このサイエンスニュースのまとめ

  • 指先で触れるだけで光る高感度な「応力発光」を、東北大学らの研究グループが実現
  • レアアースや電源いらずで、生体を透過しやすい近赤外光を取り出せるように
  • 医療やインフラ診断技術への応用に期待

指先で触るような微弱な力でも鮮明に発光し、これまでの材料と比べてもきわめて高感度な応力発光を世界で初めて実現したと、東北大学などでつくる研究グループが5月25日に発表。レアアースや電源が不要で、生体を透過しやすい近赤外光を出す仕組みであることから、医療やインフラ診断技術への応用が期待されるとしている。

  • 研究グループが今回開発した、酸化亜鉛材料の発光スペクトルと生体組織の透過像。(左)開発した酸化亜鉛は、750nm(ナノメートル)を中心波長とする近赤外域で発光する。この波長領域は、生体内を比較的透過しやすいことから、「生体の窓 I」と呼称されている。(右)開発した酸化亜鉛を荷重によって発光させることで、生体組織の違いをコントラストとして捉える透過イメージングが可能であることを示した画像 (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    研究グループが今回開発した、酸化亜鉛材料の発光スペクトルと生体組織の透過像。(左)開発した酸化亜鉛は、750nm(ナノメートル)を中心波長とする近赤外域で発光する。この波長領域は、生体内を比較的透過しやすいことから、「生体の窓 I」と呼称されている。(右)開発した酸化亜鉛を荷重によって発光させることで、生体組織の違いをコントラストとして捉える透過イメージングが可能であることを示した画像 (出所:東北大ニュースリリースPDF)

東北大学大学院工学研究科の徐超男教授と内山智貴助教、大学院生の音成航希氏(当時)、大森令央奈氏、楊光発氏のほか、同研究科の特任教授で佐賀大学の教授でもある鄭旭光氏、筑波大学の西堀英治教授、東北大学グローバルラーニングセンターの陳迎特任教授らによる共同研究成果。詳細は科学誌「Advanced Science」に2026年5月8日(現地時間)付で掲載されている。

今回の研究成果の注目ポイント

  • 酸化亜鉛の欠陥構造を制御することで、レアアースも電源もいらない高強度・高感度な応力発光を実現
  • 指先で触れる程度の微弱な力でも鮮明に発光し、従来材料と比べてきわめて高い感度を示した
  • 放出される光は、生体を透過しやすい近赤外光
  • 超音波を利用して体内の情報を読み取る医療センサや、橋梁などのひずみを監視するインフラ診断技術への応用に期待
  • 未来社会を支えるマルチスケール応用イメージ。新材料は、細胞レベルの光源技術から、ヘルスケア、インフラ診断まで、幅広いスケールでの応用が期待されるとしている。具体的には、医療・バイオ分野では、超音波を照射するだけで体内で発光する光源や無電源センサとして、治療やヘルスケアへの応用可能性があり、インフラ分野においては、橋梁や風力発電設備のブレードに塗布することで、目に見えないひずみを光として可視化し、ドローンなどを用いた遠隔監視への応用につながると考えている (出所:東北大ニュースリリースPDF)

    未来社会を支えるマルチスケール応用イメージ。新材料は、細胞レベルの光源技術から、ヘルスケア、インフラ診断まで、幅広いスケールでの応用が期待されるとしている。具体的には、医療・バイオ分野では、超音波を照射するだけで体内で発光する光源や無電源センサとして、治療やヘルスケアへの応用可能性があり、インフラ分野においては、橋梁や風力発電設備のブレードに塗布することで、目に見えないひずみを光として可視化し、ドローンなどを用いた遠隔監視への応用につながると考えている (出所:東北大ニュースリリースPDF)

研究背景

応力やひずみ、振動といった機械的エネルギーを、光に直接変換する応力発光材料は、電源や配線がいらない自立型センサ材料として、インフラ診断や医療など幅広い分野で注目されている。

実用レベルの強い発光を得るためには、これまでは複雑で制御の難しい結晶構造を持つ材料や、レアアースの添加が不可欠と考えられてきた。しかし、レアアースは資源確保や環境負荷の観点から課題が指摘されている。

また、従来の応力発光材料は光らせるためにギガパスカル級の大きな力を必要とすることが多く、日常的な微小振動や、体内を伝わる超音波のような微弱な刺激には反応しにくい、という感度上の課題もあった。

ちなみに“ギガパスカル”(GPa)という単位は、クルマのボディを形づくる鋼板の強度をあらわすものとして見かけることが多く、このことからもいかに大きな力であるかが分かりやすい。

今回、研究グループが着目した酸化亜鉛という材料は、化粧品や日焼け止め、軟膏の成分として広く用いられているもので、白色粉末の姿をしている。

酸化亜鉛は身近で安全性が高く、安価な材料とされる。また、半導体特性や発光特性が高く(ワイドギャップ半導体)、次世代電子材料として世界中で長年研究されてきた素材でもある。

この特性を応力発光材料へ応用する試みも進められてきたが、“潜在能力”を最大限に引き出せる明確な設計指針は確立されておらず、レアアースを用いずに酸化亜鉛で強い応力発光を実現することは難しいと考えられてきた。

そこで今回の研究では、酸化亜鉛の電子状態や微細構造を制御し、「シンプルな材料構成で高感度な応力発光を実現すること」をめざした。

研究概要と成果

研究グループが今回開発した新材料は、酸化亜鉛の電子状態をナノレベルで制御する「欠陥エンジニアリング」を駆使し、レアアースを一切用いずに高感度で発光するというもの。

開発した材料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子表面にクレーター状の特殊な凹凸構造が形成されていることが分かったという。研究グループはこの形状が、外部から加えられた力を効率よく吸収し、材料内部のひずみへと変換することで、高感度な発光に寄与していると考えている。

さらに研究グループは、東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータ「MASAMUNE-弐」を用いて第一原理計算を行い、酸化亜鉛の電子状態を解析。

本来の酸化亜鉛には存在しない、“電荷を一時的に蓄える安定な欠陥構造”が、微量のナトリウムを添加することで酸化亜鉛の結晶に形成されることを明らかにした。さらに、近赤外発光が「亜鉛原子が抜けた欠陥」(亜鉛空孔)に由来することを突き止め、効率的な発光メカニズムも解明したという。

加えて、今回開発した酸化亜鉛は、p型の挙動を示すことを確認したことも明らかにしている。半導体内で電気を運ぶ主役が電子であるものはn型、正孔であるものはp型と呼ばれる。酸化亜鉛は一般にn型半導体として知られ、p型化はきわめて難しいとされてきた。

こうした特殊な粒子構造と電子状態の制御による相乗効果で、従来材料では強い力を必要としていた応力発光が、今回の研究の材料においては数キロパスカルという、指先で触れる程度の力でも明瞭に観測されたとのこと。

今後の展望

今回の新材料は、生体を透過しやすい近赤外光を放つことから、超音波など外部からの微弱な振動によって体内の応力発光体を無電源で発光させ、生体情報の読み取りなどに活用する次世代医療技術への応用が期待され、将来的にはバイオフォトニクスや光源技術への展開も期待されるとのこと。

学術的な側面では、「これまで不可欠と考えられてきたレアアースを用いず、ありふれた元素の組み合わせのみで高機能を引き出せることを示した点に意義がある」とし、「高価な資源に依存しない、持続可能な材料設計の新たな指針を提示するもの」と強調している。

研究グループは、安価で大量生産が可能な特性を活かした早期の社会実装をめざしており、具体的な活用例としては、橋梁や風力発電設備などに塗布するだけで、目に見えない微小な劣化やひずみを光として可視化する技術の実現が期待されると指摘。応力発光材料は電源や配線が要らないことから、老朽化が進むインフラの継続的な遠隔監視を低コストで実現できる可能性がある、としている。

今後は、この新材料の利用を加速できるよう、企業や研究機関にサンプル提供するとともに、量産化する材料メーカー、デバイス・システムメーカー、保守・点検を担う企業、医療・検査機器メーカーなどとの共同開発を積極的に進め、実用化に向けた実証研究を加速していく。