つい数年前まで「NHKのドラマ」と言えば朝ドラと大河ドラマで、その他は「放送されていることすら知らずに終わっていた」と言われる作品が少なくなかった。

実際、ゴールデン・プライム帯の視聴率は民放のドラマに遠く及ばず低迷。コロナ禍を経てドラマ視聴ツールとして定着したTVerで見られないこともあって、ネットニュースやSNSのコメントも散発的なものに終わり続けていた。

しかし、そんな風向きを変えつつあるのが火曜22時台で放送されている「ドラマ10」。特にここ数年は「クールごとに質が上がっている」という声があがるほど良作を連発し、17日スタートの『舟を編む~私、辞書つくります~』にも期待が集まっている。

一方、朝ドラは視聴者の目が厳しくなり、否定的な声に悩まされることが増え、大河ドラマは「戦国と幕末」のマンネリを避けるために試行錯誤の最中。どちらも看板枠だからこその難しさが増す中、「ドラマ10」は“ハズレなし”の状態を続けて、今や「NHKのドラマ」というブランドを支えはじめている。

なぜ「ドラマ10」は急速に支持を集めるドラマ枠になったのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 『舟を編む~私、辞書つくります~』第1話より (C)NHK

    『舟を編む~私、辞書つくります~』第1話より (C)NHK

金曜22時台への移動で視聴者が混乱

まず「ドラマ10」の歴史から振り返ると、事実上のスタートは2010年(89~90年にも同名のドラマ枠はあったが、以降とは事実上の別物)。

記念すべき1作目は『八日目の蝉』が放送され、同年には『セカンドバージン』が話題になり、「ドラマ10」というドラマ枠が早くも認知されはじめた。翌11年には母娘の代理出産を描いた『マドンナ・ウェルデ~娘のために産むこと~』、13年には上戸彩と飯島直子が元服役囚を演じた『いつか陽のあたる場所で』、14年には原田知世が1億円を着服する主婦を演じた『紙の月』など時折、話題作を送り出し、「主婦層に向けたドラマ枠」という印象がドラマフリークを中心に浸透した。

しかし、NHKは16年に「ドラマ10」を金曜22時台に移動し、視聴者を混乱させてしまう。17年の『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』、18年の『透明なゆりかご』、19年の『トクサツガガガ』など週末の放送らしく、扱う作品のジャンルを広げ、話題性より質の高さを押し出すような作品が増えた一方で、「知る人ぞ知るドラマ枠」となってしまった感があった。

この間、放送50年を超える同じ金曜22時台の「金曜ドラマ」(TBS系)に視聴率や話題性などで大差をつけられる状態が続き、NHKは22年に火曜22時台への復帰を決断。そこから、『正直不動産』、『拾われた男 LOST MAN FOUND』、『大奥(Season1)』、『しずかちゃんとパパ』、『大奥(Season2)』、『正直不動産2』、『燕は戻ってこない』、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』、『宙わたる教室』、『東京サラダボウル』、『幸せは食べて寝て待て』と質の高い作品を続けてジワジワと支持を伸ばしてきた。

では、22年の火曜22時台に復帰以降、どんなことが支持の拡大につながったのか。

大半が漫画と小説のドラマ化

あまり知られていないが「ドラマ10」の作品はオリジナルが少なく、そのほとんどを漫画と小説のドラマ化が占めている。

火曜22時台復帰以降では、漫画原作が『正直不動産』、『大奥(Season1)』、『大奥(Season2)』、『正直不動産2』、『東京サラダボウル』、『幸せは食べて寝て待て』。小説原作が『育休刑事』、『悪女について』、『満天のゴール』、『天使の耳~交通警察の夜』、『燕は戻ってこない』、『宙わたる教室』。また、“自伝的エッセイ”が原作の『拾われた男 LOST MAN FOUND』、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が放送された。

とかく誤解されがちだが、現在民放各局のゴールデン・プライム帯は原作ものよりオリジナルが主流。放送収入が下がる中、映画やスピンオフを含むシリーズ化、海外を含む配信、イベント、グッズ、ゲームなどのIP(知的財産)ビジネスで稼ぎやすいオリジナルが求められている。

一方、「ドラマ10」は、さまざまなジャンル、テーマ、舞台の漫画・小説を狙いすましたかのようにドラマ化。たとえば、定時制高校の科学部が起こす奇跡を描いた『宙わたる教室』、外国人の事件をフィーチャーした刑事ドラマ『東京サラダボウル』、膠原病の主人公が薬膳との出会いで変わっていく姿を描いた『しあわせは食べて寝て待て』と、ここ3クールは視聴率獲得が難しそうで「民放では企画が通らない」であろう作品が続いた。

また、『正直不動産』と『大奥』は早い段階で続編が放送されたが、これは当初からシリーズ化ベースの制作だから。これも視聴率の獲得が続編制作の条件になる民放では難しい編成戦略であり、続編の早期実現は最高のファンサービスとなり、「ドラマ10」自体のブランド向上につながっている。