生成AIの急速な普及を背景に、データセンター向けを中心として半導体需要が拡大している。日本でもTSMCの熊本進出やRapidusの工場建設など大型投資が相次ぐが、産業の成長を阻む課題の一つが「人材不足」だ。では、これからの半導体産業を支える人材をどう確保し、育てていくのか。半導体分野で人材派遣・製造請負を手掛けるUTエイムに、現場の実情と人材育成について聞いた。

  • UTエイム 執行役員 ソリューション営業部門 事業推進ユニット 小泉純氏

    UTエイム 執行役員 ソリューション営業部門 事業推進ユニット 小泉純氏

AIで再び成長産業へ、日本の半導体業界を待ち受ける「人材不足」

生成AIの普及を背景に、データセンター向けを中心として半導体需要が急拡大している。かつて“日の丸半導体"と呼ばれながら、ここ20年ほど苦戦が続いた日本の半導体産業も、経済安全保障や地政学上の観点、国策による後押しを受け、再び成長産業として注目を集めている。

一方、その成長を支える上で大きな課題となっているのが「人材不足」だ。工場を建設し、設備を整えても、そこで働く人がいなければ生産能力を高めることはできない。

工場を建設しても、設備を整えても、そこで働く人がいなければ生産はできない。製造業向け人材サービスを展開するUTグループでは、その変化を現場の最前線で感じているという。UTグループの子会社であり、半導体・自動車分野を中心に人材派遣・製造請負を行うUTエイムの小泉純氏は、「設備投資より先に、人材不足がボトルネックになりつつある」と語る。

なぜ半導体業界ではこれほど人材が不足しているのか。そして今後、どのような人材が求められるのか。現場の最前線で企業と向き合う立場から話を聞いた。

  • 半導体の現状を語る小泉氏

    半導体の現状を語る小泉氏

TSMC、Rapidus、生成AI――半導体需要はなぜ急拡大したのか

日本の半導体産業が大きく動き始めたきっかけのひとつが、台湾TSMCの熊本進出だった。TSMCは世界最大の半導体受託製造企業であり、世界のITを根底から支える存在と言える。だが地政学上の問題もあり、半導体生産が台湾に集中することへの懸念も高まっていた。そうした中、TSMCを熊本に誘致して誕生したのがJASMだ。その動きは九州の半導体業界を活性化させ、かつての“シリコンアイランド九州"復活の兆しを見せている。

さらに北海道では、半導体業界の「世界に対抗するために2nm(ナノメートル)を作らなければ」を合い言葉に、多額の税金を投じてRapidus(ラピダス)が立ち上がった。

「日本は半導体競争で長年苦戦してきました。再び世界と戦える産業をつくろうという流れで工場の建設を進めている中、流行りだしたのがOpenAIの生成AI『ChatGPT』です」(小泉氏)

ChatGPTは公開2カ月で1億ユーザーを突破。AI学習やデータセンター需要が急拡大し、それを支える半導体の需要も急増した。

「業界として一定の成長は予測していましたが、AIによって想定以上のスピードで需要が伸びました。特に集積率の高いメモリは需要に対して製造できる企業が少なく、各社計画的に増産してきたものの、それでも供給が追いつかない状態になりました」(小泉氏)

半導体は「理系の仕事」だけではない、未経験者にも開かれる入口

半導体業界には、TSMCやRapidusなどの半導体チップを製造するデバイスメーカーのほか、東京エレクトロンなどの半導体製造装置メーカー、材料メーカーなどがある。UTエイムが主に人材を提供しているのは、このうちデバイスメーカーの製造工程と、半導体製造装置メーカーの装置搬入・導入工程だ。

「現在の主要な業務領域は、保守・保全と呼ばれる機械のメンテナンス業務、現場寄りのプロセス、生産技術・生産管理、そして現場にサポートに赴き装置を直したり工程を立ち上げたりするフィールドエンジニア(FE)です」(小泉氏)

なかでも、製造ラインのオペレーターは未経験からでも挑戦できるという。半導体製造の自動化が進む一方、工程間の設定変更など人の手が必要な作業も残されている。

「オペレーターを続けていると、機械の動かし方のコツや工夫、不具合の予兆などが分かるようになります。この“現場のものづくりの流れを理解している"という経験値は非常に貴重です。経験を積んだ方には、定期的に機械のメンテナンスを行う『設備保全』というワンランク上の仕事を案内しています」(小泉氏)

設備保全では、定期的なメンテナンスに加え、不具合が発生した際の調整などを行う。極めて高い精度が求められる半導体製造では、こうした現場経験を積んだ人材へのニーズも高いという。

「半導体は、最後に人の手による微調整が必ず求められます。いつかは自動化されるかもしれませんが、今はまだ“お寿司屋さんの職人"のような高度なレベルの経験が求められます。また、完成品が日常生活で目に触れることが少ないため、就職の選択肢に入りにくい実情もあります。こうしたアンマッチも、人手不足が続く理由の一つです」(小泉氏)

一方、TSMCやRapidusの大型投資によって、半導体産業そのものの知名度は高まりつつある。若い世代にも成長産業として認識されるようになり、半導体業界に関心を持つ人は増えているという。小泉氏は、それだけに「人材獲得競争は今後さらに激化していく」とみている。

未経験のオペレーターをエンジニアへ、UTエイムの人材育成

半導体工場の派遣・請負を祖業とするUTエイムでは、現在約6000人が半導体に関わる現場で働いている。そのすべてが、もともと理系の専門知識を持っていたわけではない。研修やOJTを通じて経験を積み、より専門性の高い仕事へとキャリアアップした人もいるという。

では、未経験から成長していく人にはどのような特徴があるのか。

「コミュニケーション能力や情報収集能力が重要です。AIの活用が進むと、仕事とは“人間が判断すること"に限られてきます。正しい情報を収集し、状況に応じてきちんと判断し、適切な指示を仰いで動ける人が求められるという人物像は変わらないと思います」(小泉氏)

UTエイムでは、こうした現場での経験を評価し、次の仕事へとつなげる「E-Pro制度」を導入している。

「これまでの経験にどのような価値があるかを明確にし、現在の等級での期待・役割と、次の等級に行くために何をすべきかを示しています」(小泉氏)

評価するだけでなく、次の等級に進むために必要な仕事を経験できるよう、UTエイム側から派遣先企業にポジションの変更を提案することもあるという。

「ポジションの準備と条件、報酬をセットで提供することで、お客さま、はたらく人、当社がWin-Win-Winになることを目指している取り組みです。年2回の評価と育成のロールモデルを、各社の働き方に合わせてカスタマイズしています」(小泉氏)

こうしたキャリアアップの一つが、半導体製造の最終工程を担うテスト開発だ。同社には派遣・請負で培った経験を生かし、半導体製造の最終工程であるテストプログラムなどを開発している半導体テスト領域の受託チームがある。

「テストプログラム開発は、現場経験者にも未経験者にもチャレンジしてもらえる分野です。実際に不具合を経験した実感値がある方のほうがジョインしやすく、現在は15プロジェクト程度を手掛けています。小さな組織なので、スタートアップ企業や小ロットのデバイスに関するテストもカスタマイズできますし、小回りが利く分、知見を蓄積・共有できます」(小泉氏)

この半導体テスト領域の受託チームは企業からも高く評価されているという。『非常に重要だが、自社で優先して投資する仕事ではない』とされるからだ。

半導体業界では、研究・開発が第一の投資先になり、最後の検証工程まで潤沢な予算が回ってくることは少ない。だが半導体のテストは製品の品質を保証する重要な工程だ。一方で、企業にとって常に十分な人材を抱えておくことが難しい領域でもあり、こうした専門チームへのアウトソース需要があるという。

AI・ロボット時代、工場のオペレーターは「エンジニアリングの一部」へ

AIやロボットによる自動化が進む中、製造現場に人材を送り出す企業の役割も変わりつつある。小泉氏は、これからは単に「人を送り出す」だけではなく、AIやロボットと人間の役割を見極め、最適な人材配置まで提案することが求められると話す。

「どういう人材に、どう活躍してもらえるかまで伴走できる会社にならないと、ものづくり現場での人材会社の価値は減っていくでしょう」(小泉氏)

同時に、製造現場で働くオペレーターの位置づけも変わっている。かつて“作業員"と呼ばれた仕事も、現在はものづくりを支える「エンジニアリングの大事な一部」として、その価値が見直されているという。

「われわれも現場の作業という認識を捨てて、プライドを持って価値を発揮をしていかなければならないと考えています。今はその変革期と言えるでしょう。半導体メーカーが直接採用活動をするのは難しいと思うので、われわれが半導体業界への入り口・間口を広げ、就業人口を増やしていければと思っています」(小泉氏)

AIによって半導体需要が拡大する一方、その製造現場では人材不足が大きな課題となっている。未経験者にも入り口を広げ、現場で経験を積みながら専門性を高めていくUTエイムの仕組みは、半導体産業の成長を人材面から支える一つのアプローチとなりそうだ。