フィジカルAI時代に向けた4つの条件を提示

ThinkerおよびSHIN-JIGENは、現場学習型ロボットを活用したフィジカルAI戦略について説明。4つの条件に基づいた提案を進める考えを示した。

Thinkerの藤本弘道 代表取締役兼CEOは、対象物に対する臨機応変さと作業の細やかさを両立する「器用なロボットハンド」、熟練者の現場での作業時の力加減の制御といったノウハウに基づいた「暗黙知のデータ化」、現場単位で最適化を推進する「現場内学習型エッジAI 」、物流や食品、介護などの重点ドメインへ実装するための「社会実装基盤」の4点をあげ、「ThinkerおよびSHIN-JIGENは、これらの条件を満たす技術、製品を用意し、その入口に辿りつくことができた。現場で使われ続けるAIロボットにおいて、日本が持つ現場品質などの強みを生かし、日本全体が勝機を掴めるようにしたい」と語った。

  • Thinker 代表取締役兼CEOの藤本弘道氏

    Thinker 代表取締役兼CEOの藤本弘道氏

日本型フィジカルAIの方向性

Thinkerは、大阪大学発のスタートアップ企業で、2022年8月に設立。大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻の小山佳祐 助教が開発した「近接覚センサー」を活用したソリューションを開発し、ロボットハンドなどに応用している。また、CEOである藤本弘道氏は、パナソニックグループの社内ベンチャーであるATOUN(アトウン)で、アシストスーツの事業化をリードしてきた経験を持つ。

一方、SHIN-JIGENは、2022年5月に、ロボティクス事業に関わるコンサルティングや事業化支援を行う企業として、藤本氏が創業。現在は、現場の暗黙知のテクノロジー化に取り組み、ロボティクスとエッジAIの実装を推進している。CEOの岡本球夫氏は、パナソニックの研究開発部門の出身だ。

Thinkerの藤本CEOは、「製造現場などでは、AIおよびロボットによってイノベーションが起きるフェーズへと入りはじめ、人材不足などの課題に貢献できるフィジカルAI時代がやってきた。だが、日本の強みをどう発揮するのかといった問題がある。日本が得意とするのは、FA分野におけるロボットや材料だけでなく、現場品質、運用改善力といったアナログ的要素も含まれる。米国や中国の後追いのフィジカルAIではなく、日本の強みを生かしたフィジカルAIを追求すべきである。リアルの世界に足りないものはなにかという観点から、フィジカルAIを考えていくべきだ」と提言した。

大規模AIとエッジAIの融合が鍵

ロボティクスでは、全体を統括する大規模AIと、現場での微調整などに活用する小規模AIの組み合わせが重要なこと、現場での実装には「接触」と「調整」が必要なこと、頭脳として起用になるだけでなく、ハードウェアが起用に動くこと、暗黙知のデータ化が現場でのフィジカルAIの実現には重要であることなどを示した。

同社では、今回示した4つの条件を「フィジカルAI時代における日本のAIロボット戦略の具体化に向けた提言」として取りまとめ、産業界や政府、自治体などに提案していく考えだ。

  • 「フィジカルAI時代における日本のAIロボット戦略の具体化に向けた提言」

    「フィジカルAI時代における日本のAIロボット戦略の具体化に向けた提言」

手探りコネクティングで嵌合工程を自動化

一方、今回の説明会では、2つのフィジカルAI技術について、デモンストレーションを行った。

1つ目は、Thinkerが開発した車用コネクタ篏合システムである。自動車部品の製造現場などで、ワイヤーハーネスを嵌め込む作業を、ロボットハンドで自動化するというものである。

ワイヤーハーネスの嵌合作業を自動化する「手探りコネクティング技術」を備えたロボットハンド「Think Hand proto-2」を活用することで実現した。

  • 「Think Hand proto-2」
  • 「Think Hand proto-2」
  • 「Think Hand proto-2」の外観。グリッパ上部に手探りコネクティング技術の中核となるセンサーで感知して器用な把持を可能とした

同社では、バラ積みされている部品や、形が不揃いだったりするモノを、センサーで感知し、考えて、ピックアップする「手探りピッキング」技術を開発し、実用化しているが、これを進化させたのが、今回の「手探りコネクティング」技術となる。

“指先で考えて”部品をコネクトする「Think Hand Proto-2」の車載コネクタ嵌め合わせデモ

Thinkerの中野基輝CTOは、「ワイヤーハーネスの嵌合作業は、コネクタの取り扱いに対して、柔軟な適応が必要であり、同時に嵌め込みの際には、繊細な位置調整が求められる。そのため、人の手に頼らざるをえず、自動化が難しいとされてきた領域だった。手探りコネクティング技術により、指先が考えて、部品を接続することができるようになり、自動化を可能にした。インテリジェントを極めても、器用さは実現しない。人が身体で作業を覚えるように、ロボットハンドも指先で考えることが必要である。今回の技術により、製造現場の自動化の可能性は大幅に拡大する」と自信をみせた。

  • Thinker 取締役兼CTOの中野基輝氏

    Thinker 取締役兼CTOの中野基輝氏

カメラの映像をもとに、ワイヤーハーネスをロボットハンドが正しくピッキングし、コネクタの篏合部分に移動。人の作業と同様に、手探りをしながら正しい位置を見極めて押し込む作業を行う。センサーを活用して、作業ごとに、力の加減を制御しているのが特徴だ。

「手探りピッキング」技術に、今回の「手探りコネクティング」技術を組み合わせることにより、製造現場において、ランダムに置かれた部品などを仕分け、配置するだけでなく、取り付けや組み付け、嵌合工程までをカバーできるようになる。

製造現場で広がる導入と応用範囲

また、Thinkerが製造現場に導入してるい事例についても説明した。

那須梱包では、Think Hand proto-1を活用した機械部品の「小分け包装システム」を導入。バラ積み部品を袋詰めする作業を自動化している。そのほかの事例としては、焼結直後のパーツをデリケートなピッキングによって破損リスクを低減して移動させることができる「焼結パーツ取り出しシステム」、部品の重さによって取り出し時にたわむトレーの動きを捉える微細誤差吸収によって、歩留まりを向上させる「機械部品ピッキングシステム」を紹介。

また、ティッシュの上に置かれたコインをやさしく取り上げ、コインケースに約5kgの力を使ってはめ込む作業を行い、柔軟なタッチと力作業が必要なハードウェアの堅牢性を両立する技術も紹介した。

なお、同社では、ロボットハンド向けのSDKの提供を行っており、システム実装を容易にしたり、複数のロボットの組み合わせを行ったり、オンサイトでリアルタイムでの学習、調整を続けることができるようにしているという。

下水道インフラでの予兆検知AIを実証

2つ目は、SHIN-JIGENが取り組んでいる下水道インフラにおける予兆検知システムだ。

  • 下水道インフラにおける予兆検知システム

    下水道インフラにおける予兆検知システム

下水道の水流ポンプの近くにマイクを取り付けて、水流音の変化を捉えて、異常を検知する。ベテランの検査員のノウハウを活用し、Raspberry Piによるエッジデバイスを使用することで、リアルタイムに学習して、検知精度や予測精度などをより最適化することができる。

  • 赤い部分に入ると異常値として認識する

    赤い部分に入ると異常値として認識する

現在、自治体との連携により、実証実験を開始しているところだ。今後は、Thinkerとの連携により、この技術を製造現場の設備保守などに利用していくことになるという。

  • Raspberry Piによるエッジデバイスを使用

    Raspberry Piによるエッジデバイスを使用することで、リアルタイムに学習する

第2世代エッジAIと暗黙知活用の展望

SHIN-JIGEN 代表取締役/CEOの岡本球夫氏は、「従来のエッジAIは、端末では推論を実行するだけであったが、第2世代のエッジAIは、推論に加えて、学習も実行することになり、オンサイト学習が可能になる。現場で処理するAIから、現場で考えるAIに進化する。これにより、小さなシステムで、現場に最適化したエッジAIを実現することができる」とし、「これからのモノづくり現場では、熟練作業者が持つ暗黙知を、形式知にして、熟練技術などを自動化。さらに、現場では、ロボットごとの特性にあわせたファインチューニングも行い、微調整が可能になる。現場を成長させることができるようになる」とした。

  • 岡本球夫氏

    SHIN-JIGEN 代表取締役/CEOの岡本球夫氏

柔軟な間接とエッジAIによるロボットハンド、人の動きをオンサイトで学んで、リアルタイムに最適化する学習技術、多品種小品種生産が多く、手作業が多い現場では少ないデータから適応する技術を用いることで、現場に最適化したフィジカルAIの実現を支援するという。

また、SHIN-JIGENでは、現場にある暗黙知をデータ化するだけでなく、同社のエッジAIを活用することで、製造事業者などが、データを流出させない形で、暗黙知を活用した新たなコンテンツやアプリケーションを再販できる仕組みを構築する考えも示した。