次に連ドラ制作の背景で見逃せないのは、世帯視聴率狙いで刑事・医療・法律のドラマだらけだった10年代の暗黒期を抜け、「20年代に入ってからジャンルの多様性が徐々に回復している」こと。

実際、今夏はジャンルさえ分からない『VIVANT』(TBS)のほか、ビーチ、離島、山間の集落、高校などが舞台の作品が放送され、今秋もクリスマスイブの1日を描く『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジ)のほか、大学、レストラン、高校の野球部が舞台の作品など、さまざまなジャンルが放送されている。

さまざまなジャンルの作品が放送される中、ジワジワと増えているのがホームドラマ。今秋では、小池栄子の『コタツがない家』と板谷由夏の『ブラックファミリア』、さらにこのところ助演出演が増えていた菅野美穂(46歳)が主演を務める『ゆりあ先生の赤い糸』(テレ朝)もホームドラマと言っていいだろう。

存在感も演技力もある40代女優が母親役を演じることで、同世代視聴者からの共感を得られるだけでなく、子ども役を演じる若手俳優のファンなどを含めた幅広い世代からの個人視聴率獲得が期待できる。

ホームドラマが連ドラの定番だった昭和から平成初期は、「1台のテレビを家族そろって見る」という視聴形態が一般的だった。令和の現在もその視聴形態が各局にとってのベストであることは変わらないが、「テレビ以外のデバイスで、さらに配信で別々でもいいから、家族それぞれの世代に見てもらいたい」からこそ、ホームドラマの存在価値が見直されているのかもしれない。

■ドラマ枠急増でキャスティング難航

連ドラ制作の背景でもう1つ忘れてはいけないのは、昨春からドラマ枠が増え続けてキャスティングが難航していること。特に出番の多い主演俳優のスケジュールを押さえる難しさは格段に増した。

昨春からゴールデン・プライム帯だけで、フジの水曜22時と金曜21時、テレ朝(ABC制作)の日曜22時、NHKの月~木曜10時45分が新設されたほか、深夜帯も各局で増設されている。さらに動画配信サービスの連ドラもあるほか、当然ながら映画や舞台などもあり、キャスティングの難易度が飛躍的にアップ。実際、どのプロデューサーに話を聞いても、「本当に厳しくなった」「希望通りにいくことはほとんどない」などと嘆く声が返ってくる。

そして、ドラマの放送数が増えると視聴者から「同じ主演俳優ばかり」「またこの人が主演?」という不満の声があがりやすい。「若手の人気者を起用した割に想定していたほどの結果が得られなかった」というリスクを避けるためにも、知名度と演技力を併せ持つ40代バイプレイヤー女優に白羽の矢が立ちやすくなっているのだろう。

小池栄子、板谷由夏、木南晴夏ほど知名度があり、演技力が認められている女優が「初主演」と大々的に報じられるPR効果は大きい。一方、視聴者にとっても、単に意外性があるだけでなく、「ずっと見てきた人だし、初主演作も見てみよう」「努力でつかんだ晴れ舞台を応援してあげたい」という気持ちになりやすいのではないか。

小池栄子に関しては、プロデュース・櫨山裕子、演出・中島悟、脚本・金子茂樹のトリオが出演作の『世界一難しい恋』『俺の話は長い』を手がけたこともポイントの1つ。『母になる』など、その他出演作での関連性も含め、彼女の魅力を知り尽くしたスタッフだからこそ「満を持して小池栄子の主演オリジナルドラマを作ろう」というポジティブな流れがうかがえる。

  • 小池栄子

    『コタツがない家』(日本テレビ系 18日スタート、毎週水曜22:00~)
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