AMDが先般米国サンフランシスコで開催した「Advancing AI 2026」は内容が充実した出色のイベントであった。
先端AI開発のワークロードの焦点が、学習から推論に急速に移行する中、巨大ラックシステム「AMD Helios」を中心に、フルスタックのプラットフォームを提供しながらNVIDIAを追撃するAMDの現在位置を力強くアピールする場となった。
CPU/GPUの新製品とフルスタックのソリューションでNVIDIAを追撃するAMD
今回のイベントは、AI半導体ソリューションが群雄割拠する中で、AMDがNVIDIAを追撃する最も有力な対抗軸として認識されている事を印象付けた。CPU/GPUの新製品で構成されるAMD Heliosを中心にフルスタックの体制をアピールするAMDの強みは、多くの大手顧客からのフィードバックをベースに先端CPU/GPUのロードマップを進化させる設計能力と、先端プロセスと圧倒的製造キャパシティーで製造を支えるTSMCとの見事な協業である。
その成果はMETAやOracleという従来の大手顧客に加えて、新たにMicrosoftとAnthropicが戦略的なパートナーとして加わったことに表れている。
発表によると、MicrosoftはAMDとの長期的な戦略的パートナシップを拡大し、Azure上でAMD Heliosを大規模に展開するという。Heliosの構成要素は、AMD Instinctアクセラレーターの新製品「MI455X」、AMD Epycプロセッサー「Venice」、「Pensando」ネットワーキング、およびROCmオープンソフトウェア環境である。AI開発に必要な技術要素を全て準備するという、まさに「フルスタック」のソリューションをもって顧客をサポートするAMDの存在は、NVIDIA依存から抜け出したい大手顧客にとっては大変に魅力的な存在であると言える。
Microsoftとの協業に加えて、AMDの技術力を高く評価する大手ブランドが現れた。現在、AI性能でトップを走るClaudeを開発するAnthropicである。AMDとAnthropicは戦略的提携を発表し、Anthropicが最大2GW規模のAMD製AIインフラを導入するとともに、AMDがAnthropicに最大500億ドルの投資をするという。AI開発最前線でその存在感を増すAnthropicは、NVIDIA、Microsoft、GoogleといったAI市場におけるメジャーブランドとも協業関係にあるが、その中にAMDが加わるという事実は、AMDの業界におけるポジションが確実に上がっている事を示している。
この業界の基本精神である、「一社独占は許さない」というDNAは脈々として流れていて、NVIDIAの対抗軸としての存在感を増すAMDの現在の姿は、x86 CPU市場でIntelと熾烈な競争を繰り広げて勝ち残ったAMDの歴史とそのまま重なる。
最上位機種に1GBのキャッシュメモリーを搭載する先端CPU「Venice」
「Advancing AI 2026」イベントでは、巨大なラックサーバーシステム「Helios」を中心に、GPUベースのアクセラレーター次機種のMI455X などが注目を集めたが、私が最も注目したのが、次世代CPUとして位置づけられる第6世代サーバーCPU「EPYC 9006」シリーズ(コード名Venice)である。
256個のx86 CPUコアという巨大なコンピューティングパワーもさることながら、私が最も驚いたのは、TSMCの2nmプロセスで製造されるこのCPUの最上位機種がなんと1GBのL3キャッシュメモリーを搭載しているという破格のスペックである。
ギガバイト級のキャッシュメモリーということは、一般的なノートパソコンのメインメモリーにも使えそうな容量がCPUの中に一時保存記憶領域として集積されているということで、その大胆なアーキテクチャーとともに、それを実現させるTSMCのプロセス技術の恐るべき実力を改めて感じさせる。
「キャッシュメモリーの増量」という手法は、CPU開発ではお決まりの方策であるが、そのタイミングはプロセス技術の発展とともに起こらなければ実際の製品投入に大きな影響を与えることになる。
かつて、自社ファブでの生産に徹していたAMDは、プロセス技術開発で常に1世代先を行くIntelとの熾烈な競争で、何度も辛酸をなめた経験があるが、そのうち何度かはキャッシュメモリー容量の増量と、プロセス技術のアップグレードを同時に行った時である。その点で、Veniceの開発でTSMCとの見事な連携で「巨大1GBのキャッシュメモリー」を実現した事実は、CPUの開発の歴史に残るブレークスルーである。というのも、この「1GBのキャッシュメモリー」は、昨今のエージェントAI開発で発生するワークロード処理において大きな意味合いを持つからだ。初期の対話型AIでは一回の質問の度に一回の回答を生成するタスクでよかったが、エージェントAIでは、裏側で何度も自身に問い合わせを重ねながら、その結果に基づいて多くのタスクをこなす方法がとられる。このため、CPUとメモリー間のデータのやり取りで重なる遅延が、システム全体のスループットに大きな影響を与える。「OSがすっぽりと収まる大容量」と一部のパワーユーザーに揶揄される巨大なキャッシュメモリーを擁するVeniceは、AMDが「エージェントAI時代の次世代CPUプラットフォーム」と謳う理由を充分に備えている。イベントの各所に他製品との性能ベンチマークを表示しているが、その対象となっているのはNVIDIAのVeraで、現在AMDがCPUの競合とはっきり認識しているのは、かつてのx86アーキテクチャーの王者Intelではなく、ArmコアベースのNVIDIAであることを明示しているのが印象的だった。
NVIDIA依存状態から抜け出したい市場と他社との協業でバーチャル勢力を構築するAMD
最近目立つのは、AMDによる競合他社との協業だ。今回のイベントでは、ウェハースケールのAIデバイスを開発したCerebrasとの協業も発表された。巨大ラックスケールのHeliosと接続することで、ハイブリッドな推論・超低遅延推論マシーンを構築するのが目的だ。
こういった他社との協業で重要となっているのが、NVIDIAのCUDAエコシステムに対し、AMDはあくまでもオープンなROCmソフトウェア環境を推し進めている点だ。CUDA支配の外側で協業スキームを構築するAMDの手法は、かつてx86アーキテクチャーで市場を支配したIntelに挑んだやり方と一種共通する部分がある。
今後のAMDの動きに注目したい。

