英国の市場動向調査会社Omdiaは、韓国企業の液晶ディスプレー(LCD)事業からの撤退により、大型フラットパネルディスプレイ(FPD)が2021年に供給不足に陥り、その回復には数年を要するとの見解を発表した。

2013年から2020年にかけて、世界のFPD生産能力は約50%ほど増加し、2億2500万m2から3億3500万m2へと拡大した。特に2019年は複数の巨大な第10.5世代(G10.5)ラインを含む中国の新しい工場の継続的な構築により、生産能力が大幅に引き上げられた。この結果、テレビ向け液晶パネルの価格が下落し、年間を通じて記録的な低調が続くこととなった。

韓国勢の撤退で世界のパネル生産能力の17%が消失

新型コロナウイルスの感染拡大は、FPDの需要にも影響を及ぼしており、パネルメーカー各社のビジネスにかなりの不確実性をもたらしている。韓国のサプライヤは、この環境で収益性を維持するという課題に対し、2020年に韓国でのテレビ用液晶パネルの生産を完全に終了する計画を掲げている。こうした工場の閉鎖により、FPDの生産能力は実に5700万m2ほど削減されるとのことで、これは世界の総生産能力の17%に相当するという。この結果、10%程度が適正レベルとされる生産過剰レベルは、2019年の過度な過剰状態から2021年には供給が非常にタイトになる6.5%(年平均)へと低下するとOmdiaでは予測している。

またこの動きにより、2019年から2021年にかけてのパネル生産能力は2%ほどの増加に留まるという。中国が既存ラインの増強や新工場の建設により生産能力を拡大させる一方、韓国勢の撤退がそれを打ち消すためだという。 ちなみに2020年上半期に予定されていた中国における複数のG8.6ならびにG10.5の液晶工場の立ち上げが遅れているという。これは主に、海外製造装置メーカーのエンジニアたちの出張制限により、設備のセットアップが中断されたためである。ほとんどの場合、現地の中国人エンジニアリングスタッフが取り組んでいるとはいうものの、現地スタッフだけでは難しいフォトリソグラフィツールなどの一部の装置はセットアップが以前の計画から2〜4か月ほど遅れているという。

  • Omdia

    大型パネル(9型以上のLCD/OLED)の需要面積、供給面積、生産過剰率(%)の推移と予測 (出所:Omdia)

パネル価格がキャッシュコストを下回る事態に

OmdiaのシニアディレクターであるCharles Annis氏は、「2020年第1四半期、新型コロナが物流を妨げ、部材とコンポーネントの不足を引き起こしたため、中国では一時的とはいえモジュールを組み立てることができなくなってしまった。これは大型パネル市場の受給バランスを正常に戻すのに役立ち、四半期の大部分の期間を通じてパネル価格が上昇した。しかし4月上旬までに、中国各所のFPD工場は通常に近い生産能力に戻った一方、5月現在、新型コロナの世界的な拡大によりテレビの需要が底を打っていることもあり、生産過剰率が再び高い水準に急上昇中となっており、第2四半期のテレビ向けパネル価格はキャッシュコストを下回る見込みである」と予測を述べている。

数量ベースでは、2020年の需要は、新型コロナの影響で、前年比で約10%減少するとOmdiaは2020年5月時点では予測している。IT市場(特にノートブックとタブレット)はディスプレイ業界の1つのセグメントであるが、世界の多くの人々が急に家庭で仕事をしたり、子供と遊んだり勉強を手助けする必要が生じたため、現在、健全な需要を享受しているというが、それは需要の先取りで下半期には反動が来るとみているためである。

Omdiaでは、2021年から数量としての需要も回復が進むとみているが、2019年のレベルに近づくには2~3年ほどかかるとみている。ただし、面積ベースでは、加重平均のパネルサイズが45.4型から49.2型へと拡大することが予測されるため、2019年比で11%増となるとしている。

2021年第3四半期にはパネルが供給不足に

なお、Annis氏は2020年ならびに2021年のパネル市場の動向について「五輪などの世界的イベントが控えていた2020年は、新型コロナウイルスの問題が生じる前はFPD業界にとって大きな変化の年になると予想されていた。しかし、現在、新型コロナは世界中に蔓延し、さらに韓国パネルメーカーがテレビ用液晶パネルの生産をもっとも積極的なシナリオで撤退を進めていることから、大きな混乱が生じているように見える。もちろん、世界経済が新型コロナからどれだけ早く回復するかは、FPD業界にも影響を及ぼすわけで、もしテレビ向け液晶パネル需要のV字回復が実現されるなら、テレビ向けパネルの平均サイズの大型化が進むことが見込まれるため、パネル生産能力が増えない一方で面積需要が伸びるという事態に陥るため、2021年第3四半期にはFPD生産過剰率は5%という低いレベルにまで落ち込み、供給不足が発生することが予想される」と述べており、こうした事態は2021年以降のパネル価格ならびにパネルメーカー各社の財務状況の改善をもたらす指標になるとしている。