京都工芸繊維大学(京工繊)は5月25日、鉛ハライドペロブスカイト微小共振器を用いて、これまで極低温下でしか観測されていなかった量子現象である「ボース・アインシュタイン凝縮」(BEC)のうち、光と電子励起が結合した準粒子を用いる「ポラリトン凝縮」を室温で実現し、さらに、それがスピン自由度を持つBECである「スピノール凝縮」でもあることを確認したと発表した。

  • ポラリトンからの発光の様子を撮影した顕微鏡像

    ポラリトンからの発光の様子を撮影した顕微鏡像。スピノール凝縮を示す量子干渉模様が捉えられている。(出所:京工繊Webサイト)

同成果は、京工繊 電気電子工学系の山下兼一教授、同・髙橋駿准教授、同・岡田大地助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する学術誌「Science」系のオンライン学術誌「Science Advances」に掲載された。

物質が光を吸収すると、電子と正孔のペアである「エキシトン(電子励起状態)」という準粒子が生成される。このエキシトンが光子と強く結合すると、新たに「ポラリトン」と呼ばれる準粒子が生成される。この準粒子は、電子の10万分の1以下という極めて軽い質量と強い相互作用を併せ持つため、比較的高温でも「ボース・アインシュタイン凝縮」(BEC)を起こすことが知られている。

そもそもBECとは、通常は極低温環境下において、多数の粒子がまるで1つの巨大な波のように一斉に同じ振る舞いをする量子力学的な現象である。ただし、ポラリトンのBECに関しては、粒子自身が短寿命で、常に光が漏れ出ていく環境で起こるという特殊な性質を持つため、「ポラリトン凝縮」と呼んで区別されることが多い。この凝縮の研究が進み、近年では室温での報告がなされるようになり、次世代の量子光デバイスとして注目を集めている。

さらにポラリトンはスピン自由度を持つため、BECの中でも特殊な「スピノール凝縮」を形成する可能性を有する。通常のBECを作り出す際、強い磁場をかけてスピンの向きを一方向に固定してしまうことが多い。しかし、光学トラップなどを活用し、スピンが上下どちらを向いてもよい状態のまま極低温まで冷却すると、スピノール凝縮に至る。この凝縮に限っては、これまで-250℃以下という極低温環境でしか確認されていなかったが、研究チームは今回、室温でのポラリトン凝縮を試みることにしたという。

今回の研究では、「鉛ハライドペロブスカイト」が微小共振器の材料として利用された。ペロブスカイトは次世代太陽電池にも利用されている結晶構造で、光を強く吸収・発光できる優れた特徴を持つ。その結果、今回の実験では、室温でのポラリトン凝縮が実現された。

ポラリトン凝縮を形成した際、自発的にスピンの向きが揃うという性質が観測された。これは、スピンの自由度を持つスピノール凝縮が実現されたことを意味する。光は右回り・左回りといった回転の性質(偏光)を持つことができるが、今回の実験では、粒子同士の相互作用によって、自発的にスピンがそろう状態が生じることが確認された。

さらに詳細な調査の結果、今回の現象は一気に生じるのではなく、まず通常のポラリトン凝縮が起こり、その後にスピンが揃う状態を経てスピノール凝縮が実現されるという2段階の変化を示すことが判明した。これは、粒子同士の強い相互作用によってはじめて現れる新しい現象だという。

今回の成果により、今後は超高速光スイッチ、スピンベース論理回路、コヒーレントスピン輸送などの新しい光量子デバイスの実現が期待される。また、ペロブスカイト材料の加工性・拡張性を活かした、オンチップ光回路への統合も視野に入るとしている。