ビジネスの現場やニュースなどで一度は耳にしたことがある“知財”(知的財産)。言葉は知っていても、「実際はよくわからない」、「自分には関係ない」と思っている人も多いのではないでしょうか。

そんなビジネスや地域での“知財”活用をサポートすべく、特許庁が開催しているイベントが「つながる特許庁」。開催地ごとにテーマを決め、地域企業や専門家たちがさまざまな角度から知財に触れます。知財をもっと身近に感じられる学びのあるイベントです。

今回はそんな「つながる特許庁」の仕掛け人でもある特許庁職員3名にインタビューを実施。イベント開催に至るまでの経緯や裏話を伺ったので紹介します。

●インタビューに答えていただいた職員の方はこちら

 坂田さん
特許庁 総務部 普及支援課 地域調整班長
知財普及に向けて、各地域の経済産業局等知的財産室との調整業務を行っている。

 中村さん
特許庁 総務部 普及支援課 地域調整班 地域業務第一係
2022年度より「つながる特許庁」を担当。委託事業者や各地域の経済産業局等知的財産室との調整、広報関連業務などを行っている。

 浅野さん
特許庁 総務部 普及支援課 地域調整班 地域業務第一係長
2023年度より「つながる特許庁」を担当。各地域の経済産業局等と連携し、イベントの企画・運営、そのほか広報関連業務を行っている。

「つながる特許庁」ってどんなイベント?

――「つながる特許庁」はどのようなイベントですか?

中村さん 知財の普及啓発を目的としたセミナーイベントです。 知財はビジネスにも関係が深いのですが、その重要性に気づいていない中堅・中小企業はまだまだ多いです。知財は意外とみなさんの身近にあり、経営に役立つ可能性があるのだと、多くの人にイベントを通して伝えたいと思っています。

――知財と経営はどう結びつくのでしょうか。

中村さん 知財は技術やブランドなど、会社で築き上げた価値を守るためにも重要です。たとえば技術やデザインが知的財産権として認められれば自社製品を他社に模倣されにくくなりますし、ライセンスという形でその知財の使用許可を出せばお金を得ることもできます。

浅野さん ビジネスの守りにも攻めにも使える知財は、きっと企業にとって武器になるはずです。そうした知財活用事例についても、「つながる特許庁」では地域企業の方に登壇いただき、紹介しています。

――「つながる特許庁」開催の経緯を教えてください。

浅野さん いくつかあるかと思いますが、中堅・中小企業における知財レベルの底上げを図りたい、という想いがあります。 日本の企業は99.7%が中堅・中小企業だといわれており、日本の経済を支える大きな原動力となっています。こうした企業の方々がより知財を活用できるようになればさらに日本全体の産業力向上につながるのでは、と思います。また、私たち普及支援課は中堅・中小企業をメインターゲットとしていますが、知財は官公庁や大企業、個人事業主、学生、主婦の方にとっても無関係ではありません。全国各地の広い層に関心を持ってもらえるよう、身近なテーマにした企画を考えていました。

中村さん 知財にあまり関心がない方にアプローチできる事業、というのが個人的にもおもしろいと感じました。ですから各開催地のテーマも、知財を前面に押し出さないような内容にしています。

――「つながる特許庁」ではどのようなテーマでセミナーをしているのでしょうか。

浅野さん その地域が抱えている課題やニーズに沿った内容と、知財を掛け合わせたテーマを扱っています。 たとえば11月14日(火)開催の鳴門会場では、「地域ブランド戦略×移住都市」をテーマに決めました。鳴門市が移住政策に力を入れていることが理由のひとつです。さらに鳴門市には「なると金時」のように有名なブランド品もあります。その2つを掛け合わせ知財と絡めると、地域の貢献につながると思い、テーマにしました。

――――改めて、知財の重要性を教えてください

坂田さん 「知財」と聞くだけでわかりづらい、とっつきにくい、自分には関係ないと思ってしまう方は大勢います。しかしネーミングや新たなデザインなど、人が考えたものはすべて知財です。

浅野さん みなさんが持っているスマートフォンにも、実は多数の知財が詰まっています。生活の一部として、知財を認識していただけると嬉しいです。

坂田さん そんな知財の存在や重要性に気づいてもらう上で「つながる特許庁」は、いい機会だと考えています。少しでも関心や興味がある方は、ご参加いただきたいです。

――――10月5日(木)に開催された、「つながる特許庁」金沢会場の雰囲気はいかがでしたか?

浅野さん かなり盛り上がりました。来場者は当初70人想定でしたが、実際は80名以上の方にお越しいただいただけでなく、みなさんが積極的にコミュニケーションをとってくださいました。

中村さん 今年度から実施した名刺交換会では、聴講者の方々が登壇者さんに積極的に声をかけていました。活発にコミュニケーションをとってくださっている方が多く、イベントを開催してよかったと思いました。

  • 開催された金沢会場の様子①

  • 開催された金沢会場の様子②

――セミナーやパネルディスカッションの様子はオンラインでも生配信されました。会場となる地域に住んでいる人以外も視聴できるのでしょうか?

浅野さん セミナーはYouTube Liveで生配信しているので、全国からどなたでも視聴できます。「知財ってなんだろう」「そういえば商標って聞いたことがあるな」など少しでも気になった方は、気軽に足を運んでいただきたいです。

――リアル会場ならではの魅力も教えてください。

浅野さん 参加者や登壇者同士の交流があることです。普段は出会えない人ともつながることで、イノベーションが生まれると思っています。参加者が主体的に参加できるイベントにしたいので、2月8日(木)開催予定の郡山では知財に親しみを持ちやすいテーマでワークショップも企画していますよ。

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回を重ねて気づいた、「知財を前面に押し出さない」大切さ

――3年度目を迎えた「つながる特許庁」。回を重ねるにつれ工夫した部分はありますか。

浅野さん ひとつはハイブリッド開催の実施、もうひとつは知財を強調しすぎないテーマ設定をしたことです。

特許庁にいるとどうしても「知財を知ってほしい」という想いが強くなり、知財を前面に押し出したテーマを考えがちでした。しかし参加者のみなさんの視点に立つと、抵抗感を抱くかもしれないと気づいたんです。デザインやブランドなど身近な言葉を用いて、そのテーマに合う登壇者の方々をお呼びできるようになった部分は、レベルアップした点だと思います。

坂田さん 地域のニーズを吸い上げて、地元の方が「やりたい」と思うことを扱えるようになってきたと感じています。地域企業の方にご登壇いただき、「自分の地域にこれほど活躍している企業がいるのか」と参加者の方々に知っていただくことが、知財に関心を持つ入り口のひとつになるのではと思っています。

――「つながる特許庁」に参加した方からはどのような感想をいただきましたか。

浅野さん 開催後のアンケートでは、約9割の方が「参考になった」と回答してくださいました。とくに「他社の話を聞く機会はなかなかなかったので、事例を交えたお話を伺えてよかった」という感想が見られます。ほかにも参加者の方から、「ブランド保護したいけれど社内で聞いてもらえなかった、持ち帰って再度提案してみたい」と嬉しいお声をいただいたこともありました。少なからず次の一歩を踏み出すお役に立てたのでは、と思っています。 また、金沢会場では、「『ニッチ市場で勝ち抜く海外ブランド戦略』というテーマ設定がとてもよかった」という感想もいただきました。

坂田さん 金沢会場での開催当日は、「つながる特許庁」の看板を見て関心を持ち、当日飛び入りで参加してくださった方もいました。

坂田さん なかには、昨年度に大阪会場で開催したとき、北海道在住の方がオンラインで視聴して「大阪での取り組みは北海道でも参考になりそう」と感想をくださった方もいました。「開催地域にはこんなにも素晴らしい企業があるのだと改めて知ることができた」というお声もいただいています。「つながる特許庁」を通じて、他地域の事例も参考にしてほしいです。

浅野さん オンラインをきっかけに「つながる特許庁」を気に入ってくださったら、「次はうちの地域で開催してほしい」、「このテーマを扱ってほしい」とご要望をいただけると嬉しいです。みなさんがどのような話を聞きたいのかは私たちも知りたいので、ぜひ特許庁に伝えていただければと思います。開催後のアンケートに記入していただくのもウェルカムです!

金沢会場に参加した人からはこんな声も……

・ビジネスを拡大(海外含む)する前の商標検索の必要性について理解できました
・背景の違う方々の対峙が楽しく、スタートアップの自分には大変参考になった
・出願業務が主だったが、知財の戦略的な活用方法についても検討していこうと思った
・知財への関心が高まり、身近なものになった

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「関心がない人にも来てほしい」知財の間口を広げていく

――今後の開催テーマを教えてください。

浅野さん 現在(記事掲載時)は、11月21日(火)の旭川開催、12月6日(水)の大阪開催で、参加者を募集しています。

旭川ではデザインから起こすイノベーションがテーマです。旭川デザイン協議会会長の伊藤友一さんや、旭川で活躍されている家具メーカー・株式会社カンディハウス代表取締役社長の染谷哲義さん、デザイン経営に取り組まれている環境大善株式会社代表取締役の窪之内誠さんなど、にご登壇いただきます。

また、大阪ではAIと知財について扱います。 AIベンチャーと協力して新製品の開発を行った経験もある株式会社浪速工作所代表取締役社長の谷本和考さんや、京都初のAIベンチャーである株式会社HACARUS代表取締役CEOの藤原健真さん、また富士通株式会社で知財業務を担当されているビジネス法務・知財本部 知財グローバルヘッドオフィス 知的財産戦略室 室長の大城貴士さんなど、にご登壇いただき、各者の考えや事例をご紹介いただきます。

――今後の「つながる特許庁」で扱ってみたいテーマはありますか?

浅野さん 個人的な希望ですが、ワークショップやオープンファクトリーのような体験型の内容を増やしたいです。より広い層に関心を持ってもらえるよう、知財にまだ詳しくない方を呼んでセッションも開催してみたいと思います。メインはあくまでも中堅・中小企業ですが、より間口を広げて、タレントさんや学生さんなど、さまざまな方を呼べるようなイベントにしたいです。

中村さん 世の中で流行っているホットなテーマも扱ってみたいと、個人的には思っています。例えばメタバースのような、世の中の方が今関心を持っているものを知財と掛け合わせれば、間口が広がるかもしれません。学生も「聞いてみようかな」と興味を持ってくれるかもしれませんし、よりおもしろいイベントになると思います。

浅野さん ホットなテーマは今後も積極的に扱っていきたいと思っています。世の中で話題になることには、絶対に知財が関わっているからです。技術にも名前にも、知らないだけで実は知財が関わっています。

坂田さん 全国から参加できるようにオンラインとリアルのハイブリッド開催は今後も続けていくつもりですが、より多くの方が会場に足を運びたくなるような内容にしていきたいと思っています。今年度から始めた名刺交換会も、リアルならではの臨場感や人とのつながりを感じていただける企画のひとつかと思います。やるからには、参加者のみなさんにとってなにか実のあるイベントにするべく、特許庁と各地域の経済産業局、委託事業者含め、皆で知恵を出し合って企画していきます。

浅野さん みなさんに少しでも体感していただけるようなセミナーを用意しているので、足を運んでみてください!

今からでも遅くない! 身近な知財を楽しく知ろう

全国の事例や課題をきっかけに、知財への理解を深められる「つながる特許庁」。リアルとオンラインのハイブリッド開催なので、全国どこからでも参加できます。 リアル会場では名刺交換会など、知識だけでなく人脈を得られるような企画も。郡山会場ではワークショップも予定されており、今後はより体験型の企画が増えていきそうです。

「つながる特許庁」は、これからも全国各地で開催予定。気になるテーマや、地元での開催などをきっかけに、気軽に参加してみてはいかがでしょうか。

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今年度の開催情報

「つながる特許庁 in 金沢」【終了】
日程:2023年10月5日(木)
場所:石川県金沢市
テーマ:ニッチ市場で勝ち抜く海外ブランド戦略

「つながる特許庁 in 鳴門」
日程:2023年11月14日(火)
場所:徳島県鳴門市
テーマ:地域ブランド戦略×移住都市

「つながる特許庁 in 旭川」
日程:2023年11月21日(火)
場所:北海道旭川市
テーマ:デザインから起こすイノベーション

「つながる特許庁 in KANSAI」
日程:2023年12月6日(水)
場所:大阪府大阪市
テーマ:AIが変える未来と知財 -私たちはどう向き合うか-

「つながる特許庁 in 仙台」
日程:2024年1月25日(木)
場所:宮城県仙台市
テーマ:創業・スタートアップ企業の推進力(予定)

「つながる特許庁 in 郡山」
日程:2024年2月8日(木)
場所:福島県郡山市
テーマ:福島発イノベーション創出(予定)

※各地域のアーカイブを期間限定&登録者のみに配信予定

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