近年、線状降水帯に伴う記録的な降雨による水害や土砂災害が全国で頻発しており、特に線状降水帯の予測精度の低い北日本においては、その精度向上が強く望まれている。しかし、発生する強い雨が「どこに」「どれだけ」降るのかを同時に予測することは現状の技術ではきわめて困難であり、線状降水帯の発生・発達を左右する物理メカニズムの解明が急務となっていた。
そこで東北大学は、2011年7月と2022年8月に東北から北陸にかけて発生した2つの線状降水帯を対象に、スーパーコンピュータを用いて事例別に288通りの数値気象シミュレーションを実施。大雨の降雨量と位置を左右する要因を分析した結果、日本海上の「小低気圧」の位置や発達の仕方が、水蒸気の流入・集積を変化させ、降雨量と降雨域の両方を左右していることが示され、豪雨予測では「どれだけ降るか」に加えて「どこに降るか」を正しく予測する重要性が提示されたと、9月24日に発表した。
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2022年8月に山形・新潟県において発生した線状降水帯事例について、アンサンブル計算による雨量の多い・少ないシナリオと、雨域が北東・南西にずれるシナリオ別の24時間雨量 (出所:東北大ニュースリリースPDF)
同成果は、東北大大学院 工学研究科の田原亮太郎大学院生、同・平賀優介助教の研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する、大気科学分野の専門論文誌「Journal of Geophysical Research: Atmospheres」に掲載された。
豪雨の性質を左右する「大気のわずかな差異」に迫る
線状降水帯は、積乱雲が帯状に次々と発生・発達し、同じ地域付近で数時間にわたって停滞・維持されることで、洪水や土砂災害につながる豪雨をもたらす。
従来は、大雨が発生した際の大気状態を事後的に調査する研究が中心に行われてきたが、類似した気象条件であっても、わずかな違いによって降雨量や降雨域の位置が大きく変動することがある。また、河川流域の観点からは、雨量をある程度正確に予測できても、降雨域が隣接する流域へずれるだけで、対象流域に降る総雨量が大きく変化してしまう可能性がある。
そこで研究チームは今回、豪雨時と類似した多様な大気状態を数値モデルで再現し、それらの条件下で生じる雨の「雨量」と「位置」を比較することで、豪雨の性質を左右する大気のわずかな差異を調べることにした。
今回の研究成果
今回の研究では、2011年7月と2022年8月に東北から北陸にかけて発生した2つの線状降水帯事例を対象に、数値気象モデルを用いた「アンサンブル数値計算」が行われた。この計算は、数値気象モデルの初期状態などを少しずつ変更して多数のシミュレーションを行い、起こり得る複数の気象シナリオを調べる手法だ。
今回は、各事例について288通りのシミュレーションが作成され、その中から対象地域の24時間雨量が多いシナリオと少ないシナリオ、さらに降雨域が異なる方向へずれたシナリオを抽出して大気状態の比較が行われた。
まず、大雨の雨量については、降雨域の上流側から運ばれる水蒸気量が多く、降雨域付近で水蒸気がより強く集まるシナリオほど、総降水量が多くなる傾向が見られたという。一方、大雨が生じる場所については、湿った空気がどのような経路で流れ込み、どこに集中するかが雨域の位置と対応していることが明らかにされた。
こうした水蒸気の輸送や収束傾向の違いには、周囲の気圧配置が深く関係していることが突き止められた。その主要因の1つとして挙げられるのが、日本海上に形成される「小低気圧」(メソ低気圧)だ。これは、水平方向の広がりが1,000km程度からそれ以下の規模の低気圧のことを指す。
大雨の多いシナリオでは、この小低気圧が降雨域の近傍に形成されたり、事例によってはより強く発達したりすることで、低高度の風や上昇流、水蒸気収束が強化されやすいことが示された。また、低気圧が海側に形成されるか陸側に形成されるかによって、水蒸気の集積位置が変化し、それに対応して降雨域も西側・南西側、または東側・北東側へとずれる傾向が確認された。これらの知見は、小低気圧の位置や発達などの挙動が、大雨の雨量と位置の両方を理解する共通のキーファクターになることを示す成果となった。
さらに、線状降水帯の雨量と位置の違いが河川流域に与える影響が解析された。その結果、線状降水帯の発生位置がわずかにずれるだけで、流域平均の24時間雨量が大きく変化することが明確になった。この結果は、豪雨による水害リスクを評価する上で、「どれだけ降るか」に加えて、「どの流域に降るか」を高精度に予測することの重要性を裏付けるものとなった。
今回の研究により、小低気圧の位置や発達の仕方を適切に予測することが、線状降水帯による大雨の雨量と発生位置の予測精度向上につながる可能性が示された。気象予測でこうした小規模な気圧場をより正確に表現できれば、雨量だけでなく、どの河川流域に大雨が発生するかという防災情報の高度化にもつながることが期待されるという。
今後は、より多くの事例と高解像度の計算を用いた検証に加え、気圧配置や水蒸気の流れを含めた各種要因の因果関係を詳しく解明していく必要があるとしている。

