近年、決済サービスが多様化し、コロナ禍による消費者のライフスタイルが変化する中、業界とし て安全・安心な利用環境の整備とともに時代の変化に柔軟に対応することが求められています。

今回は日本クレジット協会副会長でもある三井住友カード株式会社の大西社長に業界の現状と同社 の今後の展望等についてお話を伺いました。

クレジット業界を取り巻く環境について

コロナ禍における消費行動の構造的変化がキャッシュレス取引全体の底上げに

渡名喜:新型コロナウイルスの影響もあり、衛生的な手段としてキャッシュレス決済が浸透してきています。少額決済や多様な決済手段への紐づけなどでもクレジットカードが選ばれるようになり、コロナ禍以前と比べ業界の市場に変化もみられます。このような状況を踏まえ、業界の現状と今後についてお考えをお聞かせください。

大西:昨年は、年明けから続いた緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの影響により、経済全体が大きな打撃を受けましたが、9月末の第4次緊急事態宣言解除以降は持ち直しの動きがみられ、消費マインドにも一定の安心感が出てきたのではないかと感じております。足許では、オミクロン株の感染拡大により再度落ち込んだものの、行動制限や3回目のワクチン接種の広がりなどで感染状況も徐々に収まり、回復しつつある印象を受けており、今後は、政府による本格的な経済対策も動き始め、国内経済の押上げが期待されます。

この2年間で数回の外出制限措置が取られた結果、旅行・航空・レジャーなどの業種は大きく落ち込みましたが、その一方で新たな消費も生まれました。企業の働き方が変わり、テレワークの推進などによる家中消費の拡大、また感染防止策や意識の変化により、日常消費の支払い手段が現金からタッチ決済等のキャッシュレス取引に移るなど、消費者の行動が変わりました。これまでリアル中心であった買物はオンラインに移り、街中消費ではセルフレジの広がりなども後押しして、スーパー・ドラッグストア・ホームセンターなどを中心にキャッシュレス取引が広がりました。

このような消費行動の構造的な変化が、旅行やレジャーなどの一時的な落ち込みを補い、キャッシュレス取引全体を底上げした結果、2020年ではクレジットカードを含めた国内におけるキャッシュレス決済金額は85.8兆円(前年比4.8%の増加)と、コロナ禍においても順調に拡大しました。

コロナ禍で、我々はこれまでにない経験をしましたが、人々のライフスタイルはこれに順応する形で変化しました。例えば、高齢者がEC取引による買物をきっかけに、キャッシュレス決済の便利さ、安全性を体験しましたし、感染防止策のひとつとしても安心かつ便利に利用できるため、キャッシュレス決済は今後ますます拡大していくものと思われます。今後コロナが出口に向かい、旅行やレジャー、インバウンドなど落ち込んだ消費が戻ってくれば、個人消費は更に力強く回復し、キャッシュレス市場の拡大も一層加速していくものと考えています。

渡名喜:昨今の決済ビジネスにおいて、業界を取り巻く環境が著しく変化してきており、業界全体として対応が求められています。このような状況において、クレジット市場の動向・課題等についてお考えをお聞かせください。

大西:2020年の我が国におけるキャッシュレス決済金額85.8兆円のうち、およそ9割(74.5兆円)がクレジットカード取引になりますが、一方で、日本クレジット協会の統計では2021年1月から9月までのクレジットカード不正使用被害額は237億円、前年同期比31.5%と急増しています。その内の約95%が、ECサイトの脆弱性をついた漏えいや、フィッシングによる漏えいなど、番号盗用による非対面取引での被害となっています。この対策として、情報漏えい防止の観点から加盟店におけるカード情報等の非保持化を進め、また加盟店とともにEMV 3-Dセキュアの普及に努めるなど、セキュリティ面での強化に取組んでいます。

クレジットカード産業における社会的使命やインフラとしての重要性が格段に増している中で、クレジットカードの安全性への社会的要請は強まっており、我々の日頃の取組みは、その真価を問われる局面を迎えています。引き続き業界が一丸となって、安全・安心なクレジットカードの利用環境を整備していかなければならないと考えています。

個社としての取組み

利用者・事業者双方の「お客さま起点」でキャッシュレスへの課題解決を目指す

渡名喜:三井住友カード社のこれまでの歩みを教えてください。

大西:1967年に当社の前身である住友クレジットサービスが設立され、以来50年以上、日本におけるVisaのパイオニアとして、お客さまに「安全・安心・便利なペイメントサービス」をお届けするため、つねに先進のサービスを提供し続けて今日まで成長を積み重ねてきました。国内外のFintech企業との提携をはじめ外部企業とのアライアンス、インバウンド消費や地方創生を促進する最新の加盟店ソリューションの提供、多様化する顧客ニーズに対応した商品開発など、時代の変化に応じた新たなビジネスモデルの構築に積極的に取組んでいます。

2021年4月には、当社と子会社のSMBCファイナンスサービスの本社機能を豊洲に集約、SMBCコン シューマーファイナンスを含め、SMBCグループにおける決済ファイナンス事業の中核として、新たなスタートを切りました。シームレスな環境で場や知識を共有することで生まれるシナジー効果を最大限活かし、グループ一体運営を更に深化させ、より一層充実したサービスをお客さまに提供する態勢を構築しています。

渡名喜:今後の貴社の展望についてお聞かせください。

大西:2020年度より、経営ビジョンとして『お客さまに選ばれ、お客さまの決済をあらゆるシーンで支える“デジタル”&“イノベーション”カンパニー』を掲げています。

現在、決済ビジネスは目まぐるしい環境変化に直面しており、本格的なキャッシュレス社会となりました。デジタルイノベーションの進展などで多様化するお客さまのニーズをしっかりとくみ取り、誠実に対応していく姿勢が不可欠となってきています。そのためにも、お客さまの視点に立った商品開発や業務運営を実践し、お客さまに感動していただけるサービスを提供していかなければなりません。

いまや、キャッシュレス取引は、法人の取引手段においても大変多くのお客さまにご利用いただいております。個人、法人双方のお客さまからの「声」に真正面から向き合い、「便利」「安全・安心」「お得」なサービスの実現を目指しています。

渡名喜:ナンバーレス、ステラターミナル等の導入や家族ポイント等の先進的な取組み、消費者向けの情報発信等を推進している点に顧客として利便性や安心を感じますが、多様な取組みを推進していく上で、大事にしていることはありますでしょうか。

大西:当社のキャッシュレス決済戦略とそれに基づく各種取組みのポイントは、利用者・事業者双方の「お客さま起点」でキャッシュレスへの課題解決を目指している、という点です。

利用者起点では、多様な決済手段をストレスなく使える環境の提供と、お客さまが、「安全・安心」・「便利」・「お得」を実感できるよう新たな商品・サービスを展開しています。例えば、カード券面からカード情報の表記をなくす一方、アプリでカード情報を確認することで、リアル・ECともに安全・安心、かつスムーズに利用することができます。また、「使い過ぎ」や「不正使用」に対する不安の声に対し、利用金額と加盟店を通知するサービスや、予め利用上限を設定できるサービスなど、安心してカードを利用できる機能もアプリに実装しています。こういった工夫により、お客さまに安全・安心・快適なキャッシュレスライフを提供しています。

事業者起点では、利用者の様々な決済手段をスムーズに、ストレスなく利用しやすい環境を提供しています。

当社では、事業者向けサービスの柱として、2019年10月に次世代決済プラットフォーム「stera(ステラ)」をリリースしました。「stera」は、店舗の決済端末や、決済センター、ネットワークまで、キャッシュレス決済の過程で事業者サイドが必要とする機能を一気通貫でカバーしています。

様々な決済手段へ対応できるオールインワン端末「stera terminal」によるワンストップ対応や、リアルとネット双方の店舗を運営する事業者向けに「リアル・ネットの決済データ連携」ができるオムニチャネル対応が可能となりました。その他、決済以外の必要な業務アプリをダウンロードすることができる「steramarket」や、クレジットカードさえあれば鉄道・バスにも乗車が可能な「stera transit」の展開など、これまでにsteraシリーズとして12のサービスを展開しています。

様々な決済手段が乱立する日本において、利用者、事業者双方の目線に立った決済サービスを提供し、キャッシュレス社会の実現に貢献していきたいと考えています。

渡名喜:社会貢献事業への取組みについてお聞かせください。

大西:当社は、サステナブルな社会の実現に向け、SMBCグループの一員として、事業を通じた社会課題の解決とSDGsの実現を目指しています。

具体的な取組みとして、カード利用代金WEB明細書サービスの提供とそれを通じた「三井住友カードの森づくり」があります。クレジットカード事業でできるeco活動として、カード利用代金のWEB明細書化を推進し、紙の使用量と郵送の削減によりCO2発生の削減に繋げています。また、それによる収益の一部を森林の育成に充て、全国に5か所ある「三井住友カードの森」で間伐や適切な植林を行っています。お客さまのデジタル化へのご協力と森林育成の共創を実現するこの取組みでは、様々な種類の木々が共生する「多様な森」を増やし、より多くのCO2吸収や保水性の向 上を目指しています。

また、金融教育の一環として出張授業にも取組んでいます。

4月から成年年齢が18歳に引き下げられるなど、若年層における金融リテラシー教育は重要性を増す一方です。そのため、当社の知見を活かした「次世代」の育成に貢献するサステナビリティ活動の一つとして、小学生から大学生に至るまで積極的に推進しています。幅広い年代ごとにお金を賢く使う方法、キャッシュレスの進展で多様化する決済方法の特徴や仕組みの理解、クレジットカードを利用するうえでの注意点など、若年のうちから金融リテラシーを身につけてもらうことを狙いとし、これまでに多くの生徒の方々に参加いただきました。

渡名喜:従業員の「多様な働き方」や「働きやすさ」に対し、企業としてどのようなサポート、取組みをおこなっているのでしょうか。

大西:まず、「働き方」の観点では、フレックスタイム制度や時差出勤・在宅勤務・サテライトオフィス勤務の導入など、働く時間や場所の柔軟化を進めるとともに、風通しの良い環境・企業風土を醸成するため、服装も自由化しています。

また、長期的な観点では、育児や介護との両立を支援する制度や就業地域をフレキシブルに限定できる制度、シニア社員に対する週3日勤務、自身のキャリアップを目的とした休職や各種補助、副業の認可等「働くための環境」も様々に整えており、実際に活用する社員も増えてきています。

また、職場のチームワークや上司と部下の関係性も社員の働きやすさに大きく影響するものと考え、エンゲージメントサーベイの実施により組織の状態を可視化し、1on1ミーティングで職場のコミュニケーションを活性化する、といった社員の「働きがい」を向上させるための取組みにも力を入れています。

加えて、昨年度からは健康経営にも本格的に取組み始めました。セミナーや運動イベントを通じて社員のウェルネスカルチャーを醸成することや、有給休暇の取得推進、時間外労働削減や喫煙率低下への取組み強化等、社員一人ひとりが健康的に、いきいきと働くことができる組織を目指しています。

日本クレジット協会が果たす役割

セキュリティ対策の強化と消費者に対する啓発活動を両輪で展開

渡名喜:クレジット業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせください。

大西:当協会の中期業務運営方針(2020年度から2022年度)において、セキュリティ対策の推進を三本柱の1つとして掲げ、国際水準のセキュリティ環境の整備・維持に取組んでおります。コロナ禍においてEC利用が浸透し、また少額の決済においてもクレジットカードが選ばれるようになっていますが、不正被害については残念ながら増加傾向にあります。キャッシュレス事業者が拡大する中、実効性のあるカード情報保護対策やカード不正利用防止策の推進は引き続き重要であり、関係者と緊密な連携を図りながら進めていく必要があります。

また、キャッシュレスを踏まえたクレジット教育や、消費者などに対する各種媒体を活用した広報啓発も推進していく必要があります。特に、成年年齢の引下げ等社会情勢の動きを踏まえつつ、若年層を中心とした消費者に対するクレジットカード取引の基本事項やカードセキュリティに関する啓発活動は重要です。

クレジットカード業界として、セキュリティ対策の強化と消費者に対する啓発活動を両輪で展開していくことが我々の果たす役割と考えています。

当協会は業界の認定団体として関係各所との連携を更に強化し、会員各社のご協力を賜りながら、業界の健全な発展に貢献するよう取組んで参りたいと考えています。

[PR]提供:日本クレジット協会