理化学研究所(理研)と東京大学(東大)の両者は5月19日、新開発の鉛ビームを標的に衝突させて原子核を砕く「入射核破砕反応」を利用し、レアメタル領域の放射性同位体を合成する実験を行い、原子番号58のセリウムから同75のレニウムに至る、中性子過剰な17種と陽子過剰な5種の計22種類の新たな放射性同位体を発見したと共同で発表した。

同成果は、理研 仁科加速器科学研究センター RIビーム分離生成装置チームの福田直樹技師、同・道正新一郎チームリーダー、同・鈴木宏技師、同・センター RIビーム基盤開発部の福西暢尚部長、同・センターの櫻井博儀センター長、東大大学院 理学系研究科の北村徳隆助教、同・鈴木大介准教授、同・今井伸明准教授、理研 仁科加速器科学研究センター 加速器基盤研究部の長友傑専任技師、同・森田泰之研究員、同・日暮祥英チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する理論物理と実験物理を扱う英文のオープンアクセスジャーナル「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載された。

すべての元素の合成過程を解明することは、原子核物理の最重要テーマだ。そのためにはまず、存在可能な全原子核を記した「核図表」を完成させることが不可欠とされる。核図表の右側の中性子過剰領域に未発見の同位体が数多く残されており、その中でも現在は、重元素合成の鍵を握るレアメタル領域の同位体合成が研究の最前線となっている。

しかし、ニホニウムの発見などで活躍してきた理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」(RIBF)では、ウランやカルシウムなどのビームを利用できるものの、レアメタル領域の新たな同位体を効率よく合成することは困難だった。そこで研究チームは今回、鉛の安定同位体「208Pb」原子核を、RIBFの超伝導RIビーム分離生成装置「BigRIPS」で大強度ビームとして用いる新戦略を採用し、新たな同位体合成に挑んだという。

  • 超伝導RIビーム分離生成装置「BigRIPS」の概要

    超伝導RIビーム分離生成装置「BigRIPS」の概要。(出所:理研Webサイト)

鉛ビームの208Pbは、陽子82個かつ中性子126個という、二重の「魔法数」を持つ極めて安定な原子核だ。RIBFではより重いウランビームも使えるが、今回あえて鉛を選んだのには理由がある。過去の蓄積データから、レアメタルから鉛に至る領域において未知の同位体を合成するには、鉛を直接砕く入射核破砕反応の方が、より効率よく目的の原子核に到達できると事前評価で予測されていたからだ。そして実験の結果、予測通りにセリウムからレニウムに至る22種の新同位体が発見された。

  • 今回発見された22種類の放射性同位体の一覧。(出所:理研Webサイト)A@発見された22種類の放射性同位体の一覧

    今回発見された22種類の放射性同位体の一覧。(出所:理研Webサイト)A@発見された22種類の放射性同位体の一覧

今回発見された同位体は、1日に約4京回の鉛ビームをベリリウム標的に衝突させても、わずか10~100個程度しか合成できない希少なものである。それらを確実に識別するため、同位体が装置内を飛ぶ速度や、磁場中での曲がりにくさを表す「磁気剛性」の高精度な分析が行われた。さらに、最新鋭のキセノンガス検出器を組み合わせることで、原子番号が高精度に決定された。

これにより、208Pbビームが安定な原子核から遠く離れ、陽子と中性子の数がアンバランスなレアメタル原子核を合成する能力に極めて優れていることが実証された。特に、重いレアメタルである原子番号72のハフニウムでは「152Hf」と「194Hf」、同73のタンタルでは「154Ta」と「196Ta」という、42個も中性子数が異なる陽子過剰と中性子過剰の同位体を、同じ鉛ビームから合成することに成功したことは注目すべき点とする。これまで、陽子過剰と中性子過剰の同位元体は、それぞれ異なるビームで合成されてきたが、核図表の両端を一度に更新できたことは画期的な成果とした。

今回の新発見のうち、中性子過剰の17種は、金やウランといった重元素が誕生する「rプロセス」の合成経路の近傍に位置しており、これらは元素合成経路を決定づける重要な放射性同位体と考えられる。特に、タングステンの同位体の「198W」と「199W」、レニウムの同位体の「200Re」と「201Re」は、中性子数が魔法数126の近傍にあり(201Reに至っては中性子数が126個)、これらが持つ性質が、どれほどの速度でウランへと元素合成が進行するのかを左右するとした。

  • 今回発見された22種の放射性同位体を示した核図表の拡大図

    今回発見された22種の放射性同位体(赤)を示した核図表の拡大図。緑で囲まれた領域はrプロセス合成経路の理論予想範囲。(出所:東大Webサイト)

また、陽子過剰側の研究も、地球にわずかに存在する陽子の方が多い安定同位体の起源(pプロセス)という未解決の謎を解明する手掛かりになるという。これらの新原子核は、いずれも短寿命ながら、元素合成の舞台裏で重要な役割を担い、重い安定同位体を生成する契機となっていると推測されている。

さらに、陽子過剰領域で発見されたセリウム-118、プラセオジム-120、ハフニウム-152、タンタル-153の4種は、最新理論によれば、いずれも原子核として存在できる限界線「ドリップライン」に位置し、陽子が1つ飛び出す「一陽子放出」、あるいは2つが同時に飛び出す「二陽子放出」という、極限原子核特有の崩壊を起こすと予想されている。これらは、そうした陽子過剰なドリップライン上にある同位体の崩壊プロセスや、希少な放射性同位体の安定性を探る研究対象として注目されているとした。

今回の発見により、日本が発見した新同位体の総数は324種類に達し、世界第3位となった。また、直近の10年間に限れば、世界で発見された新同位体242種のうち、7割超の174種が日本国内の研究成果であり、実験はすべてRIBFで行われた。人工合成された新元素はニホニウム以外は欧米やロシアに独占されているが、既知の元素の新同位体に関しては、日本が非常に高い存在感を示している。

  • マイケル・テネソン博士らの「Discovery of Nuclides Project」の集計に今回の発見数を加えた核図表の全体図

    マイケル・テネソン博士らの「Discovery of Nuclides Project」の集計に今回の発見数(赤)を加えた核図表の全体図。日本での発見総数は324核種。直近10年では世界の報告数の71.9%を日本が占めている。表の黒は安定同位体。黄は既知の、青は過去に日本で発見された放射性同位体。灰は理論的に予想されている未発見の放射性同位体を表す。破線の二重線は、原子核が特に安定になる陽子数や中性子数の「魔法数」を示す。(出所:理研Webサイト)

研究チームは今後、今回発見された原子核の性質(寿命、質量、崩壊様式)を詳細に調べる計画だ。これらの性質を解明することは、すべての原子核を1つのルールで読み解く「原子核構造の統一モデル」という物質の究極の設計図を完成させ、「宇宙の錬金術」の謎を解明することにつながるとしている。