中央大学、富士宮市教育委員会、金沢大学(金大)の3者は5月25日、静岡県富士宮市の「大鹿窪(おおしかくぼ)遺跡」から出土した縄文(縄文)時代草創期の土器から、日本列島最古となる約1万2900~1万2600年前の「シソ属果実の圧痕」を発見したと共同で発表した。

  • 今回圧痕が発見された土器

    日本列島最古となる「シソ属果実」の圧痕を含む、今回圧痕が発見された土器。(出所:金大プレスリリースPDF)

同成果は、中央大 人文科学研究所の西本志保子客員研究員・文学部兼任講師、同・佐藤駿輝大学院生、金大 古代文明・文化資源学研究所の佐々木由香准教授、東京国立博物館 学芸研究部 保存科学課 予測保存研究室の宮田将寛主任専門職、中央大 文学部の小林謙一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、東京都渋谷区の青山学院大学 青山キャンパスにて5月23日・24日に開催された「日本考古学協会第92回(2026年度)総会」において、5月24日においてポスター発表された。

旧石器時代からの移行期に有用植物が利用された可能性

縄文時代は、旧石器時代と弥生時代の間に位置し、約1万6000~1万5000年前から始まり、約2500~2300年前まで続いたとされる時代だ。さらに、草創期・早期・前期・中期・後期・晩期の6つの時期に区分され、その最も早い時期である草創期は約1万6000~1万5000年前から約1万2000~1万1000年までとなる。

これまで、山梨県の中山誠二氏や熊本大学の小畑弘己名誉教授らによって、縄文時代の植物利用について、土器器面に残る種実などの圧痕研究が進められてきた。その結果、縄文中期における大型化したダイズ属やアズキ亜属の種子が認められ、縄文時代に栽培が行われていた可能性が明らかにされた。しかし、その起源がどこまで遡るのかは未解明のままだった。

静岡県富士宮市に所在する大鹿窪遺跡は、縄文時代草創期から早期にかけての集落遺跡で、日本最古のムラの1つとして知られている国指定史跡である。特に、草創期後葉の押圧縄文期(約1万2900~1万2600年前)における竪穴住居跡は、現時点で草創期としては最多となる14基以上が検出されており、土器や石器などの遺物も多数出土している。同遺跡から出土した土器の表面からはすでにダイズ属種子の痕跡が発見されていたため、研究チームは今回、すべての土器の圧痕調査を行ったという。

今回の調査対象とされた土器は総点数414点、総重量4979gに及ぶ。それらの土器の外面、内面、断面を観察して圧痕の有無を調べ、動植物の圧痕の可能性のある土器については、簡易的な実体顕微鏡下で水と筆を使って泥を取り除いた上でレプリカが作製された。そのレプリカ作製方法は、国内の過去の研究を参考にしたもので、パラロイドB72の9%アセトン溶液を離型剤として圧痕内とその周辺に塗布した後、シリコン樹脂を圧痕に充填する手法が採られた。レプリカ作製後は、アセトンを用いて離型剤の除去が行われている。

検出された圧痕の同定は、明治大学 黒曜石研究センター所蔵の実体顕微鏡を用いて行われ、同定に至った3点のレプリカ(資料番号「FOS-R001」~「FOS-R003」)のうち、2点の押圧縄文土器(暦年較正年代(calBP)1万2900~1万2600年前)から、ダイズ属種子2点とシソ属果実1点が検出された。

  • 大鹿窪遺跡から検出された種実圧の一覧表

    大鹿窪遺跡から検出された種実圧の一覧表。カッコ内の数値は残存値を示す。(出所:金大プレスリリースPDF)

今回の成果のうち、特に「シソ属果実の圧痕」については、これまでの最古だった縄文早期の千葉県取掛西(とりかけにし)貝塚の土器圧痕(約1万年前)に比べ、約2000~3000年遡る発見となった。この発見により、すでに縄文草創期においてシソ属が利用されていた可能性が示されたことになる。

これは、土器圧痕の成果としてみても、草創期の宮城県王子山遺跡のダイズ属種子の圧痕の発見に続く事例にあたる大きな成果だという。縄文時代草創期という、定住生活が始まるか否かという、旧石器から縄文的な生活への移行期において、有用植物が利用されていた可能性を指摘できる貴重な証拠となったからである。

さらに、肉眼で確認できる表出圧痕が検出された土器片について、東京国立博物館において、微小部撮影用X線CT撮影装置を用いて土器内部の撮影が行われた。その結果、肉眼では観察できない種実様の潜在圧痕が新たに2点検出された。この潜在圧痕については「FOS-X001」および「FOS-X002」の番号が与えられた。

研究チームは今後、縄文草創期におけるさらなる事例の蓄積を進めると共に、利用されていた種実の種類やその利用方法、さらにはなぜ土器の胎土の中にそうした種実遺体が混入されているのかを明らかにしていくとしている。