株式会社ビューカードは、JR東日本という鉄道会社を母体に独自の発展をしてきたクレジット会社です。交通系のクレジット会社として、現在のクレジット業界の置かれている状況や個社としての取り組みについて、日本クレジット協会の監事でもある同社の叶篤彦会長にお話を伺いました。

クレジット業界の現状と取り組み

武岡:まず、クレジット業界を取り巻く環境について、お話をお聞きしたいと思います。政府は、2020年の東京五輪開催等に向けまして、キャッシュレス化を推進する施策を掲げていますが、これについてどのようにお考えですか。

叶:東京五輪を見据えた「日本再興戦略 2016」で政府が掲げている課題は、いずれも重要なものでありますが、内容は多岐にわたります。「観光立国」などもその1つで、これは当社の母体であるJR東日本でも、券売機の工夫や多言語による丁寧な案内の表示などに取り組んでいるところです。その政府施策の中で、日本が取り組むべき課題の1つとして、クレジットカードを含めたキャッシュレス化の推進を掲げていただいたのは、長く業界に携わってきた私としても大変光栄なことだと考えています。今の時代は「第4次産業革命」といわれていますが、その中心が「IoT(インターネット・オブ・シングス)」、つまりあらゆるものがインターネットを介してつながった様々な可能性を持つ概念です。クレジットカードもインターネットとは不可分で、まさにIoTそのものであり、クレジットカードの持つ将来性が認められ、期待されたものと思っています。

武岡:そのような中、クレジット業界ではクレジットカードのIC取引の推進などのセキュリティ対策を進めています。このことについてはどのようにお考えでしょうか。

叶:キャッシュレス化の推進は、「取引の安全」と両輪で進めなければなりません。セキュリティ対策は、日本を世界で一番カードが安全・安心に使える国にしようとする取り組みです。お話のあったIC取引の推進はその1つですが、IC取引を推進するためには、クレジットカードのIC化と並行して、クレジットカードを取り扱う加盟店、JRグループで言えば、みどりの窓口での端末機や券売機などをICカードに対応するものにしなければなりません。 なお、海外の方々が日本に来られた時のアンケートでは、日本でのクレジットカードの利用はセキュリティ面が心配だという声があります。海外、特に欧州やアジアではIC取引が当たり前になっている実態があり、この面からの不安のようです。これらの不安を解消するためにもIC取引を推進する必要があると考えます。また、クレジット取引で扱う情報は、お客様の属性やカード番号など多岐にわたります。セキュリティ対策は、IC取引といったカードの利用場面だけではなくて、情報の保護の観点からも対策が必要です。当社では、昨年12月に、国際的な情報セキュリティの基準である「PCIDSS」にシステムだけでなく、バックオフィスも準拠させました。クレジット各社が、早い時期にPCIDSSに準拠することはもちろん、カードを取り扱う加盟店も情報セキュリティの体制を整えることが重要だと思います。

交通系クレジット会社としての独自の取り組み

キャスター 武岡智子氏

武岡:次に御社に関することをお聞きします。御社は、JR東日本のカード関連部門が独立して誕生した会社と聞いております。なぜJR東日本という鉄道会社がクレジットカード事業に乗り出したのか、その経緯と現在の状況についてお聞かせいただけますか。

叶:JR東日本が発足した時に、様々な新しい事業に取り組みました。例えば携帯電話事業、Jリーグのチーム(現ジェフユナイテッド市原・千葉)などです。クレジットカード事業もその中の1つでした。国鉄時代にもJNRカードというカードがありました。これは他のクレジット会社と提携したカードです。当時は、駅の窓口のほとんどがクレジットカードに対応していなくて、要するに駅ではクレジットカードが使えないのが一般的でした。日本全体でもまだまだクレジットカードが普及していなかったと記憶しています。私が昭和50年代の初めに渡米した時、そこでは現金やトラベラーズチェックよりも盛んにクレジットカードが使われていました。また、クレジットカードがその人のIDとして利用されていました。キャッシュの代わりのクレジットカードというだけでなく、カードを持っている人の本人確認をするというような機能を実感したわけです。そして、近い将来日本もアメリカのようなカード社会になるだろう思いました。これはJR発足当初に私がいた経営管理部の上司も含めて感じたことです。JR東日本の新事業として、クレジットカードについて考えるようになりましたが、やるとしたら、これまでのJNRカードのように、他のクレジットカード会社との提携では、お客様の購買情報等に合わせたマーケティングなどができない、どうせやるなら「直営」だと思いました。ただし直営となると、カードの発行から加盟店の獲得、お客さま募集、信用供与、債権の管理、オペレーションシステムの構築などを全部自前でやらなければなりません。社内的には相当異論がありました。