ただ、「松本がトークを広げ、オチを担う」という構成・演出が多かった番組は大きく変えなければいけないはずだ。しかし、松本が担ってきた役割を誰か1人に引き受けさせるのはあまりにも負担が重く、既存の出演者や吉本興業の後輩芸人から2~4人程度に分散させるのが現実的だろう。
とは言え、その構成・演出の調整という点は楽観的でいいように見える。かつてビートたけしが事件や事故で不在だったときも、島田紳助が芸能界を引退したときも、多少の問題はあっても番組が破綻することはなかった。
笑いのスキルという観点でも、「芸人たちがこれまで松本がいるから発揮する必要性の少なかったものを出せばいい」のだから無理な話ではないだろう。むしろ、多くの芸人が秘めたスキルを発揮できる機会が増えるかもしれない。やはり制作サイドが“松本頼り”だったところから、いかに頭を切り替え、試行錯誤できるかにかかっている。
その一方で難しいのは特番、とりわけ賞レースの『M-1グランプリ』(ABCテレビ)と『キングオブコント』(TBS)。年に一度きりの特別な番組だからこそ、誰もが認める権威が必要であり、松本不在の影響は計り知れないものがある。
事実、2010年を最後に5年間中断していた『M-1グランプリ』が復活した2015年の放送では、審査員を最多9人の歴代王者が務めたものの不評に終わり、翌年から松本、上沼恵美子、オール巨人ら大御所中心の布陣に変更された。
また、2月3日放送の『IPPONグランプリ』(フジ)はバカリズムがチェアマン代理を務めるが、ネット上には「バカリズムはプレイヤー側で見たかった……」という不満の声も少なくない。ただ、この玉突き人事のようなキャスティング調整によってスタッフと芸人の真価が問われる形になるだけに、業界の活性化につながりそうな感もある。
「芸人のカリスマ化」が難しい時代
かつてのお笑いBIG3(タモリ、ビートたけし、明石家さんま)、ダウンタウン、とんねるずがそうだったようにテレビ業界は、「トップ芸人が自ら笑いを取る形で盛り上がってきた」という歴史がある。
その意味で現時点でのトップ候補に挙がるのは、千鳥と麒麟・川島明あたりだろう。しかし、すでにスケジュールは「ほぼ埋まっている」と言われるほど多忙である上に、良くも悪くも「それなりの結果が見えてしまう」という難しさがある。これはバナナマンやサンドウィッチマンらも同様なだけに下の世代から抜てきしたいところだが、それも簡単ではないだろう。
実際、長きにわたって『M-1グランプリ』や『キングオブコント』などの賞レース王者からゴールデン・プライム帯のメインを務められるほどのスターは生まれていない。それは賞レースのファイナリストである、かまいたち、モグライダー、見取り図、ニューヨークの4組を集めた『ジョンソン』(TBS)の不振からもうかがえる。
さらに、チョコレートプラネット、霜降り明星、ハナコを立てた『新しいカギ』(フジ)は、3組の“個”を押し出したコントメインの構成・演出から、学校かくれんぼなどのオリジナリティの高い企画に変えて巻き返した。「令和の今、いかに松本のような“個”を前面に押し出した構成・演出が難しいか」が分かるのではないか。
お笑いに限らず音楽、スポーツなどエンタメ全般の好みが多様化・細分化した現在、松本のような芸人を新たに発掘・育成するのは難しいだろう。だからこそ近年はテレビ番組だけでなくYouTube動画なども含め、「誰がやるかより何をやるか」という企画の重要性が増していて、そこにヒントがある。
松本に近い芸人のカリスマ化が難しい一方で、ヒット企画を連発すればクリエイターはカリスマ化できるのではないか。芸人たちのスキルや奮闘は計算できるだけに、「作り手が前に出てヒット企画を放ち、存在感を漂わせてカリスマ化できるか」が鍵を握っているように見えてならない。
現在のバラエティトップは、コア層(主に13~49歳)の個人視聴率を獲得し、ナンバーワンの配信再生数を叩き出し続ける『水曜日のダウンタウン』。同番組の演出を手がけるTBSの藤井健太郎は『クイズ☆正解は一年後』『オールスター後夜祭』なども含めて、バラエティ好きの中ではカリスマ化しているが、彼の存在感が一般に浸透する。あるいは2年連続「TVerアワード バラエティ大賞」を獲得中の『水曜日のダウンタウン』を超える番組が現れたとき、松本不在のバラエティに光が差すのかもしれない。