「女性が活躍しやすい職場」と聞くと、どのような会社を思い浮かべますか?女性の管理職比率が高い会社や多様性が認められている会社、出産・育児等のライフイベントを迎えたあとも働き続けられる会社……など、きっといろいろなイメージを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
本連載はそんな「女性が活躍しやすい職場づくり」に積極的に取り組んでいる企業にインタビューをしていく企画。令和6年度東京都女性活躍推進大賞を受賞した企業のみなさんにお話を聞いていきます。企業の強みを活かした独自の制度や、社員からの率直な感想を伺いました。
女性の活躍は健康から始まる 女性医療領域で蓄積した知見も発信
あすか製薬株式会社
どんな会社?
医療用医薬品の研究・製造・販売を手がけるメーカー。特に内科(消化器、甲状腺)、産婦人科、泌尿器科に特化したスペシャリティファーマです。「先端の創薬を通じて、人々の健康と明日の医療に貢献する」という経営理念を掲げ、医薬品の研究、開発、製造、販売を通じて病気の予防や治療に貢献している創業105年になる企業です。特に長年にわたり培った産婦人科領域の知見を活かし、社会貢献活動として一般の女性や思春期世代向けに健康情報の提供を行っています。
教えてくれるのはこの方!

薩川さん
2024年5月にあすか製薬にキャリア入社。現在は人事部で新卒採用を担当している。あすか製薬が女性医療で社会貢献をしている点や、従業員自らが学べる教育環境の充実、チャレンジを促す企業風土が入社の決め手となった。
「なんとなくの不調」も見逃さない。従業員の健康にフォーカス!
――貴社では従業員の健康に着目して「定期健康診断での独自の検査項目の組み入れ」を行っているそうですね。どのような項目を追加しているのでしょうか?

たとえば女性に多い貧血を発見するためのフェリチン値の検査です。ほかにも甲状腺機能に関する検査、子宮頸がん・乳がん・子宮がん・卵巣がん検査など、さまざまな項目を年度ごとに取り入れています。数年かけて全身を巡るような形で検査計画を立てており、費用は全て会社負担です。
――なぜ定期健康診断の内容を充実させようと思ったのですか?

従業員にアンケートを行って悩みを尋ねた結果、原因がよくわからないけれど体調が良くない、という「不定愁訴」を多くの従業員が感じており、仕事でもパフォーマンスに影響を及ぼしているとわかりました。これをきっかけに定期健康診断で早期に発見し、不定愁訴の原因を意識して自身で改善していこうと検査が始まりました。また、当社は「がん」の早期発見につながる追加項目もあります。万が一「がん」が発見されても仕事と両立できるよう、正規従業員は全員「がん保険」に加入しました。この保険料も全額会社負担です。

真剣な表情でインタビューに答える薩川さん
――がんだけでなく、不定愁訴のサポートもしているのは珍しいですね。

アンケートでは男性従業員からも「女性が不調を我慢して働いているのはわかっているが、どう接したらいいのかわからない」などの声が集まりました。なんとなくの不調にも原因が隠れているかもしれない、という意識を持ってもらうために、不定愁訴の検査にも力を入れています。
――取組を導入してから、どのような反響や変化がありましたか?

実際に不定愁訴などの早期発見につながった方もいます。自費で追加して検査する人が少なかった甲状腺などの項目に対しては「治療を受けるきっかけになった」などの声もいただきました。
どのような検査があるのかを自分で調べて実行に移すのは手間もお金もかかるので、会社が主導して不定愁訴の要因として考えられる検査を定期健康診断とともに負担なく受けられるのは身体的負担も少なく、費用の面でもとてもいい機会だと思います。また、当社は甲状腺や貧血に関する医薬品も取り扱っているので、関連する検査を受診することで、従業員が自社製品への理解を深めるきっかけにもなっています。
休職者を支える従業員とその仕事を評価する「ワークサポート応援金」
――貴社では休職者をサポートした従業員を対象に、半年ごとに最大10万円を支給する「ワークサポート応援金」があると伺いました。導入のきっかけを教えてください。

この制度の導入のきっかけは「ラウンドテーブルミーティング」で従業員から出た意見でした。このミーティングでは、経営トップがさまざまな年代や役職の従業員と昼食をとりながらざっくばらんに対話をするので、将来の企業構想から日常で気になっている小さなことまで、本当に幅広い内容が話題にあがります。そのなかで「休職者がいる組織」という課題が浮き彫りになりました。この課題を少しでも解決しようと創設されたのが、ワークサポート応援金です。

ラウンドテーブルミーティングの様子
――休職者を支える人にとって、モチベーションが上がりそうな取組ですね。

特にライフイベントに起因する休職は、たとえポジティブな内容であっても、職場に負担がかかるといったネガティブなイメージを持ってしまう方もいます。また、当社は男性育業(*)の取得率が100%ですが、取得日数が短い点が課題です。仲間のライフイベントを周囲がポジティブに受け入れてサポートしあえる組織風土があれば、休職や休暇が取りやすくなると考え、制度を運用しています。
(*) = 育児休業
――導入後の社内からの反響はいかがですか?

従業員からも非常に好評で、「上長が業務内容をしっかり見てくれている」と実感していただけています。この制度は2024年夏から運用がスタートし、第1回では15名、第2回では43名の従業員にワークサポート応援金が支給されました。休職者を周囲が快くサポートし、それに対して会社がきちんと評価し承認するサイクルができつつあります。
女性の身体と健康を正しく知る。思春期世代にも情報を発信
――女性の身体や健康などに関する情報を発信する「女性のための健康ラボMint⁺」も特徴的な取組です。どのような経緯で誕生したのか教えてください。

当社の創立100周年を機に、社会貢献活動の一環で生まれました。これまで培ってきた女性医療の知見を結集して社会貢献をすることが目的です。テーマは「知ることは、自分を守ること」。女性の身体や疾患に関する正しい情報を社会に向けて積極的に発信しています。最近では、思春期世代の女性に向けた「Mint⁺ teens」という10代向けのサイトも立ち上げました。「若年者への性教育」はまだ日本では十分とは言えず、その課題に着手することは当社としても大きな意義があると思い、取り組んでいます。

――高等学校向けに保健体育副教材「高校生が知っておきたい性と健康のこと」を作成し、無償配布もしたそうですね。

はい。これまで2,000校以上に、約80万部を無料配布した実績があります。教育現場は「性教育をしたいけれどそのためのツールが豊富ではない」と悩みを抱えており、当社の知見が役に立つのではと取組を始めました。
――教材を使った方からの感想を教えてください。

高等学校の先生方からは「教科書では伝えきれないことも、副教材のおかげでわかりやすく伝えられるようになった」とご好評をいただきました。冊子はリニューアルを適宜加えていて、現在は女性のことだけでなく、男性も含めた内容や性感染症の話題も入れています。正しい知識があれば、自分や相手の健康を守れます。男女の身体を知るきっかけにしていただきたいです。

高等学校向けの副教材
健康だからこそ活躍できる
――貴社に入社して実感したことを教えてください。

会社がさまざまな働きかけをしてくれるので、プライベートでも自分の健康に気を遣うようになりました。従業員がお互いのワークライフバランスや働き方に気を遣いあっており、活躍しやすい企業文化が醸成されている会社だと感じています。
――薩川さんの今後の目標を教えてください。

キャリアの選択肢を増やすことです。活躍している女性のロールモデルが周囲にたくさんいるのでお話を伺って、今後のキャリアや今やるべきことを考えようと思います。
会社としては、女性のライフイベント時に医療の側面から役立つ企業であり続け、ひいては社会全体の女性活躍を牽引していくことが目標です。当社は「女性活躍の礎は健康」という信念を持っています。だからこそ社内でも女性従業員が健康な心身で大いに活躍できるよう、今後も取組を続けていく予定です。
――これから社会に出るみなさんにメッセージをお願いします。

就職活動では、自分らしく活躍できる企業を見つけてほしいです。自身が企業を通してどのように社会と関わっていきたいのか考え、企業とのマッチングの場として就職活動をとらえてもらえればと思います。説明会やイベントなどでみなさんとお会いする機会もあるかもしれないので、そのときはよろしくお願いいたします。

笑顔でエールを送ってくださいました
薩川さんの1日を覗き見!

これからの「働き方」のキーワード
- 定期健康診断で自身の不調にいち早く気づき、予防する
- 仲間のライフイベントを周囲がポジティブに受け入れてサポートしあえる組織風土
- 女性の身体について正しく知り、自分と周囲の健康を守る
社内外でジェンダー平等を推進 女性リーダー増加に向けた研修も
株式会社朝日新聞社
どんな会社?
新聞・デジタルメディアによるコンテンツ事業やイベント運営などを手がける総合メディア企業。「つながれば、見えてくる。」をスローガンに掲げ、報道・言論機関の責任を果たすことや、新たな価値を創出することに力を入れています。
教えてくれるのはこの方!

堀之内さん
2015年に入社。技術系社員としてWebサイトの設計やコーディング開発を経験した後、現在はプロジェクトマネジャーとしてWebサイトディレクション業務を担当している。朝日新聞社が「職種のデパート」と呼ばれるほど幅広い業務を行っていることや、挑戦できる風土であることを知り、入社を決めた。
女性管理職比率に伸び悩み……状況打開のために進化した「ジェンダー平等宣言+」
――貴社では「ジェンダー平等宣言+」を策定していると伺いました。この「ジェンダー平等宣言+」とはどういった取組ですか?

実は「ジェンダー平等宣言+」の前に策定された「朝日新聞社ジェンダー平等宣言」というものがあり、そこから説明させてください。この宣言は報道と事業、そしてその担い手の多様性を確保するために2020年に作られました。具体的には4つの目標を掲げていて、1つ目と2つ目は、新聞記事の「ひと」欄で取り上げる人物と、持続可能な地球や社会について考える国際シンポジウム「朝日地球会議」に登壇する方の女性比率を4割以上にすること。3つ目は社内の管理職における女性比率を倍増させること、そして4つ目は男性育業(*)取得率の向上です。
(*) = 育児休業

丁寧にインタビューに答える堀之内さん
――前身となる宣言があったのですね。

そうなんです。しかし実際は、「ひと」欄と「朝日地球会議」の目標は初年度に達成できましたが、女性管理職比率は思い通りには伸びませんでした。そこで女性リーダー育成に特化した取組として2022年に策定したのが「ジェンダー平等宣言+」です。
――「ジェンダー平等宣言+」で実施している取組を教えてください。

まずは部門ごとの管理職の割合を細かく調べ、女性管理職比率の指標を掲げました。これを達成するために、社内会議の女性参加者を増やしたり、リーダー育成につながるジョブシャドーイング研修を行ったりしています。
――ジョブシャドーイング研修ではどのようなことを行っているのでしょうか?

若手から中堅の社員が、役員や幹部社員と50~100時間行動をともにする研修です。原則として一対一で同行するほか、会長、社長に同行する日もあります。リーダーの仕事を間近で観察するだけでなく、経営会議や取締役会といった会議にも出席するのが特徴です。
――堀之内さんもジョブシャドーイング研修に参加されましたか?

はい。実際に参加してみると、非常に多くの情報と多角的な視点のもとに会社の意思決定が行われていたことが印象的でした。しかもかなりのスピード感で進んでいくんです。判断の難しさや重みを真正面から体感できましたね。また、役員間で意見を統一してワンボイスで発信するためには、多様性を尊重しながらも最終的にはひとつの方向にまとめていく判断力が必要なのだと知りました。

ジョブシャドーイング研修の様子
社会全体でジェンダーについて考える「Think Gender」
――ジェンダーの知識を広める施策も積極的に行っていると伺いました。どのような取組なのでしょうか?

報道キャンペーン「Think Gender」です。2016年に発表されたジェンダー格差指数で、日本が111位という衝撃的な順位を記録したことがきっかけで始まりました。社内の女性記者たちがこれを深刻に受け止め、会社としてできることを考えた結果、3月8日の国際女性デーに紙面を使ったキャンペーンを実施したんです。新聞のあらゆる面でジェンダーについて考えたり、女性を励ましたりする記事と広告を掲載しました。2017年以来、毎年3月8日はジェンダー格差について考えるきっかけとして紙面をジャックしてお届けしています。

令和6年3月8日の題字
――新聞記事をきっかけに、読者にもジェンダーへの関心を持ってもらうのですね。

ジェンダーや女性に関連する新聞記事にはマークを付けて、読者の目に留まりやすくしています。ちなみに当初は「Dear Girls」と銘打っていましたが、2020年に当社がジェンダー平等宣言をしたことを受け、「Think Gender」という名前になりました。
――令和6年の国際女性デーでは、新聞の題字デザインもミモザの花をあしらったものに変わりました。なぜこのような取組が実現したのでしょうか?

朝日新聞には146年の歴史がありますが、題字をカラーで変えたのはこのときが初めてです。「Dear Girls」や「Think Gender」をずっと続けてきたことが社内でも認められて、題字の変更が実現しました。おかげさまで大変話題になり、読者からも「よかった」とたくさんの反響をいただいています。

――「Think Gender」の一環として紙面を教育現場にも提供しているそうですね。なぜこの取組を始めたのでしょうか?

もともと朝日新聞はNIE(Newspaper in Education)にも力を入れており、学校の教材として新聞を活用いただいています。とくにジェンダーやSDGsは学校でも力を入れて教えている分野で、「Think Gender」の紙面は先生方からも好評です。そこで令和6年には国際女性デーの新聞から主立った記事を抜き刷りし、生徒たちが集まるイベントや学校などで配布しました。
――教育現場からの反響はいかがですか?

ミモザの題字はかなりインパクトが強かったようです。きれい、かわいい、といった印象を入り口に、紙面の内容にも興味を持っていただけました。先生方からも「新聞の題字が変わるのは初めて見た。本当にすごいことだと感じた」と反響があり、改めてジェンダーへの問題意識を持っていただけたと思います。
挑戦できる風土で自分を成長させたい
――堀之内さんが朝日新聞社に入社してよかったと感じていることはありますか?

やりたいことに挑戦できる風土があることです。入社時はプログラミング経験がなかったのですが、「技術系の部署でプログラムを書きたい」と発信したら希望が叶ったんです。ほかにも新規事業計画を作って運営する業務にも携わりました。こんなにも幅広い経験と知識を身につけられたのは、朝日新聞社に入社したおかげだと思います。自分に自信が持てましたし、担当する業務が変わっても揺るがないスキルやベースが築けていると感じました。
――堀之内さんの、今後のプランや目標を教えてください。

今後チームをマネジメントする立場になったときには、ジョブシャドーイング研修から得たことを実践したいと思っています。仕事にどう取り組むのかをチーム全員で考えられるような、フラットな組織にしたいですね。ポジションに関係なく意見を言い、困ったことがあれば相談してもらえるような環境を作れたらと思います。
――これから社会に出るみなさんにメッセージをお願いします。

私は、何事にも挑戦することが大切だと思っています。たとえまだ実力がなくても、やりたいと思ったことに飛び込んでみる。もがきながら苦しんで、少しずつ前に進んでいくと、ふと水面に顔を出したときに「自分はこんなに成長していたんだ」と気づけるタイミングが訪れます。頭で考えるのもいいですが最後は飛び込む勇気も大切なので、私たちと一緒に挑戦してみませんか。

挑戦と自己成長について、熱いメッセージを送ってくれました
堀之内さんの1日を覗き見!

これからの「働き方」のキーワード
- リーダーの仕事を間近で観察する
- 目の前の業務だけでなく、長い目でキャリアを考える
- 社内だけでなく、社外にもジェンダーを考える機会を提供する
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健康、報道など自社の強みを活かした取組で、女性の活躍を後押ししているあすか製薬株式会社と株式会社朝日新聞社。女性が長く働き、思い描いた未来を実現できるよう、どちらの企業も応援金の支給、メディアでの発信など具体的な形で女性活躍を推進していました。
東京都女性活躍推進大賞受賞企業のインタビューはほかにも。いろいろな受賞企業の取組をチェックして、これからの働き方を考えるヒントにしてみてはいかがでしょうか。
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