナスの電荷を帯びた厚いイオンの層(シェル)を形成することで、量子ドット同士の反発を強めることで、インク内での凝集を防ぎ、薄膜化の際にもムラなく均一に広がるようにすることに成功した。
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インクの安定化メカニズムと製膜プロセス。開発されたコロイド量子ドット(QCD)インクは粒子が均一に分散しており、一度の印刷工程で厚みが一定で高品質な膜を広い面積に形成することが可能。(a)印刷によるCQD薄膜形成の模式図および断面TEM像、(b)超低温PL・マッピング分光による欠陥状態の評価、(c)CQD太陽電池デバイス構造の模式図、(d)異なるデバイス面積におけるエネルギー変換効率の比較、(e)環境影響およびコスト評価。(出所:電通大プレスリリースPDF)
また、欠陥メカニズムに関しては、肉眼では確認できない微細な欠陥を可視化できる分析手法「超低温PL・マッピング」分光と、断面透過電子顕微鏡(TEM)観察により、印刷薄膜中の欠陥を直接可視化することに成功。その起源が、量子ドットの「エピタキシャル融合」である点が明らかにされた。この融合によって、薄膜内に余分なエネルギー準位(トラップ状態)が形成され、発電効率を低下させる原因になっていたという。
今回開発された安定なインクを用いた結果、まず0.04cm2の小型セルで13.40%、さらに面積を約300倍にした12.60cm2のモジュールでも、この分野では極めて高い10.0%の公称効率が達成された。また、低コスト化も実現され、材料コストを1Wp(ワットピーク)あたり0.06ドル(約9円)未満に抑えることが可能となり、商業化への経済的優位性を示すことにも成功した。さらに、1200時間以上の連続使用後も、初期効率の90%以上を維持する高い安定性・耐久性も確認されたとした。
今回の成果は、太陽電池を“デバイス”から“素材”(インク)へと進化させるものだ。低コストで大面積化が可能になったことで、透明度を調整した量子ドットインクを窓に塗布することで、ビルのすべての窓を電源に変える「発電する窓ガラス」、服の生地に印刷してスマートフォンなどを歩きながら充電する「着る太陽電池」、くるくると巻いて持ち運べ、被災地で広げるだけで即座に発電を行える「災害時の電源シート」などが現実味を帯びてくるとした。電通大と東大による共同研究チームは現在も研究を継続しており、大面積化に向けた検討を進行中としている。