• 小芝風花

    『あさが来た』で「第24回橋田賞」授賞式に登壇した小芝風花=2016年

しかし、『魔女の宅急便』での華々しいデビューから昨年の大ブレイクまで約9年もの歳月を要したように、「小芝風花は若くして苦労も経験した叩き上げの女優」というイメージのほうがしっくり来るのではないか。その間ネット上の声を見続けてきたが、小芝に関するコメントは常に優しく穏やかなものが大半を占めていた。

これは視聴者の「いつ見ても感じのいい子、頑張っている子が、やっと評価されてきた」という微笑ましい目線の多さを物語っている。

なかでも特筆すべきは、同性からの支持。他の同世代女優と比べても明らかに女性層の支持が厚く、しかも年齢層が幅広い。それは小芝が「女性層の視聴者がメイン」と言われる平日放送の連ドラで重宝されていることからも分かるだろう。

現在、民放各局はコア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得に向けて番組制作を進めているが、『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の「グルメチキンレース・ゴチになります!」での姿も含めて、小芝のような年齢性別を問わず好感度の高い女優は多くない。それでいてド真ん中に立つ主演だけでなく、“男性主演を輝かせる2番手のヒロイン”を務められることもオファーラッシュの理由と言っていいだろう。

もちろん演技力も評価されてきた。業界内では2017年の『マッサージ探偵ジョー』(テレビ東京系)あたりからコメディエンヌとしての才能を見いだされ、それが2019年の『トクサツガガガ』『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』(テレ朝系)、2020年の『妖怪シェアハウス』(テレ朝系)、『書類を男にしただけで』(TBS系)につながったと見られている。

また、『トクサツガガガ』『モコミ』『彼女はキレイだった』などでは、コンプレックスを持つ“陰キャラ”を演じつつ、各話のクライマックスで爆発的なパワーを見せてギャップを感じさせたことも評価される理由の1つ。小柄で物静かな印象を与えながら、その上で秘めたパワーを解き放つ瞬発力には定評がある。実際に『波よ聞いてくれ』では、そのパワーを全開にした演技を見せて称賛を集めたばかりだ。

  • 小芝風花

    『大奥』に主演 (C)フジテレビ

『大奥』歴代名女優に肩を並べるか

そんな小柄で物静かなイメージと底知れないパワーのギャップが生かされそうなのが『大奥』。

小芝が演じる五十宮倫子は皇室の血を引く公家の娘で、「人を疑うことのない純真で優しい性格の持ち主」というキャラクターも小芝そのものに見える。しかし、朝廷と幕府の橋渡しとして次期将軍・徳川家治と政略結婚したことで数々の過酷な試練に見舞われていく……という主人公にパワーが求められる筋書きも同様であり、ハマリ役と言っていいだろう。

小芝が「これまで名だたる方々が演じられてきた作品なので、とても身が引き締まる思いでした」とコメントしていたように、2000年代に放送されたフジ『大奥』の歴代出演女優はそうそうたる顔ぶれ。菅野美穂、浅野ゆう子、池脇千鶴、安達祐実、木村多江、水川あさみ、野際陽子、松下由樹、高島礼子、瀬戸朝香、内山理名、小池栄子、高岡早紀、中山忍、貫地谷しほり、余貴美子、江波杏子、藤原紀香らが、こん身の芝居を見せた。

その顔ぶれを踏まえつつ、「時代が令和に変わり2020年代に入った今、誰が『大奥』の主演女優にふさわしいか」と考えたとき、小芝に白羽の矢が立つのは自然なことに見える。

その他でも、『波よ聞いてくれ』で見せた滑舌の良さ加えて、ナレーション起用も多い声の魅力。逆にその声を出さずに表情や佇まいだけで心の機微を表現する繊細な演技などの技術的な評価を耳にしたことも何度かあった。

ここまで挙げてきたように、各局の制作サイドにしてみれば、「苦労しながら主演の座をつかみ取るなど好感度抜群」で、「そこからギャップと瞬発力を生かした演技ができる」。そんな経験豊富な女優がまだ26歳なのだから「ぜひ起用したい」と思うのは自然な流れではないか。

  • 小芝風花

    (C)フジテレビ