フィンランドの通信機器大手、ノキアの日本法人であるノキアソリューションズ&ネットワークスは2026年8月26日、年次のイベント「Amplify Japan 2026」を開催。AIの爆発的な普及と技術進化がもたらす「AIスーパーサイクル」に通信業界が対応していくため、ノキアはどのような取り組みに力を入れようとしているのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
AI時代にはネットワークを根本から変える必要がある
AIの急速な進化がさまざまな業界に影響を与えている昨今ですが、その影響はもちろん通信業界にも及んでいます。Amplify Japan 2026の基調講演では、AIが通信業界全体にもたらしている影響と、AI時代のネットワークのあり方について、ノキアがどのようなアプローチを進めているのか説明がなされていました。
ノキア モバイルインフラストラクチャ事業 アジア太平洋・日本統括責任者であるエンリケ・ヴァーレ氏によると、AIの年間インタラクションは1.3TB(テラバイト)に及び、そのトラフィックは77EB(エクサバイト)に及ぶとのこと。その半分以上がモバイルで使用されており、1日のトークン需要は数兆単位に上るといいます。
しかし、これはあくまで人間が生み出すトラフィックであり、今後AIエージェントやフィジカルAIなどが台頭してくれば、AIで機械同士が自律的にトラフィックを生み出すため、その伸びも指数関数的となるようです。
そして、このことはこれまで人間の動画視聴による、ダウンロードが中心の比較的予想がしやすいトラフィックから、AIによるダウンロードとアップロードの比率が歪な、従来とは大きく異なる予測が難しいトラフィックへと、質が大きく変化することを示しています。
とりわけ、今後はデータセンターにおけるAIの需要も学習から推論に変化し、トークン需要が急増すると予想されていますが、そうした状況下で通信事業者が成長する機会としてヴァーレ氏が挙げているのが「分散推論」です。
これはAIの計算リソースを最適な場所に配置することで、とりわけ低遅延が求められるフィジカルAIでは、ネットワーク上でより端末に近いエッジでの処理が求められることから、エッジに近い部分に強みを持つ通信事業者の成長機会につながると見ているようです。
ただ、AIに最適化されたネットワークにするには、ネットワーク自体のアーキテクチャを、根本からAIネイティブなものにしていく必要があります。そのためにはネットワークのアップデートを、従来通りの5~10年周期で実施するのではなく、1年、あるいは半年といった単位で実施する必要があり、しかもそれはモバイル、固定などネットワークインフラすべての領域で変えていく必要があるとヴァーレ氏は話しています。
さらにヴァーレ氏はAI時代、ネットワーク全体を自律的に最適化することが必要とも説明。ネットワークの個別の領域でAIを用いるのではなく、ネットワーク全体の状況を把握し、一体で最適化を進める必要があるとのこと。それによって通信障害などの初期対応を改善し、効率的かつ収益性の高いネットワーク体験と、高いカスタマー体験を提供できるとしています。
AI時代に重要な役割を果たす「AI-RAN」
ノキア RAN CTOチーム フェロー兼シニアアドバイザーのハリー・ホルマ氏は、そのAI時代に必要なネットワークアーキテクチャ、そしてモバイル通信の次の世代となる「6G」に向けた進化について解説しています。
先にも触れた通り、AIは通信トラフィックの質やパターンを大きく変えているだけでなく、推論が中心となり、ロボットやドローンなどを制御するようになる今後は、低遅延の重要性が大きく高まることになります。
そうしたトラフィックの変化に対応する上では、AIと無線アクセスネットワークを統合した無線アクセスネットワーク(RAN)の「AI-RAN」が重要な役割を果たすとホルマ氏は説明しています。
AI-RANは同社が実施したフィールドテストでも、AIで電波の伝搬呂の特性や変化を推測して調整する「チャネル推定」や、複数のデバイスに対して同時にデータを送受信する「マルチユーザーMIMO」、複数の電波を束ねて高速化する「キャリアアグリゲーション」の改善などにより、周波数利用効率を大幅に上げられるとのデータを取ることができたといいます。
さらにホルマ氏は、AI-RANがソフトウェアによる仮想化技術によって構築されることにより、基地局でAIアプリケーションを動作させられる「dApps」に対応することも説明。dAppsはアーキテクチャをオープン化し、ノキアだけでなく通信事業者などが独自開発したアプリケーションを動作させられる、オープン性が大きな特徴となるようです。
そのdAppsの具体的な事例として、ホルマ氏はセンシングを挙げています。6Gではモバイル通信の電波をレーダーとして活用し、周辺の物体などを検知することへの活用も注目されていますが、ノキアでは5Gのネットワークでセンシング信号を送り、それを受信して基地局のGPUで分析することにより、ドローンのような飛行物を検知できる仕組みを披露していました。
これまでノキアが開催してきたAmplify Japanでは、通信事業者が5Gで苦しんでいる収益化手段を広げることに重きを置いていた印象が強かったのですが、今回のAmplify JapanではネットワークのAI対応が大きな商機になると見て、AI時代に対応したネットワークアーキテクチャの提案に全力を注いでいる様子です。
それだけ今後、AIがネットワークにもたらす変化は大きいといえるのですが、一方で今なおマネタイズに苦しむ通信事業者が、AIネイティブのネットワークに積極的な投資をするのが難しいのも事実です。通信事業者に利をもたらす取り組みが、引き続きノキアをはじめとした通信機器ベンダーに強く求められていることは間違いないでしょう。






