英国に本拠を置くビジネス情報提供多国籍企業Informa傘下のInforma Intelligenceの市場動向調査組織OMDIAのシニアコンサルティングディレクタである南川明氏が、2020年12月11日から2021年1月15日までバーチャル・オンデマンドで開催されているエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2020 Virtual」併催のSEMIマーケットフォーラムにおいて「エレクトロニクスと半導体市場の需要予測」と題した講演を行った。

2020年の半導体産業、5つのトピックス

同氏は冒頭、2020年の半導体産業の話題を5つ取りあげて説明した。

半導体産業成長率

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中にあっても2020年の半導体産業の成長率は前年比5%増、2021年は同10%以上の成長とOMDIAでは予測している。また、半導体設備投資は、2020年は同7%減であったが、2021年は同9%以上の成長となると予測している。

さらにエレクトロニクス化が進む自動車の生産が2020年10月から急速に回復の兆しをみせているほか、Appleの5Gスマートフォン(スマホ)の増産、データセンター向け投資の回復なども同10月から見えてきており、2021年には再び本格的な成長が始まることが期待できるため、半導体の需要は伸びるとの見方を示している。

半導体メモリ市場の動向

2020年のDRAMならびにNANDともに価格は比較的安定的に推移してきたが、2021年は5Gスマホやデータセンター向けSSDの需要の増加で、供給不足が予測されるとする。

またSK HynixがIntelのNAND事業を買収したことを契機にNAND業界の再編が進む可能性がでてきた。SK Hynix は、Intelのフローティングゲート技術とエンタープライズSSD技術、さらにはそのためのコントローラとソフトウェアが欲しかったとみられることから、南川氏は「価値のある買収」との判断を示している。

さらに南川氏は、IntelのNAND事業買収後のSK Hynixのシェアはキオクシアと同程度になるが、キオクシアはSK Hynixを脅威としてとらえて対抗するのではなく、新たな連合体制で業界再編が起きることが期待されるとも指摘している。

データセンター向け投資の動向

2020年のデータセンター向け投資は前年比微増程度とみられているが、2021年には同10%以上の成長が期待されている。背景にはGAFA+Microsoftの生み出すフリーキャッシュフローは20兆円に達していることが挙げられる。各社ともに米国の規制当局ににらまれていることもあり、このキャッシュフローを使って、今後、データセンターへの設備投資やM&Aが加速することが期待されるという。

ファウンドリの動向

200mmファウンドリのウェハ受託製造価格が上昇し始めている。また、SMICのファウンドリビジネスは下降するが、TSMC、UMC、GlobalFoundriesのビジネスは上昇傾向にあり、200mmの生産能力不足に続いて2021年には300mmファウンドリも生産能力不足になる可能性が高い。

米中貿易戦争の行方

米中はそれぞれ3兆円規模の半導体研究開発・製造投資を始めた。米国では、2つの半導体強化法案が議会で審議されている。一方の中国も新たな半導体強化方針を立てており、両国の半導体開発競争が今後、両国の投資を促進することとなる。

こうした中、日本の半導体装置・材料メーカーの重要性が増すことが期待される。米国はバイデン政権になっても米中関係に大きな変更はないと思われるが、米国は世界最大で魅力的な中国市場を捨てるわけにもいかないのでハイテク関連の制裁はやや緩めるかもしれない。しかし、中国の人権問題をハイテク摩擦よりも重視し、制裁を強める政策をとる可能性もあるとする。

米中ともに半導体産業を強化、米中覇権争いは終わらない

南川氏は、中国および米国について以下のように補足している。

中国の動向

中国政府はリーマンショック後、60兆円規模の投資を行い、インフラを整備して世界経済の回復をけん引したが、今度は新たに社会インフラへの投資を始める模様である。100兆円以上の資金を投入して、5G基地局、データセンター、AI、産業用IoT(IIoT)、EV/HEV用チャージャー、高速鉄道、超高圧スマートグリッドなどのプロジェクトが進められる見通しである。いずれも半導体の需要増加をもたらすことが期待されており、中国はこれらのプロジェクトの成果をまとめてスマートシティを構築することを計画している。さらに、一帯一路にこうしたスマートシティそのものを売り込んで外貨を稼いで経済圏を広げていく方針である。中国が世界一の経済大国・軍事大国になることをあきらめていないことの証拠で、こうした動きから米中の競争は今後も長期にわたって続いていくことが予想されるとする。

米国の動向

米国半導体企業は世界の半導体売上高の45%を占めて世界トップの地位を維持している。ちなみに、2位は韓国で24%、3位は欧州と日本でそれぞれ9%、5位は台湾6%、6位は中国5%である。しかし、米国企業の半導体の7割は台湾や韓国に生産委託する形で製造されており、米国内で製造される半導体は全体のわずか12%に過ぎない。こうした背景から米国では、半導体製造の国内回帰に向けた施策を実行に移しており、TSMCのアリゾナ州への誘致に成功している。

一方、中国は年間20兆円分の半導体を購入しているが、その半分は米国からの輸入である。したがって米国にとって中国市場を捨てるわけにはいかないという構図がある。米国はインドを次のビジネスターゲットにしようとしており、中国も半導体の自給自足を目指して国内製造を強化しようとしているが、米国は様々な制裁により、先端半導体への進出を阻止しようとしている。

新型コロナによる産業への影響は?

  • 自動車:2020年前半に新車販売は大きく落ち込んだが、後半には急激に回復してきており、2021は2019年レベルまで回復する見込みである。
  • ワイヤレス(スマホなど):2020年は大きく落ち込んだが、2021年には2019年レベルを超えて成長する見込みである。
  • ワイヤード(基地局など):2020年はインフラ投資が十分できなかった。人が移動できず設備を設置できない事情があった。Huaweiの売上げの落ち込みを他社が十分補えなかった。2021年には回復する。
  • コンピュータ:新型コロナウイルス感染症の拡大前より後の方が需要が増加しており、OMDIAも市場予測を上方修正している。また、思った以上にデータセンターへの投資が活発化してきており、ノートパソコンの売れ行きも好調、メモリ価格の低下などが重なり データセンターへの投資が2021年に増加することが期待される。
  • 家電:eコマースは好調だったがリアルな販売がきわめて不調だったためにコロナ後の需要は下方修正となっている。
  • 産業機器:大きなマイナス成長となっており、回復も遅い。背景には中国が設備投資を控えた影響が大きい。 ## ポストコロナはB to CからB to Bへ流れが変化 {#ID11}

アフターコロナの世界はどうなるか? 新型コロナの影響で世界的に経済活動が停滞したことから、大気汚染が軽減される結果が世界的に見られ、これまで経済活動を優先して、環境破壊を行ってきたことを世界中で認識するようになった。こうした動きもあり、日本を含む世界120か国が一斉に2050年までに温室ガス排出実質ゼロ(いわゆるゼロエミッション)宣言をして、さらにこれを経済の活性化につなげて行こうとする動きを見せている。

この結果、今後はITを活用したスマートな働き方、医療、教育、行政、産業などの実現が求められるようになる。そのため、これまでのようなB to Cの市場でスマホやPC、テレビの成長が半導体産業をけん引する時代は終わりを告げて、インフラに近いものが政府の後押しで成長して行く時代になるだろうと南川氏は指摘する。半導体産業のけん引役はB to CからB to Bへと大きく舵が切られる可能性がでてきたといえる。