「応募数が落ちてきた」「内定辞退の理由が『他社決定』『家庭の事情』に集中していて実態がつかめない」--採用担当の方から、こうした相談を受ける機会がこの1年で明らかに増えました。求人媒体を変えても、面接プロセスを磨いても、原因の説明がつかない。「AIに選ばれる企業のつくり方 - LLMO対策の実践ガイド」の過去回はこちら。

話をよく聞くと、応募や辞退の意思決定の前に、求職者が生成AIで企業を調べている状況が見えてきます。応募や辞退の理由が「見えない」のは、そもそも判断が採用担当と接触する前に済まされているからです。

採用フェーズごとに起きているAI回答の影響

求職者が企業選びで生成AIを使う場面は、以下の4段階に分かれます。全体像を下の図にまとめました。

  • AIに選ばれる企業のつくり方 - LLMO対策の実践ガイド 第4回

    採用フェーズ別 AIが与える影響と守りの打ち手

応募フェーズ:応募リストの絞り込み

求人媒体で興味を持った企業について、応募する前に「この会社どうですか」とAIに聞く。返ってきた回答にネガティブな要素が多ければ、応募自体を取りやめる。この段階での離脱は、企業側からは完全に不可視です。

選考フェーズ:段階的な裏取り

書類選考通過、一次面接後、二次面接後、といった各節目で、AIに「【企業名】の労働環境」「【企業名】の離職率」「【企業名】の将来性」といった追加質問を投げる。段階が進むごとに、より具体的な観点で裏取りが行われます。

内定フェーズ:承諾直前の最終確認

内定承諾の期限が近づくタイミングで、AIに「【企業名】で働くのはどうですか」といった質問を投げ、承諾か辞退かを最終判断する。この段階でネガティブな回答が返ってくると、面接での印象より、AIの回答が優先される場合があります。

入社後フェーズ:早期離職の引き金

入社した後、業務や上司との相性で違和感を持つ。そのタイミングでAIに再検索し、「思っていたのと違う」を強化してしまう。この経路での早期離職も、実務では散見されます。

【打ち手の例】自社の「応募→選考→内定→入社」の各フェーズで、求職者が生成AIに問いそうな質問を、フェーズごとに5つずつ書き出す。合計20問を、実際にChatGPTとGeminiに投げて回答を保存する。これが自社の採用LLMO対策の出発点になる。

「サイレント辞退」のメカニズム

採用担当が最も困るのは、「なぜ辞退したのかが分からない」パターンです。表面的な辞退理由(他社決定・家庭の事情)は聞き取れても、その背後で何が意思決定の決め手になったのかが見えない。

自社が過去に実施した現役会社員向けの調査(n=316)では、自社や他社をAIで調べたことがある会社員の一定割合が、AIの回答にネガティブな内容や誤情報が含まれていた経験を報告しています。そしてその経験があった人のうち、およそ3割が「転職を具体的に考えるきっかけになった」もしくは「自社への信頼感が下がった」と回答しています。

すでに在籍している社員でこの水準です。応募や内定承諾を検討している段階の求職者であれば、AIの回答が判断に与える影響は、より大きいと考えるのが自然です。

この構造の厄介な点は、企業側に「AIの回答を見たので辞退します」と告げる求職者がほぼいないことです。求職者本人にとっても、AIの回答は数ある判断材料の一つとして無自覚に組み込まれています。結果として、辞退理由は「他社決定」「家庭の事情」といった説明しやすい形で申告され、真の理由は集計に上がってきません。

【打ち手の例】直近半年の内定辞退ログを引き、辞退理由の申告内容を分類する。「他社決定」「家庭の事情」などの説明可能理由が全体の8割を超えている場合、AI起因の影響が混じっている可能性を検討する。

採用LLMOの「守り」3つのステップ

採用領域でのLLMO対策は、大きく3つのステップに分けて考えると整理しやすくなります。

ステップ1:現状把握 - 何が語られているか

複数の生成AIで自社について質問し、返ってきた回答を保存します。特に「【自社名】で働くのはどうですか」「【自社名】の離職率は」「【自社名】の労働環境は」といった、採用の意思決定に直結する質問を優先します。返ってきた回答の中に、事実と異なる情報、すでに改善済みの過去の情報、他社と混同されている情報がないかを確認します。

ステップ2:誤情報の是正 - 「消す」ではなく「上書きする」

外部の口コミサイトや掲示板に残る古い情報・誤情報について、削除依頼だけに頼らず、企業として公式に事実を発信する。「退職者の古いレビューに書かれている労働環境は現在は改善済み」であれば、その改善の経緯と現状を、公式サイトや採用ページで具体的に記載します。AIは新しい情報を参照しやすい傾向があるため、継続的な発信がAIの回答内容に反映されていきます。

ステップ3:公式見解の発信基盤を作る

採用領域では、公式サイトの採用ページに加えて、社員インタビュー、代表者や現場責任者による寄稿、外部メディアでの登壇記録などが、AIが参照する「公式情報」として機能します。ここで発信されている情報が多いほど、AIの回答は公式情報を反映しやすくなります。

【打ち手の例】自社の退職者口コミサイトに目を通し、最も古いネガティブ口コミを1件選ぶ。その口コミに書かれている状況が、現在の労働環境と異なる場合、「経緯と現状」を1000字程度で書き起こす。これが公式回答・公式発信の原稿の起点になる。

採用担当・広報・現場のトライアングルで動く

採用LLMOの実務上の障害は、多くの場合「誰が主管するか」が決まっていないことにあります。採用担当は求職者との接点を持っていますが、外部発信の権限はない。広報は発信権限を持っていますが、採用の意思決定プロセスの中身は見えていない。現場責任者は情報を持っていますが、外部発信の時間が取れない。

この状況を打開するには、月1回、20~30分だけ3部門が集まる会議を作るのが着手しやすい方法です。議題は3つだけ。「今月、求職者から受けた質問トップ3」「AIの回答内容に変化があったか」「次月に外部発信すべき1テーマは何か」。この3つを決めて解散する。

これだけで、3部門が横断で動く仕組みが動き始めます。特別な予算も、大きな組織変更も要りません。すでにある会議体に組み込むのも選択肢です。実務経験としては、この横断会議を回している企業ほど、AI起因の辞退が減少しやすい傾向を感じています。

【打ち手の例】次回の採用会議に、広報担当者を20分だけ招く。求職者からよく受けている質問のうち、外部発信すべき1問を選び、広報が翌月にリリースまたは寄稿で発信する。この1サイクルを3か月続けると、AI回答への反映が確認できるようになる。

30日で動く、採用LLMO着手プラン

採用領域でのLLMO対策を、明日から30日で動かすためのプランを最後に示します。

  • 1週目:自社の主要求人職種について、生成AI3種類で採用関連の質問を投げ、回答を全文保存する。

  • 2週目:回答内容の中で、事実と異なる点・古い情報を抽出し、社内で確認する。

  • 3週目:誤情報のうち、最も応募・承諾判断に影響しうる1点を選び、公式回答・公式発信の原稿を作成する。

  • 4週目:採用・広報・現場の3部門で20分の会議を開き、翌月の発信計画を1つ決める。

この30日で「何が語られているか」「何を正すべきか」「誰と一緒に動くか」の3点が定まります。ここから継続運用に入れば、半年程度で採用KPI(応募数、承諾率、離職率)への反映が見え始めるケースが実務上は多くなります。

求職者にAIで足切りされている、という現象は、企業側から見えにくい分だけ対処が遅れがちです。ただ、着手のハードルは実は高くありません。まずは自社が「AIにどう語られているか」を1回観測することから始めてみてください。次回は「LLMO対策の効果はどう測る?」というテーマで、KPI設計と定点観測の実務を扱います。