さらに、NHKがドラマを「原作に忠実」かつ「クオリティーファースト」で制作しやすいことも漫画・小説のドラマ化を進められる理由の1つ。日本テレビの『セクシー田中さん』が悲しい結末を招いたことが記憶に新しい中、民放はこれまで以上の原作者配慮が求められ、かつてのような「視聴率ファースト」での脚色やキャスティングが難しくなっている。
プロデューサーが同じように面白い漫画や小説を見つけたとしても、時間・予算・人員をしっかりかけて制作でき、放送回数などの自由度が高いNHKのほうが原作者の理解・信頼を得やすく、「ドラマ10」ならなお歓迎されやすいのは間違いない。
前述したようにかつて「ドラマ10」は女性、なかでも主婦層をターゲットに据えたドラマ枠だったが、現在そのイメージは薄れている。特に火曜22時台に復帰した22年以降はターゲットにとらわれすぎず、原作の良さを生かし、質を高めることを優先させてきた。
そしてこのところ顕著なのが、BSで先行放送された作品の編成。『拾われた男 LOST MAN FOUND』、『しずかちゃんとパパ』、『満天のゴール』、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』、『舟を編む』は、「NHK BSでの放送から2か月~1年あまりが過ぎたころ『ドラマ10』で放送する」という編成を続けている。
NHK BSのドラマは総合テレビ以上に「原作に忠実」かつ「クオリティーファースト」で限られたターゲットに向けて制作できるのが強み。さらに「NHK BSでの好評だったものをピックアップして地上波の総合テレビで放送する」という編成が可能であり、そんな選ばれた作品が「ドラマ10」の評判を高めている。
もう一つ触れておきたいのが、「ドラマ10」ならではのファンサービス。『正直不動産』は最終話翌週に特番『――感謝祭』を放送し『正直不動産2』開始前からイベント『正直不動産展』を開催した。『しあわせは食べて寝て待て』も、最終話目前に特番『――ありがとうSP』を放送するなど、視聴者サービスに注力していることも民放ではほとんど見られない強みとなっている。
TBS火曜ドラマへのアドバンテージ
特筆すべきは、ここまであげてきた「ドラマ10」の強みがクールを追うごとに増していること。原作選び、質の追求、キャスティングなどの精度がさらに上がったことで、複数の作品を見ている人ほど「多くのドラマ枠がある中、『ドラマ10』が際立って見える」という印象につながっている。
火曜22時台にはTBSの「火曜ドラマ」も放送されているが、こちらは若年層を意識した企画やキャスティングがベースのドラマ枠だけに共存が可能。ただ、今春の『しあわせは食べて寝て待て』(「ドラマ10」)と『対岸の家事~これが私の生きる道』(「火曜ドラマ」)は、「女性たちの生き方を描く」というコンセプトがバッティングしていた。
多部未華子、江口のりこ、ディーン・フジオカら人気俳優を並べた後者のほうが視聴者は多かったかもしれないが、ネット上の熱が高かったのは前者だろう。やはりコンセプトが近いときは視聴率の縛りが少なく、編成・制作の自由度が高いNHKにアドバンテージがあり、「わかりやすさ」「話題性」「インパクト」らを踏まえなければいけない民放は苦しい。実際、『対岸の家事』は専業主婦を「絶滅危惧種」として描き、育休中の男性が1歳の娘に習い事を詰め込もうとするシーンなどを疑問視する声が少なくなかった。
だからこそ「ドラマ10」は、そんなNHKならではのアドバンテージを生かした現在の編成・制作スタンスを続ける限り、今後も世代・性別不問でジワジワと支持を広げていくのではないか。