「女性が活躍しやすい職場」と聞くと、どのような会社を思い浮かべますか?女性の管理職比率が高い会社や多様性が認められている会社、出産・育児等のライフイベントを迎えたあとも働き続けられる会社……など、きっといろいろなイメージを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
本連載はそんな「女性が活躍しやすい職場づくり」に積極的に取り組んでいる企業にインタビューをしていく企画。令和6年度東京都女性活躍推進大賞を受賞した企業のみなさんにお話を聞いていきます。働き方や意識改革の独自の取組、社員からの率直な感想を伺いました。

    

東京都女性活躍推進大賞って?
東京都では全ての女性が意欲と能力に応じて、多様な生き方が選択できる社会の実現に向けて、優れた取組を行っている企業や団体等を「東京都女性活躍推進大賞」として毎年表彰しています。

男性育業(*)取得率が8%から100%に!社員の意識変化がポジティブな結果につながった
東京ガス株式会社

(*) = 育児休業

どんな会社?

首都圏を中心に都市ガス、電力、熱などのエネルギーとソリューション・サービスを提供。1885年に渋沢栄一によって創立され、首都圏のエネルギーインフラを担い人々の生活の基盤を支えてきました。現在を「第3の創業」として位置づけ、エネルギーの安定供給と、脱炭素社会の実現の両立を目指し、未来に向けた変革を進めています。
男性活躍が中心の業界において、女性活躍推進、男性育業などの理解醸成に積極的に取り組んでいます。

教えてくれるのはこの方!

伊藤さん

伊藤さん
2015年に東京ガス入社。営業企画の仕事に5年ほど従事し、産休後には人事部へ。現在は「挑戦と多様性推進チーム」の一員として働いている。「人を支える仕事がしたい」という思いでインフラ関係や生活設備機器のメーカーを中心に就職活動を行い、なかでも社員のチャレンジ精神を感じた東京ガスに就職。

男性育業を推進するために立てた3本柱

――貴社は男性育業の推進に力を入れていると伺いました。取組を行うきっかけをお聞かせください。

伊藤さん伊藤さん

当社グループはこれまで、首都圏のエネルギーインフラを担い人々の生活の基盤を支えてきました。現在は、脱炭素とエネルギーの安定供給を両立し、ガス事業中心から複数事業ポートフォリオ経営への”変革”を目指しています。その変革に向けて多様な人材が活躍できる環境づくりを進めており、DE&Iを推進しています。その取組の一つが、男性育業です。
社員の8割以上を男性が占める当社では、「男性社員の働き方を多様化させることが、全ての社員の働きやすさや組織の変革につながる」と考え、男性の育業取得率を100%、取得期間1ヵ月とすることを目指しています。また、男性社員の育業取得は、『仕事と家庭生活の両立支援』、『働き方改革の浸透、BPRの進展』、『多様な人材が活躍できる職場づくり』にもつながると考えています。

東京ガス

笑顔でインタビューに答える伊藤さん

――目標を実現するために、実際にどういった取組をされていますか?

伊藤さん伊藤さん

育業取得者の不安を和らげ、安心して取得してもらうため、「育業推進の3本柱」の施策を実施しています。1つ目は「経済支援」。手取り8割は保障されるものの、育業に入ることでの経済面での不安が社内でも多かったので、1ヵ月以上取得者への給付金や賞与の減額免除を行うことにしました。2つ目が「キャリア支援」。昇格規定を改定して、育児休業の取得が昇格に不利益にならないこと等を周知しました。そして3つ目が「職場支援」。職場に迷惑がかかるから育業を取れないと感じる方も多かったので、男性育業を支える側の貢献を人事評価の対象にすることを明らかにし、支え合いの風土につながるようにしました。

――取組を導入してから、どのような結果や変化がありましたか?

伊藤さん伊藤さん

2020年の時点で育業の取得率は8%でしたが、2024年9月に100%、平均取得日数は約60日に到達しました。これは制度や会社の方針だけでなく、従業員自体が「変わりたい」という思いがあったから達成できたことだと感じています。

東京ガス

男性育業交流カフェの様子

CMや合同研修会を通じて社外にもメッセージを発信

――共働き夫婦や育業パパをテーマとしたCMを発信されているのも印象的です。

伊藤さん伊藤さん

弊社が発信しているCMには「男性も女性も関係なく、自分らしく成長できる社会の機運を醸成したい」という想いも乗せています。CMを通して、一人ひとりの暮らしを応援して、支えていきたい会社であるということが伝わったら、そして、少しでも気持ちが楽になった、支えになったと感じる方がいてくれると嬉しいです。

――中小ガス企業との合同研修会を通じて、業界全体の女性活躍を推進されていると伺いました。実施後の反響はいかがですか?

伊藤さん伊藤さん

ガスエネルギー業界で働く女性は、実はまだまだ多くないんですよね。当社も男性が8割、女性が2割という比率です。そのなかで女性だけを集めた研修会を開いたことによって、「モチベーションが高まった」「長期的にどうなりたいかを考える必要があることを学んだ」という感想もいただきました。実際に参加した企業で女性の採用人数が増えたり、女性管理職の人数も増えたりという結果につながったという声も聞いています。これからも定期的に実施していきたいですね。

東京ガス

中小ガス企業との合同研修会の様子

――そのほかに、女性比率の向上のために取り組んでいることはありますか?

伊藤さん伊藤さん

課題の一つとして、女性が少ないことで女性の健康課題などの相談がしにくいということがあります。その課題を解決するために、当社ではフェムテックセミナーを開いています。本セミナーでは、女性にはどんな健康課題があるのか男性に知ってもらったり、生理痛と同じような痛みを体験してもらったりしています。今後はそれぞれの事情に配慮しながら、みんなが気持ちよく働ける環境づくりに力を入れていきたいと考えています。

女性活躍の土壌づくりは、多様な人材が活躍するための初めの一歩

――伊藤さんが入社してよかったと思ったこと、やりがいを感じた瞬間を教えてください。

伊藤さん伊藤さん

仕事をしているなかで人のためになっていると感じたとき、例えば「ありがとう」と声をかけてもらえたときは、やっぱり嬉しいですね。過去に女性特有の健康課題に関する取組を行ったとき、「社員一人ひとりの役に立っている、会社のためになっている取組だ」という声をいただきました。そういった声があると、やってよかったなと思えます。

東京ガス

――伊藤さんが、東京ガスだからこそ実現できると思っている未来について教えてください。

伊藤さん伊藤さん

男性育業や女性活躍の土壌づくりは、多様な人材が活躍するための初めの一歩。私も2年前に復職をして仕事と育児の両立をしているなかで、今まで見えていなかったことも見えるようになってきました。自分が当事者になってみて、限られた時間のなかで成果を出す難しさ、一方で柔軟に働けることのありがたさを実感しています。こうした経験を活かして、女性はもちろん、全ての従業員がお互いに尊重し合って働ける、そんな働きやすい職場をつくっていきたいと思っています。それが結果的に会社や従業員の成長にもつながり、お客様に選ばれる会社にもつながる気がしています。

――これから社会に出る学生のみなさんにメッセージをお願いします。

伊藤さん伊藤さん

社会に出るときは「自分はこうなっていきたい」「会社をこうしたい」「社会をよくしたい」という期待や不安があるかと思います。その期待や不安が、自分自身の軸になるはず。今持っている思いを忘れず大事にしていくことが、結果的に充実したキャリアや幸せにつながると思います。そのままの自分を受け止めて、あまり悩まずにやりたいことを思いっきりやってください!

東京ガス

取組への想いと未来への展望を語ってくれました

伊藤さんの1日を覗き見!

伊藤さんの1日

これからの「働き方」のキーワード

  • 働き方改革、既存意識変革のための男性育業
  • 女性の健康課題を知るためのフェムテックセミナー
  • 男性も女性も関係なく、自分らしく成長できる社会を目指す

性別を問わない働き方改革と個別支援で女性活躍を推進
伊藤忠商事株式会社

どんな会社?

繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野で幅広くビジネスを行う大手総合商社。入社8年目までに海外に派遣する「若手海外派遣制度」があるなど、グローバルに展開。総合商社のなかでも消費者に近いビジネスを強みとし、2000年代初頭から女性活躍推進に取り組んでいます。

教えてくれるのはこの方!

鈴木さん

鈴木さん
2011年に入社し、人事総務部に所属。若手から中堅、シニア層、そして女性や海外の現地スタッフの活躍支援に携わっている。同じく総合商社勤務だった両親の影響と、海外での生活を体験した際に「日本の魅力を伝えられる仕事に就きたい」と感じて入社。

「朝型フレックスタイム制度」柔軟な働き方で社員に寄り添う

――貴社で導入している「朝型フレックスタイム制度」について教えてください。

鈴木さん鈴木さん

まず弊社では、2013年に「朝型勤務」を導入しました。夜20時以降の勤務を原則禁止とし、その代わり朝8時より前から勤務する場合は、深夜残業と同等の割増賃金にすると同時に軽食がとれるという制度です。

伊藤忠商事

にこやかにインタビューに答える鈴木さん

――前身として「朝型勤務」があったんですね。

鈴木さん鈴木さん

今では「朝型勤務」が定着しており、社内の半数以上が8時前に出社するようになりました。そしてより柔軟な働き方を目指して、2022年から導入したのが「朝型フレックスタイム制度」です。9時から15時をコアタイムとして、効率的な働き方をすることで、15時以降の早帰りができます。現在では約15%の社員が早帰り制度を利用して子供のお迎えに行ったり、プライベートの時間を活用したりしています。

伊藤忠商事

朝型勤務の朝食の様子

――女性の登用に向けたさまざまな個別支援も行っていると伺いました。どのような取組があるのでしょうか?

鈴木さん鈴木さん

消費者に近いビジネスを強みとする弊社では、ビジネスを進める上で女性の活躍は不可欠として、さまざまな取組を行っています。2023年度より、「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」という時限的に女性を対象とした執行役員の選考ルールを設けました。2030年までに執行役員の女性比率を30%にする目標を掲げています。現状は女性社員の7割以上が20~30代で、まだまだ重要役職を担う経験が十分ではない方も多いのが実態です。そこで、全社的経営に関わる機会を特別に付与しながら更なる成長機会を与えるという意味でも、生え抜きの女性社員を執行役員として登用する制度を導入しました。

重きを置いているのは”性別を問わず適用される制度である”こと

――育児両立手当の支給も行っていると伺いました。これはどのような制度なのでしょうか。

鈴木さん鈴木さん

育児両立手当」は、性別を問わずベビーシッター代や保育園の入園料の補助を受けられる制度です。弊社では20代の社員の約9割が共働きで、キャリアブランクをなるべく少なくしたいという声も多く、入園できる保育園のタイミングに左右されずに復職したいという声もありました。そこで、保育園に預けるなど、両立するにあたりエクストラで発生する費用の一部を補填するため、早くに復職できるような支援・手当の整備を行うことにしました。また、金銭面だけでなく、男性の育児参加が当たり前という強いメッセージを伝えるべく、「男性育児休業取得の“必須化”」により取得率100%を目指しています。上司や同僚が男性育業の理解を得られるような環境づくりも行っています。

――海外駐在員の支援も行っていると伺いました。

鈴木さん鈴木さん

弊社では入社して原則8年目までに、海外派遣をする制度があります。海外駐在は業務上の必要性に加えて、社員の成長につながる重要なキャリアパスです。社員の20%は常に海外駐在していること、また、入社8年目までに若手社員の内9割が海外派遣されていることを踏まえ、ライフステージに関わらず女性のキャリアとライフプランの「選択肢」を増やすために、海外駐在している間の卵子凍結の保管費用や不妊治療の費用を一部負担するなどの制度を導入しました。卵子凍結の費用補助は女性社員だけでなく、男性社員が単身で海外駐在した際の配偶者の方にも適用しています。

伊藤忠商事

――さまざまな施策をされているのですね。ほかにはどのような取組があるのでしょうか?

鈴木さん鈴木さん

2023年からは「職域学童保育」を実施しています。共働きだと、夏休みなどの学校がお休みの期間、子供が家で一人になってしまうこともありますよね。「職域学童保育」は、こういった悩みがきっかけで始まった取組です。同時期に、一部自治体では小学3年生までしか学童に入れないところが多く、一人で留守番を任せるのはまだ心配という方が多いことも知りました。それなら子供と一緒に会社に来られる日をつくってはどうか、と考えました。

――「職域学童保育」では、実際にどのようなことをされているのですか?

鈴木さん鈴木さん

小学1年生から4年生を対象に、当社のビジネスを学びながらSDGsについて知るプログラムを用意しています。また、7時30分からお預かりできるようにしているので、8時前に社員とお子さんが出社した場合には、朝型軽食も体験できます。

――微笑ましい光景が浮かんできますね。実施後はどういった声が届いていますか?

鈴木さん鈴木さん

これまで3回ほど実施したのですが、社員からは「子供同士のつながりができた」「社員の交流にもなった」「親としての情報交換の場にもなった」という声が届きました。また、「職域学童保育」は当社の社員だけでなく、近隣小学校に通う方も利用できるようにしていて、地域交流にもつながっていると実感しています。

伊藤忠商事

職域学童保育の様子

女性活躍推進という言葉自体が必要なくなることを目指す

――鈴木さんが、入社してよかったと思ったこと、やりがいを感じた瞬間を教えてください。

鈴木さん鈴木さん

切磋琢磨しながら仕事を進められる仲間がいる点です。やりがいを感じるときは、社員から「ありがとう」と言われたときですね。価値観は人それぞれなので、人事のやり方や制度・施策に正解はないと思っています。だからこそ、社員からの感謝の言葉を聞いたら安心もしますし、喜びを感じます。

――鈴木さんが、貴社だからこそ実現できると思っている未来について教えてください。

鈴木さん鈴木さん

当社の企業理念は「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」。この理念に則り、世の中に善き循環を生み出し、持続可能な社会に貢献したいと考えています。日本の労働環境にはいろいろな課題があって、改善のしどころがあると感じています。当社の取組が必ずしも正解ではないかもしれませんが、このような取組が広がっていけばいいなと感じます。これからも、性別問わず誰もがフェアに活躍できる社会、女性活躍推進という言葉自体が必要なくなることを目指していきたいです。

――これから社会に出る学生のみなさんにメッセージをお願いします。

鈴木さん鈴木さん

「この人と一緒に働くとやる気が出る、刺激を受ける」という人がいる会社が見つかれば、自分自身の成長にもつながったり、やりがいのあるキャリアが見つかったりするはずです。これから社会に出るみなさんには無限の可能性があります。自分の好きなこと、ワクワクすることが自分の軸になるはずなので、それをぜひ探してみてください!

伊藤忠商事

やりがいや自己成長の大切さについて語ってくれました

鈴木さんの1日を覗き見!

伊藤忠商事

これからの「働き方」のキーワード

  • 「朝型フレックスタイム制度」でそれぞれのライフスタイルに合った働き方を推進
  • 女性活躍推進に加えて、性別を問わずに利用できる制度を重視
  • 目指すのは「女性活躍推進」という言葉自体がなくなる社会

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性別に関わらず全ての社員の働きやすい会社を目指し、社会や業界全体の基盤づくりを進めている東京ガス株式会社と伊藤忠商事株式会社。どちらの企業も、自社内だけではなく業界や地域を巻き込んだ取組で、社会全体の意識改革を目指していました。

東京都女性活躍推進大賞受賞企業のインタビューはほかにも。いろいろな受賞企業の取組をチェックして、これからの働き方を考えるヒントにしてみてはいかがでしょうか。

ほかの受賞企業のインタビューはこちら!