今春の番組改編では「音楽番組の復活」「長寿番組のレギュラー放送終了」などが大きく報じられたが、なかでも放送前からネット上の反応が芳しくなかったのが、報道番組やスポーツニュース番組へのタレント起用。
報道番組では『news every.』(日本テレビ)のキャスターに桐谷美玲と斎藤佑樹、『news zero』(日テレ)のパートナーに波瑠、板垣李光人、シシド・カフカが起用された。さらに、スポーツニュースでは8年ぶりに復活した『すぽると!』(フジテレビ)に“キャプテン”として芸人の千鳥が出演し、ネット版の『すぽると! onTVer』にもアイドルの黒嵜菜々子が登場している。
しかし、これらの起用が発表されるとネット上には「不要」「見ない」などの否定的な声が少なくなかった。その主な理由は「キャスターと専門家以外はいらない」「それならもっとニュースやスポーツを掘り下げてほしい」というものだが、制作サイドはこのような反応が出ることくらい分かっていただろう。では、なぜ否定的な声があることを承知の上でタレントを起用するのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
タレント側も新たなイメージを加えられるチャンス
報道やスポーツの専門家ではないタレントを起用する理由は、シンプルに「コア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得」で間違いないだろう。話題性やビジュアル面のメリットを狙っているのは確かであり、やはりタレントの影響力はまだまだ大きい。ただ、それだけで継続視聴してもらうことは難しいだけに、彼らには視聴者に近い存在となり、視聴者目線でのコメントが求められている。
実際、桐谷は「20代のころに報道番組に携わっていて、当事者意識を持っていくのは本当に大切なことなんだなと教えてもらって勉強しました。30代になり、結婚して出産して、毎日日々子育て、そして主婦業をしていく中で、新たな目線で生活者の1人としてニュースを伝えていきたい」などとコメントしていた。
また、桐谷は家事に役立つ節約や時短テクニックを主婦目線から紹介する「キリモリっ!」というコーナー担当していることからも、それが分かるだろう。桐谷にとっても「庶民派」「子育て中の主婦」という新たなイメージを加えられるチャンスであり、意気込みが伝わってくる。
「ライト層向け」に舵を切る背景
しかし、報道番組やスポーツニュースの視聴者には、「自分が知らない専門的な視点や情報を求めたい」という目的の人も多く、必ずしも制作サイドの狙いや桐谷の姿勢とは一致しない。しかもネット上で批判する熱心な視聴者ほどその傾向があるだけに、『news every.』や『news zero』はそれらの層ではなく「ライト層向けの報道番組を選んだ」というニュアンスが感じられる。
これは裏を返せば、報道番組やスポーツニュースはそれだけ「『好きな人が見る』という嗜好性の高いコンテンツになっている」ということだろう。ネットで大量の情報が得られる中、報道番組やスポーツニュースは以前のように「年齢性別や趣味嗜好を問わず多くの人々が見るもの」ではなく、「そのジャンルに強い関心がある人々が見るもの」という感があるなど、視聴者の絶対数が以前よりも減ってしまった。
ただそれでも、「強い関心のある人々も、ネット配信の有料コンテンツとして見るほどの需要はない」だけにテレビ局としては、やはり放送で稼いでいかなければならない。だからこそ、民放地上波の報道番組やスポーツニュースは、「できるだけコア層の個人視聴率を獲得する」というライト層向けに舵を切らざるを得ないところがある。
もちろん、ライト層向けでも報道番組やスポーツニュースは一定以上の専門性を求められるだけに、タレントがメインになることはない。だからこそ桐谷、波瑠、板垣、千鳥らの立ち位置はアクセントに留まっている。