半導体デバイスの登場以来、電子機器の発展はロジックとメモリーがお互いを補完する形でその市場を拡大してきた。
最新のソフトウェアをより高速にスムーズに処理するためには高性能のロジックデバイスが必要となり、その計算力を支えるのが大容量で高速なメモリーデバイスである。膨大なデータに基づくAIモデルを超高速に処理するAI時代に入って、この協業スキームはより強固なものとなっている。
BroadcomとSamsung Electronics(サムスン)の戦略的協業に関する最近の発表にはロジックとメモリーの新たな協業モデルとそれをドライブする各社間の力学を見ることができる。
1.協業規模2000億ドルを超えるBroadcomとSamsungの戦略的協業スキーム
最近の両社の発表では、2030年までの5年間で事業規模が2000億ドルを超える戦略的協業スキームについて覚書を交わした。
先ごろ米国サンフランシスコで開催された「AI Summit」を機に発表された両社の発表文では詳細が明らかにされていないが、ハイパースケーラーのカスタムAIデバイス設計を支援するBroadcomと、メモリーデバイスの最大手で、ロジックファウンドリビジネスも手掛けるSamsungの協業の骨子には、お互いが持つ能力を補完する協業スキームが明確に提示されている。ロジックとメモリーの大手企業が手を組むケースの今後の先駆けとなる協業モデルである印象を受ける。
AI半導体としてのアクセラレーター分野では、これまでGPUベースのNVIDIAが市場を支配するトレンドが続いたが、AI処理のタスクの焦点が「学習」から「推論」へと移行するにつれて、ハイパースケーラー各社は、自社のタスクをより効率よく処理する独自のカスタムチップの設計を積極的に推進している。この分野でファブレス設計支援を提供するBroadcomはGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)を始めとして、ハイパースケーラーや新興AI開発企業などを顧客としてAIアクセラレーターの半導体設計を請け負っている。Broadcomと言えば、従来は通信技術の半導体ブランドという印象が強かったが、最近の決算発表(5-7月期)では、前年同期比で86%の売り上げ増を記録した。その成長を牽引するのがカスタムAI半導体設計の事業だ。
一方、半導体メモリー最大手のSamsungは、AI市場の拡大初期にHBM(広帯域メモリー)にいち早く参入したSK hynixに後れを取ったものの、現在ではそのギャップを埋めつつある。また、ロジックファウンドリ分野では、TSMCに大きく水を明けられていたが、2nmレベルのプロセス技術での歩留りを高めつつある。今回の協業スキームでは、メモリーにおける圧倒的なキャパシティーを梃に、念願のファウンドリービジネスでの大手顧客の取り込みに成功したとも考えられる。
2.両社の協業が象徴する現在のAI半導体市場の現状
この協業スキームは、現在AI半導体市場が抱えている下記の課題を象徴している。
- NVIDIAの市場支配からの脱却:GPUベースのAIアクセラレーター半導体と、開発環境ソフトCUDAでAI市場を牽引するNVIDIAは未だに支配的な地位を維持している。75%を超える粗利益を誇るNVIDIAは、急成長するAI市場で生み出される利益を吸い上げる存在となっている。ハイパースケーラー各社は、NVIVIDAやAMDのGPUアクセラレーターの大量購入を継続しながら自社のAIサービスの差別化とコスト低減の観点から自社開発のカスタムチップ設計に積極的で、BroadcomやMarvelが設計支援をする。
- ひっ迫するメモリー半導体市場:HBMを始めとする高付加価値のメモリー半導体市場では需給のひっ迫状態が続いている。メモリー各社は製造キャパシティーの増強に走っているが、供給状態が緩むのは早くとも一年先とも言われている。メモリー半導体の調達力はそのままAIサービスの拡大条件となっている。
- TSMCに集中する先端半導体製造:現在、AI半導体製造に必要となる2nm超の先端プロセスによる製造はTSMC一強の状態が続いている。TSMCに対する製造ライン確保はそのままAI半導体調達力に直結する。この状態で、価格は高止まりし、台湾に製造能力が集中することが地政学的リスクを生んでいる。そのような状況で、SamsungやIntelは2nmプロセスの歩留りを改善し、TSMCの対抗軸を形成しつつある。
こういったAI半導体市場の現状ではロジック、メモリー、先端パッケージングという異なる要素技術と製造能力の総合能力が重要となっていて、各社の協業スキームがカギとなる。各要素の技術レベルはAI市場の拡大により加速的に発展し、それぞれを分担する企業間の力学に変化をもたらす。
3.NVIDIAの弱点はメモリー?
先般発表されたNVIDIAの決算では相変わらずの一強状態が際立ったが、今後の動向分析の報道をチェックしていたら、NVIDIAの75%という驚異的な粗利益の今後の継続性には、メモリー半導体の価格の推移が大きく影響するだろうということが書かれていた。
要するに、メモリーの調達側となるNVIDIAにとって、現在の需給ひっ迫状況で生れるメモリーデバイスの価格上昇は、そのままエンドユーザーに転嫁できるものではなくなる可能性があり、NVIDIAの現在の驚異的な粗利益を圧迫するリスク要因となるということだ。また、最近のGartner社の発表資料に、半導体トータルに対するメモリーと非メモリーの割合は、2025年のメモリー27%に対し、2026年には48%まで成長し、2027年もこの割合で推移するとの予想があった。NVIDIAはSK hynix、Micron Technology、Samsungといったメモリーの大手ブランドと良好な関係を構築しているが、その中でもHBM市場への参入が早かったSK hynixとはカスタム製品の共同開発を含む密な関係を持っている。NANDフラッシュメモリを含む他のメモリーメーカー大手がAIロジックブランドと協業する可能性は十分にある。
今後のロジックとメモリー各社間の力学の変化は注目分野だ。


