理化学研究所(理研)、京都大学(京大)、大阪大学(阪大)、九州大学(九大)の4者は5月1日、炭素12および酸素16の原子核中に、陽子1個と中性子1個のペアが塊となった「重陽子クラスター」が、従来考えられていた以上に高い確率で存在することを発見したと共同で発表した。
同成果は、理研 仁科加速器科学研究センター 核反応研究部の上坂友洋部長(理研 開拓研究所 上坂スピン・アイソスピン研究室 主任研究員兼任)、同・久保田悠樹研究員(理研 開拓研究所 上坂スピン・アイソスピン研究室 研究員兼任)、京大大学院 理学研究科の銭廣十三准教授、同・辻崚太郎大学院生(研究当時)、阪大 核物理研究センターの田中純貴助教、同・吉田数貴助教、韓国基礎科学研究院 重イオン加速器研究所の李淸秀研究委員、九大大学院 理学研究院の緒方一介教授、同・茶園亮樹特任助教、同・小川翔也特任助教、埼玉大学大学院 理工学研究科の松村理久大学院生、宮崎大学 工学教育研究部の前田幸重准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する理論物理と実験物理を扱う英文のオープンアクセスジャーナル「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載された。
“量子のだるま落とし”で得られた初成果!
「非一様性」とは場所によって状態や構造が異なることを指すが、それは原子核レベルの極微の世界にも存在する。ウランのような高原子番号の放射性物質から、放射性崩壊でα粒子(ヘリウム4原子核)が放出されることがあるが、同粒子は「非一様性」の1つの現れと考えられている。このように、原子核内で局所的に形成された粒子は「クラスター」と呼ばれる。
原子核は、水素(1H)を除き、陽子と中性子が液体のように一様かつ均質に混ざり合った状態にあると概ね考えられてきた。一方で、天然炭素の約99%を占める安定同位体「12C」原子核の励起状態に現れる「ホイル状態」は、ほぼ3つのα粒子で構成されるといった非一様性も知られていた。
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原子核における非一様性発現の概念図。これまで陽子(赤球)と中性子(青球)が一様で均質に存在すると考えられてきた原子核だが、実際には、重陽子(赤球・青球各1個)やα粒子(赤球・青球各2個)、三重陽子(赤球1個・青球2個)、ヘリウム3クラスター(赤球2個・青球1個)などを含む非一様性が発現していることが明らかになってきた。(出所:理研Webサイト)
研究チームでは、原子核内部の非一様性の発現メカニズムを「ノックアウト(KO)反応」を用いて調査する「おのころプロジェクト」を2021年より進めている。KO反応とは、高エネルギー粒子(今回は陽子)を原子核に勢いよく衝突させて特定のクラスターを叩き出してその性質を調べるというもので、その挙動から“だるま落とし”に例えられている。
KO反応は、理研のRIビームファクトリー(RIBF)や阪大 核物理研究センターのサイクロトロン施設(RCNP)が得意とする核子あたり200~400MeV(メガ電子ボルト)のエネルギー領域で極めて有効だ。これまで、スズ同位体におけるαクラスターの発見などに活用され、クラスター研究の強力な武器となっている。同プロジェクトの一環として、今回はRCNPの陽子ビームを用い、12Cおよび天然酸素の大部分を占める安定同位体「16O」の両原子核に対する重陽子KO反応実験を実施したという。
実験では、AVFサイクロトロンとリングサイクロトロンを用いて陽子ビームを光速の約60%(226MeV)まで加速し、12C標的及び16Oを含むポリエステル膜標的に照射。KO反応で生じた陽子を分光器「グランドライデン・スペクトロメータ」で、重陽子を「大口径スペクトロメータ」でそれぞれ高精度に同時計測することで、高いエネルギー分解能が実現された。
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KO反応の分析に用いられた分析装置群。散乱される陽子の分析用にはグランドライデン・スペクトロメータ(左)を、重陽子の分析用には大口径スペクトロメータ(右)を使用し、同時計測が行われた。(出所:理研Webサイト)
取得されたデータからは、重陽子クラスターの存在を示す顕著なピークが複数確認された。両原子核で最も強いピークに着目してKO反応に対する最先端の理論計算と比較した結果、12Cには約1.6個、16Oには約1.9個の重陽子クラスターが少なくとも存在することが突き止められた。
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12Cおよび16O原子核に対する重陽子KOスペクトル。横軸は重陽子を取り除くことにより生成された残留核ホウ素10および窒素14原子核の励起エネルギーであり、縦軸は計測されたイベント数。今回主に解析されたピーク(赤枠)から、12Cで約1.6個、16Oで約1.9個の重陽子クラスターの存在が導き出された。(出所:理研Webサイト)
両原子核の最外軌道に含まれ得る重陽子クラスターの最大数は12Cで4個、16Oで6個だ。今回の結果は、12Cでは40%、16Oでは32%の陽子・中性子対が重陽子クラスター化していることを意味する。これほど高確率な存在は従来の予想を覆すものであり、原子核の非一様性が多様かつ高頻度で発現している事実が明らかにされた。
今回の成果は、原子核の存在形態に新たな視点を与えるだけでなく、α崩壊や核分裂といった現象の解明や、超新星爆発時に生じる低密度原子核物質の物性理解にも寄与することが期待されるという。
おのころプロジェクトでは、不安定核のKO反応研究に特化した新検出器システム「TOGAXSI」を開発し、RIBFのSAMURAI磁気スペクトロメータに同システムを設置。2025年6月には、中性子過剰カルシウム52(陽子20・中性子32)周辺の原子核に対する最初の実験を実施。その結果、重陽子クラスター、三重陽子クラスター、ヘリウム3クラスター、αクラスターを発見したという。そして今後は研究対象を広げ、安定原子核から不安定原子核にわたる、広い質量領域のデータを取得し、原子核における非一様性発現機構解明を目指すとしている。

