テッポウエビ類の一種「ムラサキエビモドキ」が、新種として記録されて以来、約45年ぶりに再発見したと、京都大学が9月7日に発表。和歌山県南部の潮間帯で見つかったこの生物は、海底に棲む環形動物「ユムシ」類の掘った巣穴や体表を住みかとし、その粘液を餌として利用することが示唆されている。今回、その生態の一端が明らかになった。
同成果は、京大大学院 理学研究科の花岡朋哉大学院生、京大 フィールド科学教育研究センターの後藤龍太郎助教、同・下村通誉教授、京大大学院 理学研究科の杉山高大大学院生(研究当時)、東北大学大学院 生命科学研究科付属 浅虫海洋生物学教育研究センターの平林勲技術職員、和歌山県・串本海中公園の野村恵一元館長、高知大学 教育学部/大学院 総合人間自然科学研究科の伊谷行教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本動物学会が刊行する、動物学を広範に扱う英文学術誌「Zoological Science」に掲載された。
絶滅が危惧されるユムシ類の共生者・ムラサキエビモドキ
ユムシ類は、転石帯や干潟に巣穴を掘って暮らす環形動物の一群であり、ゴカイ類、ミミズ類、ヒル類などの仲間で、海底の堆積物中の有機物を食べて生活している。その巣穴や体の表面には、甲殻類や二枚貝類など、多くの生物が共生していることから、「宿屋虫」とも呼ばれる。しかし、ユムシ類の多くは個体数が減少しており、絶滅危惧種に指定されている種も少なくない。ユムシ類の減少に伴い、共生する生物の減少も危惧されることから、保全策の策定が急務とされている。
ユムシ類の共生者の中でも「ムラサキエビモドキ」(Athanopsis dentipes)は、比較的調査の容易な潮間帯で見られる種だ(潮間帯とは、潮の干満で海水に浸かったり大気に晒されたりして変化する環境のこと)。しかし、長崎大学の三矢泰彦博士らが長崎県や熊本県の沿岸で新種として1980年に記載して以来、再発見の報告がなかった。そのため、どのユムシ類の体表や巣穴に共生するのかなど、その生態の詳細は不明とされていた。その結果、ムラサキエビモドキに対し、有効な保全策を検討することも困難な状況となっていた。
今回の研究成果
そうした中、研究チームが2021年から2025年にかけて和歌山県内で実施した調査により、潮間帯に生息するユムシ類から、白色透明で赤い斑紋の入ったエビが計7個体採集された。得られたエビに関して形態的・遺伝的な特徴を精査したところ、「ムラサキエビモドキ」であることが判明し、新種記載されて以来約45年ぶりの再発見となった。また、これまで不明だった雌の形態も確認され、ハサミ(鉗脚)の形態に雌雄差があることなども明らかにされた。
ムラサキエビモドキは全長が12〜16mm程度と小型で、ムラサキエビモドキ属「Athanopsis」に属するテッポウエビ類の1種だ。鉗脚の腕の部分(長節部)が膨らんだ形状などの形態的な違いにより、近縁ではあるがムラサキエビ属「Athanas」とは別の属に分類される。
ムラサキエビモドキ属のテッポウエビ類は、9種中8種でユムシ類と共生しており、テッポウエビ類の中でもユムシ共生性が進化した特異的な分類群であると考えられている。ムラサキエビモドキについてはどのユムシ類に共生しているのかが未確認だったが、今回の再発見によって詳細な検討が行われて種が特定された。サビネミドリユムシ属「Anelassorhynchus spp.9,10,12(sensu Goto 2020)」の3種と、タテジマユムシ近似種「Listriolobus cf. sorbillans」の計2属4種であることが突き止められた。
ムラサキエビモドキを初記載した論文では、「サビネミドリユムシ」(Anelassorhynchus mucosus)に共生していることが示唆されていたものの、その詳細は不明とされていた。今回の再発見でそれが正しかったことが裏付けられると同時に、タテジマユムシ属のユムシ類にも共生することが明らかにされた。
ムラサキエビモドキの近縁種であり、オーストラリアに生息する「Athanopsis australis」は、すでにビクトリア州の絶滅危惧種に指定されており、保全策が検討されている。今回の再発見で基礎的な生態が解明されたことで、ムラサキエビモドキに関しても保全策の検討も進んでいくことが期待される。研究チームは今後、基礎研究と保全の両面からユムシ類との共生系の実態を解明していく予定としている。


