エレクトロニクス関連企業が参画する国際標準団体「グローバル・エレクトロニクス・アソシエーション(Global Electronics Association:GEA)」に関する前回の記事では、AIがエレクトロニクス製造にもたらす変革と構造的課題について解説しました。

後編となる本稿では、GEAが主催するエレクトロニクス製造業界最大級のイベント「APEX 2026」でAIとならび大きな注目を集めた「先端電子パッケージング(Advanced Electronic Packaging)カンファレンス」での最新情報を基に、今後のエレクトロニクス業界が向かうべき方向性についてお伝えします。

シリコンの進化を超える「システム統合力」の時代

現在、エレクトロニクス・イノベーションは極めて重要な局面にあります。シリコンレベルでのブレークスルーは驚異的なペースで進んでいますが、「先端電子パッケージング・カンファレンス」を通じてますます明らかになったのは、「業界の未来はチップ単体の進化だけでなく、それらのチップの組み合わせの妙による、最終的な『システム統合力』の完成度で決まる」という事実です。

AIドリブンのデータセンターはパフォーマンスと電力の要件を根本から再定義し、電気自動車(EV)や自動運転車は自動車用エレクトロニクスのアーキテクチャを劇的に変革しています。さらに、航空宇宙および防衛システムは、異次元の新たなレベルでの信頼性と統合を求めています。今日のイノベーションは、シリコンから基板、パッケージング、そして完全なシステム統合に至るまで、スタック全体に及んでいます。これを背景にカンファレンスでは、コンポーネントレベルの進歩とシステムレベルの視点を結びつけることを最大のテーマとして掲げました。イノベーションを真に支えるためには、単なる技術的リーダーシップだけでなく、弾力性(レジリエンス)を備えた協調的なグローバル・サプライチェーンの構築が不可欠なのです。

変革を迫られる基板・実装エコシステム:「すべてはシリコンに従う」

GEA CTO(最高技術責任者)兼 標準・技術担当副社長のマット・ケリーがカンファレンスの開会挨拶で述べた「すべてはシリコンに従う(Everything follows silicon)」という言葉は、現在の状況を的確に表しています。これまで長年にわたり業界を支えてきたプリント回路基板(PCB)技術や、基板アセンブリ、テスト、品質管理の重要性は今後も変わりません。しかし、今日のパッケージングの世界で起きている進化と、それがシステムのアセンブリに与える影響は、かつてないスピードで進行しています。もはや「コンポーネントレベルのパッケージングは自分の専門外だ」と言って看過して良い時代ではありません。技術的な課題は、エコシステムの境界を越えて急速に押し寄せています。この現実に対応すべく、今回のカンファレンスでは従来の基盤領域であるPCB、高密度相互接続(HDI)、アセンブリなどの上に、材料、設計、コンポーネント、設備といった次世代の関連ドメインを統合し、議論を深めました。

  • エレクトロニクス・エコシステムにおける先端電子パッケージングの役割

「脇役」から「主役」へ:先端電子パッケージングが牽引する3つの重要領域

GEA 先端パッケージング チーフ・ストラテジストのデヴァン・アイヤー博士が指摘した通り、先端電子パッケージングはもはや「脇役(付随的)」な工程ではありません。エレクトロニクス・エコシステム全体を前進させる極めて重要なイネーブラーとなっています。カンファレンスでは、以下の3つの主要な市場セグメントにおける最新技術トレンドがハイライトされました。

1. ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)とAI

チップレットによるヘテロジニアス(異種統合)パッケージング、2.5D/3Dパッケージング基板、ガラスインターポーザなど高度なコンポーネント技術が実装フェーズに入っています。これがシステムレベルでは20~60層という超多層PCBの需要を引き起こしており、マイクロビアの信頼性確保や、大型パッケージ実装時の反りの緩和が急務となっています。

2. センシング・制御・通信

5G/6Gやミリ波パッケージングの進化により、プリント基板上でのギガヘルツ級の高速シグナリングが求められています。これを実現するには、低損失なPCB材料や高周波プロセスとの高度なすり合わせが欠かせません。自動運転車におけるセンサーフュージョン分野でも、コンポーネントからシステムに至る一貫した最適化が急務です。

3. パワーエレクトロニクス

EVインバーター等に用いられるGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)を採用した次世代デバイスの普及により、実装プロセスは根本的な見直しが迫られています。新しい焼結(シンタリング)プロセスやパワー基板技術が進化する中、システム側で最も深刻な課題となっているのが熱管理(サーマルマネジメント)です。液冷ソリューションにおいてもPCB全体と緊密に統合された設計が必須となっています。

グローバルな協調と次なる業界標準の策定へ向けて

これらコンポーネントからシステムレベルに至る複雑な課題は、もはや1社、あるいは1つの国だけで解決できるものではありません。OEM、IDM、PCBメーカー、EMSサプライヤーが一体となったサプライチェーンのパートナーシップが不可欠です。GEAでは昨年、業界を代表する約24社とともに「アダプティブ・リーダーシップ・カウンシル」を結成しました。GEAでの議論はすでに「Heterogeneous Integration Roadmap(HIR:ヘテロジニアス・インテグレーション・ロードマップ)」に多大な貢献を果たしており、今後2~3四半期以内には、先進的なパッケージングとシステムアセンブリを結びつける新しいガイドラインや業界標準が順次リリースされる予定です。

  • コンポーネントからシステム統合への架け橋

日本のエレクトロニクス産業が進むべき方向性

日本企業は、半導体材料、PCB、高密度実装、電子部品、製造装置など、先端電子パッケージングを支える数多くの中核技術で世界トップクラスの競争力を有しています。一方で、これまでは各工程の技術革新が中心であり、システム全体を俯瞰して最適化する視点は必ずしも十分ではありませんでした。

APEX 2026で最も強く感じたのは、競争の軸が「個別部品の性能」から「システム統合力」へ急速に移行しているということです。AIデータセンター、次世代自動車、航空宇宙・防衛といった成長市場では、チップ、パッケージ、PCB、実装、熱設計、信頼性評価までを一体として設計・最適化することが競争力そのものになりつつあります。これは、日本企業が従来の縦割り型の開発体制から脱却し、サプライチェーン全体を横断した連携へと進化する必要があることを意味しています。

また、技術革新のスピードが加速する中で、国際標準の重要性はこれまで以上に高まっています。新しい技術を市場へ迅速に普及させるためには、企業単独で競争するだけではなく、業界全体で共通の設計ルールや評価方法を整備し、グローバルなエコシステムを形成することが不可欠です。GEAが推進する先端パッケージング分野のロードマップや標準化活動は、その基盤づくりを担う重要な取り組みと言えるでしょう。

日本の製造業にとって重要なのは、「高品質なものづくり」という従来の強みに加え、システムインテグレーション、国際標準化、そしてグローバル・サプライチェーンとの連携力を競争力として取り込むことです。先端電子パッケージングは単なる新しい実装技術ではなく、日本のエレクトロニクス産業が次の成長を実現するための戦略領域であり、その変化をいかに早く自社の事業戦略へ取り込めるかが、今後の国際競争力を左右すると考えられます。