「農業」といえば、「体力的にしんどい」「土や泥にまみれて汚れる」「朝早く起きないといけない」というイメージを持つのではないだろうか。しかし、その古いイメージはもはや過去のもので、今や、AIを活用した「スマート農業」の導入や、自分が育てる農作物を使ったレストランを開業する人がいるなど、枠にとらわれず柔軟に自身のやりたいことが実現できる職業として関心が高まっている。

今回は企業での勤務から転身し、実際に「農業」に取り組む40~50代の3名から農業をはじめるきっかけや就農時に得ていた知識、お金の事情、会社員時代の経験が活かされた内容などの話をうかがった。昨今、リモートなど新しい働き方が拡大し、大都市圏での生活を見直す人たちも増加しつつあるようだが、そうした人にもビジネスの選択肢として「農業」もありかもしれない。ぶっちゃけ農業ってどうなの?

自分で作ったものを届けて喜んでもらいたい、平林悠さん

  • 北海道鷹栖町在住 /製薬会社→転職・夫婦で移住(5年目)/稲作を行う

  夫婦そろって大手製薬会社を脱サラした平林悠(ひらばやし・ゆう)さん(39)と純子(じゅんこ)さん(35)は、2016年に就農。農林水産省の経営継承事業での研修を経て18年に稲作農家として独立した。自ら「儲かっている」と公言するほど経営は順調。

高給で安定したサラリーマンを捨ててでまで農業を選んだワケとは?

私は会社員として大手の製薬会社で勤務してました。仕事は順調で、退職する間際には年収1,000万円ありました。妻とも30歳で結婚し子供にも恵まれましたが、ある時、仕事が忙しく好きな家族といられずに子供の成長も見られないことと、高給を得ているのは自分の力ではなく会社の力なのではないか……という疑問が生まれたんです。もともと求めていた仕事の生活の理想は、自然のなかで伸び伸びと暮らしながら、家族と幸せに暮らしたかったことなので。

移住先の決め手となった新規就業者確保対策事業

移住の決め手は、私の師匠である鷹栖町の由良春一(ゆら・はるいち)さんの存在と町の対応が丁寧で手厚かったからですね。
由良さんとは農林水産省の経営継承事業で第三者に経営を譲りたい農家さんとして紹介されたことで出会いました。2016年から2年間に渡り栽培を学び、水田と農機を引き継ぎました。そして町の対応ですが、鷹栖町独自の「新規就農者確保対策事業」は、就農を希望する人材を研修生として受け入れる農家に年間80万円(2020年度時点)が支給され、研修生には町内で就農したら3年にわたって年間20万円を支援してくれます。これが、移住と就農を後押ししてくれました。

  • 独立2年目の2019年度の青色申告決算書

家族との時間を大切に過ごす自然な暮らし

生活レベルや生活の質はサラリーマン時代と大きな変化はありませんが、家族との時間が圧倒的に増えました。僕ほど子供と一緒にいるお父さんはなかなか居ないと思いますよ。生活は基本的に太陽とともに動きます。夏ならば北海道では、朝は3時過ぎから明るくなるので起床して作業を開始、日が落ちるとともに作業は終了。17時ごろに保育園の送迎バスで帰宅する子供をお出迎えして、畑で取れた新鮮な枝豆とトウモロコシをつまみにビールを飲む晩酌は至福の時です。

しっかりした資金計画は必要

就農して1〜2年目は研修期間であり、補助金(農業次世代人材投資資金の準備型:妻と合わせて計300万円)暮らしで、3年目より独立しました。1〜2年目は、新しく生活を始めるための準備期間で、引っ越しや中古住宅の改装・汲み取り式のトイレだったため浄化槽設置などで家計は真っ赤。前年の収入からの納税や引っ越し等で、急な物入りが重なったことも大きいです。それらを想定して貯蓄をしていたので乗り越えられましたが、新たに就農する方は資金面においてそれ相応の準備は必要かもしれません。特に子供がいる方は綿密な計画が大切ですね。

独立した就農3年目は、天候不順による不作に加え、技術も未熟であったためお米が多く採れませんでした。通年でお米を販売するも、営農するための資金の支払いの多く(肥料農薬機械等)は通常、秋に一括払いなので、その年の秋は厳しかったです。しかし、乗り越えられたのでこれでもう大丈夫だという確信を得ました。いつしか顧客は1,000人以上になり、収入は2,600万円(2019年度)を超えました。

  • オープンしたおにぎり屋「みんなのフレッシュ」の前で。(2019年11月現在休業中)

営業マンならではのアイデアで町と一緒に発展する仕掛けを

現在は、自分で作ったお米を使ったおにぎり屋を経営していますが、ワイン事業を3~5年後を目途に行う予定です。他にも、自家製の大豆と自家製の米麹を使用した味噌も好評なので、事業化を考えていて、この味噌を使ったラーメンを、鷹栖町に本店を置く「鷹の爪ラーメン(国内5店舗海外2店舗)」で近々販売します。

就農でも活きた会社員時代の強み

就農当初から「お米を商材として売るために、営業マンが稲作に取り組んだら? 」という考えであれば会社員時代の強みが活かせると感じていました。よってノウハウの蓄積を意識してやってきました。実際に会社員時代の後輩にお米農家さんを紹介したところ、移住を経て本年より独立・営農を開始します。加えて、2年以内を目途に移住計画を立てているご家族の支援なども並行して行っています。そうした脱サラ農民グループを構築し、関わるみんなが楽しく幸せになれるようなコミュニティを作っていきます。さまざまな方面から移住や就農についてご相談頂く機会が増えており、大変うれしいですね。私の両親も東京から今年移住してくることになりました。一緒に農作業したあとに、冷えたビールを飲むのが本当に楽しみです。

就農にはどんな種類があるの?

ハードワークな日々に疑問を持ち会社員から転職、畔柳茂樹さん

愛知県在住/メーカー→転職・45 歳で独立し、ブルーベリー農園を開設

  脱サラして「ブルーベリーファームおかざき」を立ち上げた畔柳茂樹(くろやなぎしげき)さんは、営業日は年間たったの60日ながら、年収2,000万円を実現。愛知県岡崎市「ブルーベリーファームおかざき」は、敷地内に5,000㎡の畑があり、50種類、1,300本のブルーベリーを栽培している。名古屋都心部から約40分から45分で着くというアクセスの良さから、夏だけで1万人が訪れる、愛知県有数の観光スポットになった。

収穫期以外は新規就農者向けにセミナー事業も行う。

今年で就農して13年目です。会社員から独立した際に、綿密に想定したこともありますが、困難なことはほぼありませんでした。
1年のうち、収穫期である6~8月は週6日農園の運営を行いますが、収穫期以外はブルーベリーの手入れを毎日行いつつ、新規就農でブルーベリーを検討している方向けのセミナー事業に注力しています。

観光農園の営業も屋外型農園ということもあり、コロナの影響は受けていません。シーズン中は1日当たり土日は200から300人ほど、平日は50から60人ほどが来園し、ブルーベリー狩りや農園併設のカフェで1日当たり5〜6万円を売り上げています。

  • 約7500㎡の敷地面積を誇る「ブルーベリーファームおかざき」

時間を有効活用できるようになった上に、業績も右肩上がり。

会社員時代と比べて好きなことを仕事にしていること、時間の管理を自分で決められることは良いなと感じています。家族との時間も確保できるので海外旅行を年数回楽しめるようにもなりました。年収に関しても会社員時代よりも増えており、年々業績は右肩上がりです。

家族の理解を得て、観光農園を開業

会社員から農業への転職について、妻とは、なぜ農業をやりたいのか、どのような考えなのかを約1年かけて話し合いました。自分は「一度決めたことはやる」といった性格だということも知っていたので理解してくれました。新しく就農を考えている人たちからも多くの相談を受けますが、農業には家族の協力も不可欠なので、よく話し合うことが重要です。

私は会社を退職した時、農業をやることは決めていましたが、何をはじめるかまでは具体的に決めていませんでした。その後、収益面を考えた結果、農業をはじめるのであれば「観光農園」が一番適切だという結論に達しました。今でもその考え方は正しかったと思います。ブルーベリーを選択した理由は、当時ブルーベリー農家が極めて少なかったということと「衝撃が走るほどおいしいブルーベリーに出会ったこと」です。福岡県で特別な栽培方法で生産されていることを知って、教えてもらいました。就農にあたって初期費用には早期退職で受け取ったお金を使いました。土地は先代が地元の農家に預けていた土地を利用したため就農のための移住はしていません。現在も就農当時と変わらず、自宅から車で12分ほどの場所に農園があります。

  • セミナーは好調でオンラインに切り替えてから、さらに受講生が増えている

会社員での経験が役立ったこと

会社員時代、事務系職として働いてきたことで身についた数値分析や企画考案などの力が、農園経営に活かせていると感じています。セミナーは、セカンドキャリアとして農業を考えている人たちに、自分の経験を伝えたいと思い、2012年ごろから始めました。現在は「最強の農起業! 」(2017年出版)をベースに農園開設から、集客方法まで体系化して教えています。ここでも、会社員時代に経験していたプレゼンなどが役立っていますね。現在は、従来対面で行っていたセミナーをオンラインに切り替えたことで女性の参加者が増えています。農園はどうしても天候に左右されるので、農園以外の収益を確保することも必要と感じています。ネットは集客の要と考えていますので、ブログを継続して更新し、欠かさず情報発信をしています。継続して情報発信することが「観光農園」のビジネスモデルにおいて何よりも大切です。会社員時代に何か情報を発信したり、企画を考案したりした経験があれば、その能力を活かせるのではないでしょうか。

アンテナショップに加え、新たにハーブ栽培も検討

ブルーベリーピザがとても好評で、名古屋に農園で出しているスイーツを提供するアンテナショップの出店を考えています。第二の柱としてハーブ栽培を検討中で、ブルーベリーとともに自分で収穫したハーブを使用したハーブティーを楽しんでもらえる体験を構想しています。新規就農者に向けたセミナーも開催し、積極的に六次産業化に取り組んでいきます。

農業にもインターンシップ制度があるって知ってた?

OLから転身。食用バラの栽培、加工、販売を手掛ける中井さん

  • 千葉県在住 不動産→転職・移住(9年目)/食用バラの生産を行う

  OLからフラワーデザイナーを経て、プリザーブドフラワーの先駆者として起業した中井 結未衣(なかい・ゆみえ)さん。東日本大震災の被災地支援で花の持つパワーを実感し、千葉県館山市に移住してバラ農園とカフェを兼ねた体験教室を設立。加工から流通販売まで行う国内唯一の「バラの学校」を経営。

きっかけは友人の何気ない言葉から

自宅を訪れた友人から「部屋に花を飾ってないのね」と言われたことが、花と関わりあうことになった最初のきっかけです。会社勤めの2足のわらじでフラワーデザイナーを始めて、その後、独立することに。就農を思い立ったのは、東日本大震災の時の体験からです。衣食住に困っている被災者の方がどう思うかと不安だったのですが、お花を抱えて被災地に行ったら「お花を待ってた!」と喜んでもらえて、花には大きな力があることを知りました。だったら、仕入れて売るのではなくて“作らないといけない”と。何かが降りてきた感じです。実際に就農してみて、育ててきたバラが咲いたり、赤いつぼみをつけている様子を見ると誰にも教えられていないのによく咲くなぁって魅了されますね。バラの不思議や力を感じると、尊敬すら覚えてしまいます。

  • 栽培した食用バラで作ったバラの葉のお茶「ローズリーフ®」(特許第6359746号)

千葉へ移住。気候や人材確保の問題に直面

移住では花の栽培に適した土地であることを第一に選びました。その条件を満たしている中でも千葉は東京との往来は比較的容易であることも決めた理由です。ですが、房総半島の特有の気候には戸惑いました。台風の直撃で塩害にあって葉が全部落ちてしまったことがあったり、花の咲くタイミングが猛暑で早くなって収穫のペースを考えたりもしました。それと移住当初は人材の確保にも懸念がありました。しかし、どんな人材と一緒にやっていきたいのか、どんな会社にしてゆきたいのか、を発信しつづけることで、求める人材と出会うことができました。

  • 中井さんが栽培する食用バラ

地球環境問題を解決する観点から事業を構築。食品分野では新たな試験研究も

2021年2月期の売上は昨年対比171.5%の増加でした。もともと、地球環境問題を解決する観点から事業を構築していたため、時代の流れとマッチングしたのではないかと考えています。「ヴィーガン」「オーガニック」「食用バラ」といったキーワードへの関心が高まっていると感じています。一方で教育事業はコロナ渦の影響をうけ現在休講中であり、また、ローズウエディング事業も予定より60%減となっています。今年度は食品分野で新たな試験研究を始めることが決まっており、確立させた栽培法を拡販してゆく予定です。かねてより構想していた、バラづくしの“バラホテル”は、共同開発の案が浮上しており、具体化にむけ、じっくりあたためてゆくつもりです。

もしキャリアの選択肢に「就農」を考えるなら

私は走りながら考えるタイプなので、だいぶ遠回りしてしまったと思います。この経験から言うと、会社員の間に戦略をたてることをおすすめします。なぜなら、会社員時代のほうが、消費者目線で戦略をたてられるからです。就農後は新しいことが頻発する毎日で、1年から数年はバックヤードにさける時間が少なくなりがちです。

具体的には、

  1. 作付けしようとおもっている作物のマーケット調査(どんな商品が、いくらで、どんなパッケージで販売されていて、消費者の不満は何なのか)
  2. 自分ならどうやって消費者の不満を解決するか? また、助成金を活用するのならどんな助成金があるのか?
  3. 2のプランがたってから、作物、就農場所・面積・メンバーを決定する

という戦略の立て方をお勧めします。

私は一見すると、OLからフラワーデザイナー、そして農業と異分野を渡り歩いてきたような印象かもしれません。ですがOL時代の仕事である経理の知識は会社や農業を運営してゆくうえで役立っていますし、フラワーデザインの会社で行っていた後進育成事業は、農業分野でも役立っています。振り返れば形は変われどテーマは常に「花」で、複数のルートを通ってきたことが収入の安定につながっていると感じています。収入に関してもOL時代の年収700万円ほどから、現在(農業+フラワーデザイナー会社2社合計)では1,200万円ほどまで増えました。そして「人との関係」が基盤になる点は、会社員でも農業者でも同じ。人間関係も農業も、結果がでるのに年単位の時間がかかりますが焦らず、あなたなりの感性で取り組んでいただきたいです。これからスマート農業がすすめば、非農家経験を生かした新しい兼業農家が生まれるのではないでしょうか。

農業ってどうやってはじめるの?

これから農業を始めたい方には「農業をはじめる.jp」がおススメ

ご紹介させて頂いたユースケースは一部だが、いざ転職を考えると知識や情報を得られる場所がわからず、困ってしまうだろう。職業として農業に興味を持った方に見てほしいのが、(一社)全国農業会議所が運営するポータルサイト【農業をはじめる.jp】だ。「もう少し深く就農について知りたい」「実際に体験したい」といった内容を分かりやすく紹介してくれる。

  農業をはじめる.jpとは
「農業をはじめる.JP」は、日本中の就農に関する情報が集まるポータルサイトで、農業に興味を持った人や、これから農業を始めたい人たちのために必要な情報を集めることができる。就農に向けて具体的な行動を起こすために、農林水産省や新規就農相談センターの情報だけでなく、関係省庁や自治体、JAグループ等が行っている支援やサービスを紹介。さらに、自治体や民間企業、団体等から提供された農業体験や農業研修、就農相談会等に関する情報が掲載されている。

人生100年時代ともいわれ、ますます多様化していく働き方。環境がさらに便利になり整ったことで、まだ自分が想像してなかった新たな働き方に出会う可能性が広がっている。自分のライフスタイルを振り返り、新たに「農業」というジャンルへ挑戦してみるのもいかがだろう。

農業についてもっと知りたい? 詳細はこちら!

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