武岡：社内ではどのような声があったのですか。

叶：JR東日本の収入はその当時1日で50億円くらいありました。現金取引でそれだけあるJRで何故難しい信用取引をするのかという声、債権管理のような難しい仕事は君たちにできるわけがないという声もありました。でも自分たちでやらなければ、新しいビジネスの芽を自ら放棄することになる。難しいからこそやりがいがある。結果的にはJR東日本にとって新しいサービス拡大にはなるという気持ちが強くありました。最初は、今まで使えなかった駅でカードが使えるというだけで、すぐに100万枚、200万枚会員が獲得できると楽観的に考えていました。ところが、発足したカード事業部がクレジットカードの発行に取り組みましたが、2年たっても20万人くらいしか集まりません。私はプロジェクトチームをつくってカード事業をスタートさせるところまでを担当し、その後JR東日本仙台支社の営業部長に赴任していましたが、このまま事業を続けるか、潔く撤退するかを判断するために、2代目のカード事業部長に着任しました。

武岡：ご自分で立ち上げた事業の責任者として再び戻られたのですね。どのような判断をされましたか。

叶：もちろん、私はカードの可能性を信じようと言い出した張本人です。とにかく死に物狂いで100万人集めることにしました。鉄道会社の原点に返り、駅に着目し、「駅プロモーション」と称して東京駅や新宿駅など5つの大きな駅で会員募集チームをつくりました。派遣会社とJR東日本の社員とのチームで、毎日、駅で声を張り上げ会員募集の案内をしました。最初からうまくいったわけではありませんが、そのような活動を駅で続けていくと、様々な人の共感を得て「私も」と手伝ってくれるようになりました。一番大きく、うれしかったのがJR東日本の社員の協力です。家族や友人にカードを勧めてくれました。その力もあって1年半近くでカード会員を100万人にすることができました。ただ、この時点ではカードが使えるのは駅や駅ビルとごく一部の街の加盟店だけで、お客様にとってはとりあえず入ってはみたが使えるところが少ないカードでした。そこで、100万人のカード会員を集めたことを契機に更なる成長を目的として、UCさんやJCBさんとの提携をお願いし、それが実現しました。最初のステップがカード会員を100万人にすることだとしたら、第2のステップが、インターナショナルカードとして、多くの加盟店でビューカードが使えるようになったこの提携ですね。そして、第3のステップが電子マネーSuicaです。Suicaを搭載したということで鉄道の乗車券機能が付くことになりました。これは今でもビューカードの最大の強みだと思います。このような変遷でビューカードが誕生し、現在に至ります。最初はやや無謀な取り組みかとも思いましたが、駅を利用する方々のより豊かな生活に貢献するとの信念で取り組んだという意味では正解だったかなと自負しています。おかげさまで会員数は順調に増え、もうすぐ500万人になります。

武岡：鉄道系のクレジット会社だからこそお客様に対してできるサービスがあると思いますが、それはどのようなことでしょうか。

叶：ビューカードの一番大きな特徴は、先ほど申し上げたSuicaの搭載です。このSuicaも券売機等でチャージをして使うというだけでなく、改札に入る時に残高があらかじめ設定した金額を下回っていると自動的にチャージされる「オートチャージ機能」をつけています。鉄道を利用される方は、必ず改札口を通りますから、ここで必要なチャージができる。鉄道系ならではのサービスだと思います。また、Suicaのチャージに関しては、オートチャージはもちろん券売機やVIEW ALLTE(ATM)でのチャージでもポイントが通常の3倍還元されます。

武岡：ポイント3倍というのは魅力的ですね。

叶：ありがとうございます。Suicaのチャージに限らず、みどりの窓口などJR東日本の特に鉄道関連でのご利用の場合は通常0.5％のポイント還元のところ、3倍の1.5％にしています。これはかなりの特典だと思います。他には、ゴールドカードのお客様のための専用ラウンジを東京駅に造りました。こちらも引き続きお客様のご期待に応えられるように努力していきたいと考えています。

武岡：加盟店からの期待には今後どのように応えていこうとお考えでしょうか。

叶：例えばビックカメラさんでは、クレジットカード機能、Suica機能に加えて、ビックポイントというビックカメラ独自の特典をのせた提携カードを発行しています。また、ルミネさん等とも割引特典をのせたカードを発行しています。これは、加盟店がビューカードを自社の販売促進ツールとして利用するとともに、独自の特典を付加したいという期待に応えたものです。また、ビックカメラやルミネのセール時に来店されたお客様には、現在はカードを持っていないものの、カードを今日使って特典を受けたいというご希望があり、加盟店からも、そのようなカードを発行したいという強いご要望を頂きました。これは、カード即時発行の期待ということになりますが、こういったご要望を受けて、当社では、審査体制の充実を図り、審査精度を落とすことなく時間を大幅に短縮することで、即時発行に対応できるようになりました。