筑波大学は5月21日、サッカーにおけるフェイントドリブルに着目し、熟練者(大学生の上級者)がどのように守備者を突破しているのかを詳細に分析した結果、熟練者のドリブルは単に速いだけではなく、間合い・相対速度・加速を統合的に操作しながら、守備者との関係性を変化させる技能であることを明らかにしたと発表した。
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シザースフェイントの測定風景。攻撃者と守備者にマーカーを装着し、5m四方のエリアでシザースフェイントを実施。攻撃者が守備者を突破する際の実践的なドリブル動作が三次元的に計測された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
同成果は、筑波大 体育系の中山雅雄教授、苫小牧工業高等専門学校の多賀健准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本体育・スポーツ・健康学会が敢行する和文の旗艦学術誌「体育学研究」に掲載された。
ドリブル突破を実現する多角的なスキルとは
サッカーにおけるドリブルは、守備者をかわして攻撃のチャンスを生み出すための重要なテクニックの1つである。特に「突破」を目的としたドリブルは、1対1の局面で相手を抜くことにより、試合の流れを大きく変えるプレーとして位置付けられており、まさにドリブラーの真骨頂といえる。応援するチームの選手が1人、2人と相手チームの選手を抜き去ってゴールに迫る様子は、試合における最大のハイライトとなるだろう。
これまでのドリブル動作に関する研究では、コーンなどの固定された障害物に対する動作分析が多く行われてきた。しかし、実際の試合では、ドリブルは守備者との距離(間合い)や速度、タイミングといった相互関係の中で行われるため、対人場面における動作を解明することが重要視される。また、熟練者が、どのように守備者との関係を操作し、突破を成功させているのかについての定量的な知見も十分に示されていなかったとする。そこで研究チームは今回、対人場面におけるドリブル動作に着目し、熟練者の特徴を明らかにすることを目的として分析したという。
今回の研究では、大学生および中学生を対象とし、地域選抜歴を有する選手を上級者と位置付け、特に大学生上級者は“熟練者”と定義された。これらの選手に対して、守備者を伴う状況でドリブル技術の1つである「シザースフェイント」の動作特性を分析。同フェイントは、ドリブル中にボールをまたぐような動作で相手選手を欺いて逆方向へ移動するテクニックである。
実験では、フェイント動作を2台のカメラで撮影し、モーションキャプチャを用いた三次元動作解析により、「身体重心速度および加速度」、「守備者との相対身体重心速度(相対速度)」、「攻撃者と守備者の距離(間合い)」、「体幹傾斜角度」、「支持脚の膝関節運動」が測定された。さらに、フェイント動作を「アプローチ(接近)」、「フェイク(欺き)」、「ペネトレーション(突破)」の3局面に分け、熟練者の動作戦略が時系列で分析された。その結果、熟練者の動作について、以下の事実が判明したとする。
今回の分析で得られた事実
- 全局面を通じて高い身体重心速度で守備者に接近し、間合いを大きく縮めて相手の判断を迫る。
- 守備者との相対速度を操作し、フェイント後半に最も接近して守備者の反応を引き出して突破する。さらに、その後に急加速して相対速度に緩急をつけ、守備者の追従を遅らせる。
- 足の挙上を抑えた(シューズの底が地面からできるだけ離れないようにした)素早いボールまたぎと、進行方向への大きな体幹傾斜を組み合わせたフェイク動作により動作時間を短縮しつつ、守備者に対する欺きの効果を最大化する。
- 支持脚(軸足)の膝関節を大きく屈曲させた後、急激に伸展させることで身体重心速度を急激に増大させる。関節運動と身体重心速度の間には強い関連が認められ、突破力は下肢の力学的動作に関連していると結論づけられた。
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守備者との間合いの変化量((a)アプローチ局面、(b)フェイク局面)。上級者は、アプローチ局面において守備者との間合いを大きく縮めており、特に大学生の上級者ではその傾向が顕著なことが確認された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
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攻撃者を基準とした守備者との相対身体重心速度の時系列変化。大学生の上級者は、フェイク局面後半で相対身体重心速度を低下させ、その後急激に上昇させることで守備者を突破していることが突き止められた。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
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ペネトレーション局面における体幹傾斜角度((a)矢状面、(b)前額面)。大学生の上級者は、体幹を矢状面(進行方向)だけでなく、前額面(横方向)においても大きく傾け、大きなフェイクモーションを実行していることが確認された。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
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ペネトレーション局面における支持脚の膝関節角度(a)と膝関節角速度(b)。上級者は、支持脚の膝関節角度を大きく屈曲させ、その後急速に伸展させており、その動作特性は大学生の上級者の方が大きいことが明らかにされた。(出所:筑波大プレスリリースPDF)
つまり、熟練者のドリブル動作の鍵が、単なるスピードではなく「相手との関係性の操作」であることが解明されたのである。
今回の研究は、熟練者のフェイントドリブルについて、対人状況における動作を定量的に分析し、局面ごとに分解して、速度・タイミング・身体操作の統合として提示したことに意義があるという。特に、従来は別々に捉えられることが多かった速度やフェイント動作に加えて、守備者との間合いの取り方、相対速度差の最大化、支持脚の膝関節運動を用いた加速動作、といった要素を統合的に指導することの重要性が示された形だ。
研究チームは今後、これらの知見に基づいたトレーニングプログラムの開発や、実際の試合場面におけるパフォーマンスとの関連をさらに検討し、より実践的なコーチング指針の構築につなげていくとしている。