この半導体ニュースのまとめ
・AppleがBroadcomとの新たな複数年契約を発表、契約規模は300億ドル超の見込み
・米国内で150億個超のチップを生産し、Broadcomはフォートコリンズの拠点を15億ドル規模で拡張・近代化
・FBARフィルタなどのRF部品や先端ワイヤレス接続技術を対象に、米国内シリコンサプライチェーンを強化
Broadcomとの複数年契約で150億個超の米国製チップを生産
Appleは7月8日(米国時間)、BroadcomとApple製品向けのカスタムシリコン部品および先端ワイヤレス接続技術の設計・生産に関する新たな複数年契約を締結したことを発表した。
今回の契約は300億ドルを超える規模になる見込みで、米国内で150億個超のチップを生産する計画だという。Appleでは、米国内におけるエンド・ツー・エンドのシリコンサプライチェーン構築に向け、米政権や米国内企業と連携してきたとしており、今回のBroadcomとの契約はその取り組みを前進させるものと位置付けている。
AppleとBroadcomは長年にわたり協業関係を築いてきた。Apple製品では、通信、接続性、RFフロントエンドなどの領域で多くの半導体部品が必要とされており、スマートフォン、タブレット、PC、ウェアラブルなどの各製品で、より高い通信性能と省電力性、信頼性が求められている。
フォートコリンズの拠点を15億ドルで拡張・近代化
Broadcomは、Appleが2025年に立ち上げた米国製造支援プログラム「American Manufacturing Program(AMP)」に参画している。今回の契約は、AppleにとってAMPにおける最大規模のコミットメントとなる。
契約に基づき、Broadcomは米国コロラド州フォートコリンズにある製造拠点を拡張・近代化する。投資額は15億ドル規模で、同拠点では先端RF部品や先端ワイヤレス接続技術の生産が行われる。具体的には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)フィルタを含む先端RFコンポーネントが対象となる。
FBARフィルタは、スマートフォンなどの無線通信機器において、特定周波数帯の信号を選択的に通過させるために用いられる高周波部品。5GやWi-Fi、Bluetoothなど複数の無線通信機能を搭載するモバイル機器では、周波数帯の増加や通信品質への要求の高まりを背景に、RFフロントエンド部品の重要性が増している。
米国製造とワイヤレス技術の強化を両立
AppleのTim Cook CEOは、AppleとBroadcomには長年の協業の歴史があり、今回の新たな段階のパートナーシップにより、米国での製造とイノベーションへの取り組みをさらに加速するとコメントしている。また、フォートコリンズで製造される先端部品は、Apple製品に求められる性能と接続性を実現するために不可欠だとしている。
一方のBroadcomのHock Tan社長兼CEOも、Appleとの数十年にわたる協業を継続できることを歓迎し、フォートコリンズにおける製造拠点拡大を通じて、人々をつなぐ技術を生み出していく姿勢を示している。
Appleは今回の投資を、4年間で米国経済に6000億ドルを投資するという同社のコミットメントの一部と説明している。製造、雇用創出、技術開発を米国内で支援する取り組みを拡大することで、半導体を含む重要部品の供給網強化を図る狙いがある。
Appleの内製・専用チップ戦略と米国サプライチェーン強化
Appleはこれまで、iPhone向けAシリーズ、MacやiPad向けMシリーズなど、主要製品で独自設計のSoCを採用し、製品性能と消費電力効率の差異化を進めてきた。一方で、すべての半導体を自社で製造するわけではなく、電源、メモリ、イメージセンサなどで外部パートナーとの協業を推進してきた。
今回のBroadcomとの契約は、そうしたAppleの半導体戦略の中でも、ワイヤレス接続技術とRF部品の米国内生産を強化するものとなる。スマートフォンやウェアラブル、PCなどでは、通信性能の向上だけでなく、端末の薄型化、省電力化、発熱抑制なども重要であり、RF部品の高度化は製品を利用したユーザーの体験に直結する。
また、地政学リスクやサプライチェーン分断リスクが高まる中、米国内での半導体関連部品の生産を拡大する動きは、Appleにとって供給安定性の確保にもつながる。特にAppleのように年間で膨大な数量のデバイスを販売する企業では、部品供給の継続性や品質、量産能力の確保が製品投入計画を左右する。
BroadcomにとってもApple向けRF部品は重要領域に
Broadcomは、ネットワーク、ブロードバンド、ストレージ、ワイヤレス、産業向け半導体など幅広い事業を展開している。そうした同社の中にあって、海外の報道によるとAppleとの取引は同社の年間売上高の約20%を占める規模であり、長年にわたって無線通信関連部品などを供給してきた実績を踏まえた今回の契約は、同社にとっても重要な取引と言える。
そうした中、フォートコリンズにある拠点の拡張・近代化は、Broadcomにとっても米国製造能力の強化を意味する。Apple向けに高性能RF部品を安定供給するだけでなく、米国内での技術開発、人材雇用、製造ノウハウ蓄積にもつながるとみられる。
AIやクラウド向けの先端半導体投資が注目される一方で、スマートフォンやウェアラブルなどの端末側では、RF、センサ、電源管理、接続性能といった領域の高度化も引き続き重要である。今回のAppleとBroadcomの契約は、先端ロジックだけでなく、製品体験を支える周辺半導体・RF部品においても、米国内サプライチェーンの強化が進んでいることを示すものといえる。