この半導体ニュースのまとめ
・オンセミがシリコンウェハをパッケージとして用いる「EPP」を発表
・異種ダイをウェハ内に埋め込み、電気・熱・機械設計の協調最適化で最大3~5倍の電力密度を実現
・AIインフラやEV、産業分野への展開を目指し、SUBARUが次世代EV向けに評価を開始
オンセミは9月16日(米国時間)、シリコンウェハそのものをパッケージ基板として活用する新たなパワー半導体統合技術「エンベデッドパワープラットフォーム(Embedded Power Platform:EPP)」を発表した。
12インチ(300mm)のシリコンウェハ内にパワー素子、ゲートドライバ、コントローラなどの異種半導体チップを埋め込み、ウェハレベルの再配線層(RDL)で接続する。電気、熱、機械設計を個別に進める従来の手法から、開発初期より協調設計する手法へ移行することで、アプリケーションに応じて最大3~5倍の電力密度を実現するとしている。
対象市場はAIデータセンター、電気自動車(EV)、産業機器、急速充電器、エネルギー貯蔵システム(ESS)など。すでに戦略的な顧客やエコシステムパートナーへのサンプル提供を開始しており、日本ではSUBARU(スバル)が将来の電動車向けパワーシステムへの適用可能性を評価することを表明している。
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オンセミのエンベデッドパワープラットフォーム(EPP)を用いて製造したパワー半導体モジュール。パワー素子やゲートドライバ、コントローラなどをシリコンウェハ内へ埋め込み、ウェハレベルの再配線層で接続する (提供:オンセミ)
電力密度がAIと電動化の新たな制約に
AIデータセンターやEV、産業機器では、限られたスペースで従来以上の電力を変換・供給する必要が生じている。
AIデータセンターでは、GPUやAIアクセラレータの演算性能と消費電力が増加し、電力の供給、変換、保護を担う機器が基板やラックの空間を占有するようになっている。演算用半導体、いわゆるロジック(主にGPU)の数を増やせても、それらに向けて必要な電力を供給し、発生した熱を処理できなければ、システム全体の演算密度を高めることは難しい。
EVでも、航続距離や充電性能を高めながら、トラクションインバータを小型・軽量化する必要がある。複数の機能をEアクスル周辺へ集約する「X-in-1」の採用が進めば、パワーエレクトロニクスには、さらに高い電力密度が求められる。
一方、一般的なパワーシステムの開発では、電気、熱、機械設計を別々の担当者や工程で最適化する場合が多い。電気性能を高めるための変更が冷却構造やサイズへ影響するなど、各領域の設計がトレードオフとなり、開発後半での設計変更やコスト増、開発期間の長期化につながる可能性がある。
オンセミは、パワー半導体単体の性能向上だけでは、こうしたシステムレベルの制約を解消することが難しくなっていると判断。半導体とパッケージを別々の技術として扱うのではなく、パッケージ自体をシステムの電気・熱性能へ積極的に寄与させるEPPを開発した。
シリコンウェハをパッケージとして活用
EPPの最大の特徴は、シリコンウェハそのものをパッケージの基板として用いる点にある。
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エンベデッドパワープラットフォーム(EPP)の基本概念。異種半導体チップをシリコン内に埋め込み、ウェハレベルの再配線層で接続するほか、電気・機械・熱に関する要件を開発初期から統合して設計する。異なる半導体材料や幅広い電力レベルに対応できるスケーラブルな構成としている (提供:オンセミ)
一般的なパワーモジュールでは、パワー素子やゲートドライバなどをプリント基板上へ実装し、ワイヤボンディングやクリップボンディングでそれらを接続する。これに対してEPPは、シリコンウェハ内へ複数のダイを埋め込み、半導体製造プロセスによって形成するRDLで接続する。
ウェハ上に複数のEPPを形成した後、必要な大きさに切り出してパワーモジュールへ組み込む。パッケージの上面から外部接続用の電極や端子を取り出し、下面はベースプレートや水冷用のクーリングジャケットなどへ接続して放熱する構成を想定している。
EPPのサイズは一律に決まるものではなく、12インチウェハの範囲内で、必要な出力や搭載するパワー素子数に応じて変更できる。大きな電力を扱う用途ではパワー素子の数とパッケージ面積を増やし、低い電力を扱う用途では小さく構成できる。
RDLで寄生インダクタンスを低減
パワー素子を高速にオン・オフすると、配線に存在する寄生インダクタンスによってサージ電圧やノイズが発生する。サージ電圧が大きい場合、素子の破損や誤動作を防ぐため、スイッチング速度を抑える必要が生じる。
EPPは、パワー素子とゲートドライバ、コントローラを近接して配置し、短く精密に形成したRDLで接続する。ワイヤボンディングなどを用いる従来構造と比べ、電気経路を短くして寄生インダクタンスを低減できるという。
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EPPの断面構造と主な技術要素。ワイヤボンディングをウェハレベルの再配線層に置き換えるほか、Si、SiC、GaNなどのパワーデバイスとドライバ、コントローラをシリコンベースのパッケージへ統合。寄生インダクタンスの低減や放熱性能の向上、システム設計の簡素化につなげる (提供:オンセミ)
寄生インダクタンスを抑えることで、サージ電圧やノイズを低減し、パワー素子を安定して制御しやすくする。スイッチング速度と周波数を高められれば、電力変換時の損失を減らせるほか、周辺のインダクタやコンデンサなども小型化できる。
ゲートドライバやコントローラをパワー素子の近くへ埋め込むことで、電力供給機能と制御機能を単一のプラットフォームへ統合し、外部での接続や回路設計も簡素化する。
RDLの層数やライン・アンド・スペースなどの詳細は明らかにされなかったが、電極は表面に露出させて外部接続する構造で、パワー素子やコントローラだけでなく、受動部品を埋め込むことも技術的には可能であるとしていた。
パッケージ全面を使って熱を逃がす
EPPが目指す高電力密度化では、電気性能と並んで熱性能が重要となる。
パワーモジュールを小型化して電力密度を高めると、限られた面積に発熱が集中する。半導体素子で生じた熱を十分に逃がせなければ、素子の動作温度が上昇し、性能や寿命、信頼性に影響する可能性がある。
EPPはシリコンベースのパッケージとパッケージ全面にわたる熱伝導構造を利用し、パワー素子で生じた熱を下面の冷却機構へ伝える。局所的な接合部だけでなく、広い面積を放熱経路として活用することで、熱抵抗を低減する。
高電圧絶縁層もパッケージ内部へ形成する。半導体プロセスを用いて薄い絶縁構造を形成することで、外付けの厚い絶縁材料への依存を減らし、絶縁性を確保しながら熱の伝達経路を短縮する。
オンセミは、ウェハファブで使用する材料や製造工程を活用することで、材料特性をシミュレーションモデルへ反映しやすくなることも利点として挙げる。電気、熱、機械特性をデジタルツインやマルチフィジックスシミュレーションによって開発初期から評価し、試作回数や設計変更を減らす。同社によると、アプリケーションによってはEPPを用いることで、開発期間を最短4カ月まで短縮できる可能性があるという。
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EPPによる高電力密度化の考え方。シリコンベースの熱伝導構造、パッケージ内部の高電圧絶縁、低い寄生インダクタンスを持つ再配線層に加え、デジタルツインとマルチフィジックス解析を活用し、熱、電気、機械設計を協調最適化する (提供:オンセミ)
Si、SiC、GaNを共通基板に埋め込み
EPPは、内蔵するパワー半導体の材料や種類を固定しない技術非依存型のプラットフォームとして設計されている。
シリコンMOSFETやIGBTのほか、SiC、GaNを用いたパワー素子、ゲートドライバ、コントローラ、絶縁機能などを、用途と電力要件に応じて組み合わせることができるとしており、同社が開発を進めている縦型GaNを含め、将来登場する新たなパワー半導体技術もEPPに取り込むことができるとしている。
単一の半導体材料だけで構成する必要もなく、例えばシリコンIGBTとSiCパワー半導体を組み合わせるハイブリッドスイッチなど、異なる素子を同一パッケージ上で使用する構成も可能となる。
パワー素子の種類や数を変更することで、ハイブリッド車(HEV)からバッテリー電気自動車(BEV)まで異なる電圧・出力を必要とする車両へ、共通のパッケージアーキテクチャを展開することができるようになるため、モデルごとにパワーモジュールを1から開発するのではなく、内部構成を変更して複数の車種や電力クラスへ対応させることで、開発期間や認定コストの削減につなげられるようになる。
オンセミは、EPPを既存のパワー半導体を収容するための新たな容器ではなく、パワー素子の性能をシステムレベルで引き出し、半導体技術の世代交代にも対応できる共通プラットフォームと位置付けており、EPPをEVのトラクションインバータなどへ適用することで、従来方式と比べて最大4倍の電力密度と、15%低い電力損失を実現できる可能性があるとしている。
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EPPが想定する主な応用分野。EVでは小型・軽量・高効率なトラクションインバータ、AI向け電源インフラではラックや基板の省スペース化と熱性能向上を支援する。急速充電器、エネルギー貯蔵システム、電力網、産業オートメーションへの展開も想定する (提供:オンセミ)
AI向け電力機器を小型・低温化
AIインフラでは、ラック当たりの電力増加に伴い、電力供給や変換、保護を担う機器の占有面積と発熱が課題となっている。
電源機器が基板やラックの空間を多く使えば、GPUやアクセラレータ、メモリなどの演算資源を搭載できる余地が減る。冷却に必要な設備も増えるため、電力供給機器の小型化と熱性能の向上がAIシステムの演算密度を左右する。
オンセミが試作したEPPベースの半導体遮断器は、既存方式と比べて約50%小型化され、動作温度を約20%低減できたという。パッケージ内部の配線距離を短縮し、パッケージ全面を放熱経路として利用することで、基板の占有面積と冷却負荷を抑えた。
EPPは半導体遮断器にとどまらず、AIデータセンターにおける「Grid-to-Core」、つまり電力網からサーバラック、基板、AIプロセッサまでの各段階で行われる電力変換や保護への展開が想定される。
オンセミは、AIの発展を制約する要因が演算性能だけでなく、必要な電力を限られた空間で高効率に供給できるかどうかへ移りつつあるとみており、EPPをAIインフラ向け電力供給アーキテクチャの基盤として展開する考えだ。
急速充電やESS、産業オートメーションにも展開
EPPの対象はAIデータセンターとEVに限らない。例えばEV向け急速充電器では、充電電力の増加に伴って電力変換回路の高効率化と小型化が求められる。太陽光発電用インバータやESSでは、再生可能エネルギーや蓄電池と電力網との間で大きな電力を双方向に変換する必要がある。
電力網の高度化に向けて開発が進むソリッドステートトランスや半導体遮断器も対象となる。従来の機械式機器を半導体化することで高速な制御が可能になる一方、扱う電力と発熱が増えるため、高電力密度なパッケージ技術が重要となる。
産業オートメーションやロボットでも、モーター駆動回路や電源システムを小型化できれば、装置内のスペースをほかの機能へ振り向けられる。EPPは内蔵する半導体を変更することで、幅広い電力レベルと用途へ展開できるとしている。
SUBARUが次世代EVへの適用可能性を評価
オンセミはEPPの戦略的技術提携パートナーの1社としてSUBARUとの協業を発表した。
SUBARUはオンセミからEPPのエンジニアリングサンプル、シミュレーションモデル、関連する専門技術の提供を早期に受け、将来の電動車向けアーキテクチャへの適用可能性を評価するとしている。
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オンセミとSUBARUによるEPPの戦略的技術提携の概要。SUBARUはエンジニアリングサンプルやシミュレーションモデル、専門技術の提供を受け、効率向上や開発の簡素化、将来の電動車向けアーキテクチャへの適用可能性を評価する (提供:オンセミ)
評価対象には、電力変換効率や熱性能、パッケージの自由度に加え、車両レベルでの性能最適化、開発の簡素化、システムコストの低減、開発期間の短縮などが含まれる。
EPPを用いて電力密度を高め、パワーモジュールを小型化できれば、車両全体のレイアウトや冷却構造にも影響を与える可能性がある。ハードウェアの潜在能力をソフトウェアで最大限に引き出すSUBARUの開発思想を組み合わせる形で将来の車両プラットフォームへの適用を検討する。
オンセミにとっても、開発の早い段階から自動車メーカーと協調することで、EPPを実際の車載システムへ適用する際の要求や課題を把握し、プラットフォームの改良へ反映できる。
ただし、SUBARUによる評価は量産採用を意味するものではなく、具体的な搭載車種や量産時期、ほかの評価企業については明らかにされていない。
部品販売からシステム基盤の提供へ
EPPは、オンセミが持つシリコン、SiC、GaNのパワー半導体を個別に販売するだけでなく、ドライバやコントローラ、絶縁機能、パッケージ、シミュレーションまでを組み合わせたシステムプラットフォームとして顧客へ提供する取り組みとなる。
半導体を微細化し、デバイス単体の性能を高めるだけでは、AIや電動化が求める電力密度を実現することが難しくなっている。オンセミは、パッケージング工程の一部を半導体ファブへ取り込み、ウェハレベルの製造精度と再現性をパワーシステムへ展開することで、電気、熱、機械の物理的な制約を同時に解消しようとしている。
EPPは2026年中に、自動車およびAI関連分野の戦略顧客やエコシステムパートナーに向けてサンプル提供が開始される予定で、そうした顧客による評価が進み、実際に量産適用となれば、パワーモジュールが単なる半導体の電力を制御する部品から、システム全体の性能やアーキテクチャを決める基盤へと役割を広げる可能性がでてくる。
