――本作では、コストを落とすためにどのような工夫が施されていますか?

八木監督「一番大きいのは、ミニチュアを使っているところですね。普通は背景も何も、すべてCGで作るんですけど、あえてミニチュアを使うことで、コストも削減できるし、作品のクオリティを上げることもできる。実際、これまでに観たことがないような絵ができあがるんですよ。ハリウッドのCGアニメは、どちらかというと、絵なのかリアルなのか、その中間ぐらいを狙っていると思うのですが、それよりももう少しリアルな、写真のような質感を出すことができる。木なら木、石なら石の質感をちゃんと出せるので、フルCGで作るよりも温もりのある絵作りができる。そんな温もりの中で、フィギュアのような人形が動いたら面白いじゃないですか。子どもの頃にやった人形遊び、僕の世代だとミクロマンとかになるんですけど(笑)、そういった世界を映像として表現できる。子どもの目には、本当に夢の世界だったりするんじゃないかと思います」

――背景をミニチュアにすることでコストが下がるだけではなく、クオリティも上げられるというのは面白いポイントだと思います

八木監督「ミニチュアは、作り物とはいえ、リアルに存在しているわけじゃないですか。それだけのリアリティをCGで作るとなると、すごく大変な作業になる。特に部屋などの限定された空間であれば、CGよりも、実際にブツを作って撮影したほうが、リアルな絵に仕上がりますし、何より時間もすごく短縮できる」

――角度やライティングなども自然な感じで作れますよね

八木監督「CGで絵を作るとなると、実際にどのような絵になるかは、1時間ぐらい待たないといけなかったりするのですが、ミニチュアなら見た目で指示できるので、すごく楽です。そして先にも言いましたが、ミニチュアとはいえ、やはり本物なので、リアリティという点では絶対に負けない」

――そういった手法はハリウッドなどではあまり使われていないのでしょうか?

八木監督「ないわけではないと思います。コマ撮りの作品なんかは、もちろん実際に全部ブツを作って撮っているわけですから。ただ、背景はミニチュアで、キャラクターはCGという手法はあまりないかもしれません。実はこの作品を作る前、『鬼武者3』という作品のオープニング映像を、山崎のディレクションで、僕がCG監督としてやらせてもらっていたのですが、そのときもミニチュア背景にCGを合成するという手法を使っています。ただ、そのときは5分の映像を作るのに、1年ぐらい掛かってしまいましたが(笑)」

――やはり試行錯誤の時間が長かったのでしょうか?

八木監督「CGキャラとミニチュアセットを合成するという手法は、本当にそのときが初めてで、どういったワークフローで制作するか、その組み立てに一番時間が掛かっていると思います。その経験を踏まえて、今回の作品では、いかに量産するかが課題になりました。1時間27分の作品を3年という期間で作る。それでできるかどうかもわからない。実際、3年では足らなかったのですが(笑)、『鬼武者3』の経験に、新しい技術を取り入れることで、なんとか仕上げることができました」

――もし今回、ミニチュアセットを使わなければ、どれくらいの期間が必要になったと思いますか?

八木監督「おそらく、1年半か2年ぐらいは余計にいただきたい、という感じになったと思います。とにかく五里霧中で、少しずつ育て上げていった作品なので、ちゃんと完成できて本当に良かったと思っています」

――映画館での上映では、3D立体視にも挑戦なさっていますが、そこではまた別の苦労があったのではないでしょうか?

八木監督「実は企画当初は、3D立体視にするという予定はまったくなかったんですよ。『アバター』が上映される前だったので(笑)。それで普通のCG作品として作っていたところに、アバターショックがあって、3D立体視にしてみようという話がでてきて……。なので、ちょっと大変だなって」

――3D立体視の作品にするためには、それにあわせた調整が必要になりますよね?

八木監督「3D立体視を実現するためには、3Dで見せたいカットに、それなりの時間が必要になるんですよ。あまり時間が短いと、観ている方が立体だと認識できないので。なので、カットによっては、もともとあったものよりも、少し時間を延ばしているところもあります」

――あまり速いカットは3Dとして認識できずに過ぎ去ってしまいますからね

八木監督「特にアクションシーンのように、速いカット割りは辛いです。ただ、『フレンズ~』の場合は、もともと立体視に向いている作品だったんですよ。カット割が比較的ゆるやかなので。とはいえ、それは最初から狙っていた部分ではなかったので、結果論なのですが、そういう組み立てで良かったなと思いました」

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