Appleの新製品発表のタイミングに先手を打つ形で発表されたHuaweiの3つ折り型スマートフォン(スマホ)の内容は、半導体開発における中国の現在位置を象徴するものとなった。

1.Huaweiの3つ折り型スマートフォンの新製品「Mate XT 2」

Huaweiが第2世代の3つ折り型スマートフォン「Mate XT 2」を発表した。Appleからの初の折りたたみ型iPhoneの発表直前という挑戦的なタイミングである。これで折りたたみ型スマホーはSamsung、Huawei、Appleの3社が世界市場で争うことになる。これらの製品としての価値はさておき、HuaweiのMate XT 2を構成している技術要素の主要部分がすべて中国製であった事は非常に象徴的である。

  • Mate XT 2 ULTIMATE DESIGNの製品ページのスクリーンショット

    Mate XT 2 ULTIMATE DESIGNの製品ページのスクリーンショット

Mate XT 2には次のような中国製技術要素が組み込まれていた。

  • Huawei自社開発OS「HarmonyOS 7.0」
  • Huawei自社開発メインプロセッサ「Kirin 9050 Pro」
  • 16GBメモリは中国のDRAM企業であるCXMT製を採用

米国政府による輸出規制の最初の標的となったHuaweiは、スマホの要素技術を輸入に頼ることができなくなり、自社で開発することを余儀なくされた。その結果、要素技術の主要部分をすべて自社開発の技術で固めた点で今回の発表には大きな意味がある。

半導体サプライチェーンのチョークポイントに厳しい輸出規制を設けて、中国内の技術発展を遅らせようとする米国政府の戦略を跳ね返すべく着々と実績を積んでいるHuaweiの現在の実力と、政府を挙げて自国サプライチェーン構築に邁進する中国の並々ならぬ決意を見た印象がある。

Huaweiは今後のAI半導体の投入計画も明かにした。2027年第1四半期に「Ascend 960DT」、第3四半期には「Ascend 960PR」を市場投入する予定という。いずれもNVIDIA製品への対抗と位置付けているが、多数のAI半導体を共通の高速バスでクラスター接続することにより巨大なAIスーパークラスターを構築するという。

興味深い点はHuaweiが構想する中国内のAIスーパークラスターでは、個々のチップの性能向上だけに頼らずに独自の高速バス接続でのシステムレベルでの性能向上に重きを置くという点だ。米政府からの輸出規制の緩和といった政治的解決をあてにせずに中国内で完結できる体制を着々と準備しているということだ。

2.半導体/AI開発関連の新興企業の上場が相次ぐ中国

最近、中国で目立って増えてきたのが半導体/AI開発関連の新興企業の上場だ。最も目を引いたのはGPUをベースとした「国産GPU四小龍」と呼ばれる以下の新興AI半導体企業群の動きだ。

  • Enflame Technology:AMDでの勤務経験を持つ幹部が操業したスタートアップでテンセントが筆頭株主となり、大口ユーザーでもある。
  • Moore Thread:かつてNVIDIAの中国ビジネスの責任者だった人物が創業。2025年末に上海市場で上場し株価が高騰。香港での上場も計画中。
  • Biren Technology:2019年に創業し、すでに複数のGPUベースアクセラレーターを発表している。2026年1月に香港市場で上場。
  • MetaX:AMD出身のメンバーによって2020年に上海で創立された。2025年末に上海市場で上場。一時は7兆円の時価総額を記録した。

これらの新興上場企業に特徴的なのは、小規模ながらGPUベースのAIアクセラレーターの設計を担い、上海・香港の株式市場で上場している点だ。いきなり高値を記録するが株価は乱高下を繰り返す不安定な動きを見せる。こうした活発なIPOの状況の背景には、中国政府による強力なバックアップがある。新たなAI半導体の開発には莫大な研究開発費がかかり、経営が安定するには時間がかかり大きなリスクを伴うが、多額な資金調達の手段としてIPOを行う際の諸条件での緩和措置がとられている。

これらの新興企業は巨大な国内AI市場で熾烈な競争を戦い抜いてIPOまでたどり着いた英雄的なスタートアップ企業だが、この他にも実に多くの企業がひしめき合っている。しかし、これだけ活発な新企業の出現をもってしても、中国内の旺盛な需要をカバーしきれていないという。中国内での先端ロジックファウンドリの製造能力の限界が原因である。5nm超の先端ロジックプロセスには輸出規制対象となっているEUV露光装置がどうしても必要であり、DUV装置を利用してのマルチパターン露光の方法では生産量に限界があるということだろう。

こうしたロジック半導体での限界と対照的に、DRAMを手掛けるCXMTやNANDフラッシュメモリを手掛けるYMTCといった半導体メモリ企業は、生産能力を上げてその存在感を中国内だけでなく、世界市場にも広げ始めている。まだAIデータセンター市場への参入は始まっていないものの、PC/スマホといったコンシューマ製品についてはすでに中国以外にも浸透が始まっていて、昨今のメモリ不足の状況を受けて急成長している。AIデータセンター用HBM市場に参入するのは時間の問題だろう。

ハードウェアのみならず、MoonshotAIやDeepSeekなどのAIモデル開発のソフト新興企業もIPOの準備をしていて、自国内で完結するサプライチェーンの構築に邁進する中国政府のバックアップで、AI企業は着々と実力をつけており米国との差を詰めつつある。

3.「AI脅威論」が現実化する現状と米中の覇権競争問題

こうした状況でAnthropicの研究者の発言から俄かに活発化している「AI脅威論」は、以前から予想されていたものであるとはいえ、いよいよ現実化してきている。その問題そのものの深刻さもあるが、米中の覇権競争がその解決を一層困難なものにしている印象がある。というのも、AI技術の急速な進歩はもはや、国家安全保障上の戦略的な核心部分となっており、米中の技術が拮抗状態になりつつある現状は、この問題が地政学的リスクを助長しながら政治化する難しさを孕んでいる。