中小型ディスプレイ動向 - 2020年下期に急回復も2021年は不透明さが残る

英Omdia主催の「第40回ディスプレイ産業フォーラム」にて、中小型ディスプレイ市場調査担当の主幹アナリストである早瀬宏氏が、2020年の中小型ディスプレイ市場の動向を振り返り、「新型コロナウイルス感染症対策として行われた都市封鎖や外出規制によって、2020年上半期の中小型ディスプレイ市場は大きなダメージを受けた。しかし、感染対策が一定の功を奏した2020年中盤以降、特に感染の抑制に先行した中国市場にてスマートフォンの生産が復調、中小型ディスプレイの出荷も急速に回復した。その中で、安全保障を理由とした米国政府によるHuaweiに対する制裁(半導体の禁輸)が9月に実行された。これに先立ちHuaweiは当面のスマートフォン生産を維持するためFPDの調達を増やし在庫確保を進める一方、競合する他メーカーも将来的にHuaweiが失うであろう顧客の獲得に向けたスマートフォンの増産、FPDの調達数量の上積みを進めた。これらの効果によって、2020年後半に携帯電話用FPDの出荷が急速に回復、前回(2020年夏)の見込みで前年比10%減まで落ち込むと予想された携帯電話用FPDの出荷は、今回の集計で前年比5%まで回復する見込みとなった」と述べた。

中小型FPDの主要アプリケーションの1つである車載モニタ向けFPDの出荷については、「2020年第4四半期には前年並みの出荷数量にまで回復するも、年間では前年を大きく下回る(前年比14%減)見通しになった。一方、その他のアプリケーション向けの多くが在宅需要がプラスに影響する傾向となり、すべてを合わせた中小型FPDの出荷は前回見込みより改善され、出荷数量は前回(2020年夏)見通し(前年比10%減)に対し今回は前年比6%減にまで挽回する見通しとなった」と述べた。

また、早瀬氏は、中小型FPD動向についてこのほか次のような指摘をした。

  • 中小型FPDの付加価値向上をリードするフレキシブル AMOLEDは、iPhone 12シリーズに全面採用された事で出荷数量・金額ともに前年比で大幅な成長を果たす見込みである。また、フレキシブルAMOLEDが出荷金額を押し上げた事で、中小型FPDの出荷金額全体も前年比1%増と前年を上回る見込みとなる。
  • フレキシブルAMOLEDは、今後中小型FPD需要の伸びを占有していくと見込まれる。AMOLEDのシェアは依然Samsungが高いシェアを有しているが、徐々に中国メーカーも出荷を伸ばし始めており、今後の競合がどの様に進むかが注目される。
  • 新型コロナ対策としてワクチンの開発が進んだ事で、中小型FPD市場は再び成長に転じるものと見込まれる。ただし、スマートフォンメーカーの積極的な調達によって生じたFPD在庫の調整のため、2021年の中小型FPD出荷数量は引き続き前年を下回るものと予想される。また新型コロナによる世界経済への影響は長期におよぶとの予想から、中小型FPD市場の長期予測は前回予測(2020年夏)に対し下方修正となった。

早瀬氏は、中小型FPD市場の2021年の注目点について「 2021年に入って生じている新型コロナの感染拡大の第三波により、再び中小型FPDの需要に大きな影響を与えるものと懸念される。緊急事態宣言の再発令など、再び経済活動や消費行動に影響を及ぼしており、2021年の中小型FPD需要に大きく変動を生じさせる可能性が高い。加えて2021年に入り半導体の供給不足が顕在化、特に多数のコンポーネントを組み合わせる自動車生産ラインでの減産が伝えられており、車載モニター用を中心とする中小型FPDの受注にどのような影響を及ぼすかも新たな課題となる。中小型FPDの市場を取り巻く環境は、2021年および中長期予測共に予断を許さない状況となっている」と話を締めくくった。

2020年のテレビ市場は巣籠需要で前年並みに

Omdiaのテレビ(TV)セット担当チーフアナリストである鳥居寿一氏は、2020年のTV需要について、「コロナ・ショック直後の予測は“ロックダウンによるマクロ経済悪化、失業率上昇で全世界的に需要大幅減”だったが、実際は大きく異なり、米・欧・日の先進国を中心に巣ごもり需要での好調が続き、全世界でほぼ2019年の需要レベルまで回復した結果、前年比0.4%増を見込んでいる」と述べた。

ただし、「一方、新興国では、アジアならびに中南米での新型コロナウイルス感染症の感染者増に伴うマクロ経済の悪化から2020年は需要が大幅減少。2021年以降は緩やかな回復を見込むが時間を要する見通しとなっている。中国市場はパネル価格の大幅値上げによるセット価格の上昇により需要が停滞、成熟傾向が続いている」と付け加えた。

また、鳥居氏は、以下のようなTV関連動向を示した。

  • 2020年の米国や欧州の年末商戦全体は需要好調が続き、想定以上の結果で推移した。Black Friday週の販売は大きく落ちたが、10月のAmazonのPrime Day、11月上旬をBlack Novemberなど、連日オンラインでのプロモーションを実施し巣ごもり需要を喚起した。セット在庫は一部多めの販売店があるものの、パネル・半導体の供給不足の懸念があり概ね適正レベル。パネルの供給懸念、中国トップブランドの積極計画への対抗、UEFA EUROならびに東京五輪対応で各サプライチェーンは在庫を多めに抱えることとなろう。
  • 巣ごもり需要によりゲーム機の販売が拡大。TVにおいてもHDMI 2.1でVRR(可変リフレッシュレート)対応機能が大手ブランドのプレミアムTVに標準搭載されるなどCES 2021でのホットトピックとなっていた。
  • LCDは中国の独占が進み値上げが続く中、2021年はLCDの次を模索する転換点の年となる。2022年以降、ミニLEDバックライト搭載LCD TVの拡大、SamsungのQD-OLEDへの参入によるOLED TVへの追い風、90型以上のサイズでのマイクロLED TVなどの技術革新に期待したい。
  • 2021年は米国の新大統領・新政権、政治が最大のリスク要因となるだろう。