東北大学、京都大学(京大)、大阪大学(阪大)、理化学研究所(理研)、東京理科大学(理科大)、近畿大学(近大)、科学技術振興機構、岡山大学の8者は4月24日、水完全分解光触媒「SrTiO3:Al」の表面上に、導電性二次元金属有機構造体の一種「Co-HHTP」を、複雑な工程を必要としない「ワンステップ自己組織化法」を用いてナノドメインで修飾することに成功し、酸素遮断層なしでも酸素還元逆反応を抑制しつつ、近紫外線域の波長350nmにおいて31.5%という見かけの量子効率で安定した水完全分解を実現する「オールインワンの助触媒」として機能させることに成功したと共同で発表した。
同成果は、東北大大学院 理学研究科の坂本良太教授、京大大学院 工学研究科のJingyan Guan大学院生、同・鈴木肇助教、同・冨田修助教、同・阿部竜教授、阪大大学院 基礎工学研究科の神谷和秀准教授、同・原田隆史技術専門職員、阪大大学院 工学研究科の佐伯昭紀教授、東北大 多元物質科学研究所の黒河博文講師、同・海原大輔技術職員、同・米倉功治教授(理研 グループディレクター兼任)、理科大 研究推進機構 総合研究院の福居直哉研究員(研究当時)、同・前田啓明講師(研究当時)、同・山口友一講師、同・工藤昭彦教授、近大 理工学部の杉本邦久教授、岡山大 理学部化学科の山方啓教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の化学を扱う学術誌「Nature Chemistry」に掲載された。
水素エネルギーの利活用拡大に光
水素は燃焼しても水しか生成しないクリーンエネルギーとされるが、その製造過程において二酸化炭素(CO2)排出が大きな課題となっている。現在主流の天然ガス(メタン)を用いた水蒸気改質法でCO2が発生するため、真の脱炭素化には至っていないのが実情だ。 そのため現在では、製造工程のクリーン度による区分が行われている。化石燃料由来でCO2を大量排出する「グレー水素」、排出CO2を回収・貯留する「ブルー水素」、そして再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造される理想的な「グリーン水素」の3種だ。
グリーン水素の製造で有望な手法として注目されているのが、光触媒を用いた「水完全分解」である。光触媒は、光照射によって自身は変化せずに反応を促進する物質を指し、水完全分解は水を水素と酸素に分離する現象を指す。光触媒にバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、励起電子と正孔が生じる。これらがそれぞれ水の還元・酸化反応を担うことで分解が進行する仕組みだ。光触媒は反応の熱力学的駆動力を与えるが、表面の反応活性は限定的である。そのため、効率向上には、助触媒による表面修飾が不可欠とされてきた。
従来のシステムでは、水素発生と酸素発生を促進する個別の助触媒を精密に配置し、さらに「酸素還元逆反応」を防ぐ酸素遮断層を水素発生助触媒上に設けるといった複雑な工程を必要としていた。このプロセスは大規模生産の障壁となり、酸素還元逆反応の抑制や耐久性の確保も困難にしていた。
その解決策の1つが、単一成分で水素・酸素両方の発生を触媒氏、かつ逆反応を促進しない「オールインワン助触媒」の確立だ。しかし、従来の助触媒は実質的には金属や金属酸化物に限定されており、理想的なオールインワン性能の実現は極めて困難だった。そこで研究チームは今回、導電性を有する二次元金属有機構造体(2D-MOF)の一種であり、コバルトと有機配位子からなる「Co-HHTP」に着目。そのオールインワン助触媒としての性能を詳細に評価したという。
今回の研究では、複雑な多段階工程ではなく、ワンステップ自己組織化法によって、チタン酸ストロンチウムに少量のアルミニウムをドープした光触媒「SrTiO3:Al」の表面を、Co-HHTPのナノドメインで修飾することに成功。修飾された光触媒は、酸素遮断層なしでも逆反応を起こさず、波長350nmで31.5%という高い見かけの量子効率での安定した完全水分解が確認されたとした。なお波長350nmとは、地上まで届く紫外線(UVA)の範疇に含まれるため、太陽光を利用したエネルギー変換において非常に重要な波長域の光である。
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Co-HHTPを修飾した光触媒「SrTiO3:Al」の(a)高分解能透過型電子顕微鏡像(矢印がCo-HHTP)、(b)走査型透過電子顕微鏡像、(c)コバルト、(d)炭素、(e)ストロンチウム、(f)チタンに関するエネルギー分散型X線分光法による元素マッピング、(g)コバルトとストロンチウムの元素マッピングの重ね書き。(出所:理科大Webサイト)
今回の成果は、基礎科学の視点では、オールインワン型助触媒という新規コンセプトを実証した点に価値があるという。また、導電性2D-MOFならではの導電性、分子構造に基づく反応選択性、多孔性といった特徴を最大限に活用することで実現されており、導電性2D-MOFの合理的応用展開を実現した点にも、基礎科学的な飛躍が認められるとした。
また応用面では、貴金属や有害なクロムを使用せず、安価な金属イオンと有機配位子の組み合わせで高性能な系を実現した点が重要とする。簡便な製造プロセスも実用化に向けた利点となる。この新たなパラダイムは、グリーン水素の製造プロセスの実用化を加速させる重要なステップとなるとしている。



