NECは先般、同社の社長 兼 CEOを務める森田隆之氏によるメディア向けグループインタビューを開催した。

同氏は、新たに発表した「2030中期経営計画」をはじめ、生成AI戦略やグローバル展開、人材育成、サイバーセキュリティへの取り組みなどについて説明。森田氏は、AI時代を見据えた同社の成長戦略を語った。

会見を通じて繰り返し語られたのは「日本市場だけでは持続的な成長は難しい」という強い危機感だった。

  • 記者からの質問に回答する森田氏

    記者からの質問に回答する森田氏

「海外利益比率50%」は目標ではなく結果

NECは先日、2026年度から2030年度までを対象とした新たな5カ年計画「2030中期経営計画」を発表した。その中で掲げた指標の一つが「海外利益比率50%」である。

一見すると高い目標にも映るが、森田氏は「これは目標ではなく結果だ」と説明する。

「テクノロジー企業として競争力を維持するためには、世界市場で戦うことが絶対に必要です。そして、NECがサステナブルな企業を目指すのであれば、日本国籍の企業として海外利益比率50%以上を確保しなくてはならないと考えています」(森田氏)

森田氏は、日本市場だけを対象とした事業運営では今後の成長に限界があるとの認識を示した。さらに「日本でビジネスしているからそれでいい、という考え方では駄目だ」と述べ、グローバル市場を前提とした経営の重要性を強調した。

一方で、海外展開そのものが目的ではないとも語る。

「日本と共に成長したい。そして日本に革新と安全・安心を届けたい」と話し、日本で培った技術や知見を世界へ展開し、その成果を再び国内へ還元していく考えを示した。

  • 「海外利益比率50%」の背景を語る森田氏

    「海外利益比率50%」の背景を語る森田氏

NECが進める「マルチモデル戦略」

AIについてを聞く質問に対して森田氏は「NECにとって極めて大きな成長機会だ」との考えを示した。

同社は現在、複数の生成AIモデルを用途に応じて使い分ける「マルチモデル戦略」を推進している。その中でも、先日提携を発表したAnthropicとのグローバルパートナーシップは重要な位置付けとなる。

森田氏は「最先端技術への継続的なアクセスと協力関係を構築している」と説明した上で、「サービスによっては、最先端モデルではなく軽量モデルの方が効率的で効果的なケースもある」と述べ、特定のAIモデルへの依存は避け、用途ごとに最適なAIを選択する考えを示した。

また森田氏は、生成AIの進化によってIT業界の仕事そのものに変化が訪れていることにも触れた。森田氏は、一部の開発業務はAIによる自動化が進むとの見方を示しながらも、人材の重要性が失われることはないと語る。

「必要な人材はむしろ高度化していく」というのが森田氏の考えだ。

今後求められるのは、AIを活用しながらシステムを構築できる技術者や、顧客課題を整理し、解決策へ落とし込めるコンサルティング人材である。

特に既存システムの解析や仕様書作成、テスト工程などではAI活用が進む一方、人間にはより上流工程や高付加価値領域が求められるようになるという。

「今後はAIを駆使して圧倒的な構築力を持つ人材が必要になっていくと考えています」(森田氏)

「AIが脆弱性を見つける時代」が始まった

サイバーセキュリティ分野についても、森田氏はAIの進化が大きな転換点を迎えているとの認識を示した。

「AI自身が脆弱性を見つけられる時代になっている」と語り、最新のフロンティアモデルが持つ能力に言及した。

一方で、その能力は攻撃側にも利用される可能性があることも説明。「誰か一人だけが守られればいいという世界ではない」と述べ、AI企業、ITベンダー、政府機関などが連携した国際的な対策の必要性を訴えた。

  • サイバーセキュリティ分野について説明する森田氏

    サイバーセキュリティ分野について説明する森田氏

また重要インフラや社会基盤を守るためには、AIによる検知だけでなく発見された課題を迅速に改善・実装できる体制整備も不可欠だと指摘した。

データ主権だけでなく「技術主権」も重視

近年、各国でデータ主権への関心が高まっていることに関して森田氏は「データ主権だけで考えてはいけない」と指摘する。重要なのはデータだけではなく、技術主権、システム主権、運用主権まで含めた総合的な視点だという。

例えば、データセンターを自社保有するかどうかだけでは本質的な解決にはならない。

「どのような技術を持ち、どのようにコントロールするかが重要だ」と説明した。

そのためNECは、自社設備と外部サービスを組み合わせながら、用途ごとに最適な構成を選択していく考えだ。

AI・サイバー・海底ケーブルに投資継続

森田氏は、AI・サイバーセキュリティ・データセンター・海底ケーブルといった成長領域への投資を継続する方針を示した。

また、NECのDX事業ブランド「BluStellar」事業については、現在約1割とみられるサービス型収益の比率を大幅に引き上げたい考えも明らかにした。

森田氏は「2030年になっても人月型ビジネスは残る。ただし、今とは大きく構造が変わっているはずだ」と語り、継続課金型や成果連動型ビジネスへの転換を進める考えだ。

NECは、単なる国内ITベンダーではなく、グローバルテクノロジー企業への変革を本格化させようとしている。

AIによって産業構造そのものが変化する中、森田氏は「世界市場で戦うこと」を前提に、人材、技術、事業構造の変革を進める考えを示した。2030年に向け、NECがこうした変革をどこまで実現できるのか注目される。