7月が始まったばかりであるにもかかわらず、夏ドラマの第1話が次々に放送されている。

これまで6月25日に『あの子の子ども』(フジテレビ/カンテレ制作)、『星屑テレパス』(テレビ東京)、26日に『青春ミュージカルコメディ oddboys』(テレ東)、27日に『量産型リコ』(テレ東)、28日に『笑うマトリョーシカ』(TBS)、『晩酌の流儀3』(テレ東)、7月1日に『海のはじまり』(フジ)がスタート。

さらに、3日に『科捜研の女 season24』(テレビ朝日)、『新宿野戦病院』(フジ)、『ひだまりが聴こえる』(テレ東)、4日に『ギークス~警察署の変人たち~』(フジ)、5日に『ビリオン×スクール』(フジ)、『私をもらって~追憶編~』(日本テレビ)、6日に『青島くんはいじわる』(テレ朝)、7日に『ブラックペアン シーズン2』(TBS)、『降り積もれ孤独な死よ』(日テレ)、8日に『マウンテンドクター』(フジ/カンテレ制作)、『夫の家庭を壊すまで』(テレ東)、9日に『西園寺さんは家事をしない』(TBS)、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)、『どうか私より不幸でいてください』(日テレ)と、7月上旬で大半の第1話が放送される。

春ドラマがまだすべて終了していない6月の段階から夏ドラマの第1話が放送されているのだから、いかに早いかが分かるのではないか。この背景には何があるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • (左から)『あの子の子ども』桜田ひより、『笑うマトリョーシカ』水川あさみ、『海のはじまり』有村架純

    (左から)『あの子の子ども』桜田ひより、『笑うマトリョーシカ』水川あさみ、『海のはじまり』有村架純

早めに仕掛けて「ヒット作」の印象を

これだけスタート時期が早いからには、その背景は1つではないだろう。

まず今夏の前提として踏まえておかなければならないのは、26日に開幕するパリオリンピックの存在。8月11日までの期間中は、まさに夏ドラマの真っただ中であり、連ドラにとっては「自局の放送で中断を余儀なくされる」、あるいは「他局の放送で視聴者を奪われる」というリスクがある。そのため、「できるだけ早い時期にスタートさせて視聴者の心をつかんでおいてからパリオリンピックを迎える」のがセオリー。

そもそも夏ドラマはオリンピックがない年でも「夏休みや大型イベントなどがあって視聴習慣が付きにくい」と言われ、「7月下旬までに2~3回放送して視聴者を引きつけておこう」という編成がよく見られる。

また、世間には「8月いっぱいで夏や夏休みが終わって季節がガラッと変わる」というイメージがあるため、夏ドラマは他のクールよりも物語の展開が難しい。さらに秋の大型改編を控えていることもあって、「できるだけ早めに始めて、9月の早めに終わらせる」という編成戦略がしばしば見られる。

いずれにしても、夏ドラマは他のクール以上に第1話から第3話の序盤で視聴者を引きつけることの重要性が高く、「他作に先駆けて放送したい」「このドラマだけ遅れるわけにはいかない」という意識になりやすい。ただ、他作も早いスタートを選ぶことは分かっているため、「いかに目立って興味を引くか」「いかに話題を集めるか」が求められている。

そのため近年、制作サイドの間で浸透しているのは、「配信再生数、X(Twitter)のトレンドランキング、TVerのお気に入り登録数などで早めに好結果を出して報じられておきたい」という意識。特に配信再生数は早くスタートさせたほうが「初回200万回突破」「第1・2話累計500万回突破」「ここまでの放送で1000万回突破」などのポジティブな数字を発表しやすく、世間に「ヒット作」「面白い」という印象を与えられる。

「ドラマのネット記事はエンタメ全ジャンルの中で最も多く、SNSの動きも活発」と言われ、だからこそ各クールの“第1ヒット作”になることの重要性は増す一方。最初にヒット作とみなされたドラマに他作が追い付くのは難しく、好評でも2番手扱いにされやすいところがある。実際、昨夏のヒット作『VIVANT』(TBS)に対する『ハヤブサ消防団』(テレ朝)がそんな形になり、視聴者の評判は負けていなくても話題性で圧倒され、陰に隠れるような形になってしまった。